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ガウス整数

$i=\sqrt{-1}$ を虚数単位として

\begin{displaymath}
R=\{\ a+bi\ \vert\ a,\ b \in \mathbb{Z}\}
\end{displaymath}

とおく. $R$ の二つの元 $\alpha=a+bi,\ \beta=c+di$ に対してその和・差・積は

\begin{eqnarray*}
\alpha\pm \beta&=&(a+bi)\pm(c+di)=(a\pm c)+(b\pm d)i\\
\alpha \beta&=&(a+bi)(c+di)=(ac-bd)+(ad+bc)i
\end{eqnarray*}

であるからふたたび $R$ に属する.つまり $R$ は環である. $R$ のことを ガウス整数環 , $R$ の元を ガウス整数 という. 略してガウス環ということもある. 以下この節で「整数」と言えば「ガウス整数」のこととし, 特に従来の整数を表すときは「有理整数」と言う.

$R$ の元 $\alpha=a+bi$ に対して $\bar{\alpha}=a-bi$$\alpha$ の共役という. これはふたたび整数で $R$ の元になる. ここで$R$ の元 $\alpha=a+bi$ に対して

\begin{displaymath}
N(\alpha)=\alpha\bar{\alpha}=a^2+b^2
\end{displaymath}

と定め, $\alpha$ノルム と呼ぶことにする.ガウス整数 $\alpha$ に対して ノルム $N(\alpha)$ は有理整数になる.また $N(\alpha \beta)=N(\alpha)N(\beta)$ が成り立つ.

$R$ の二つの元 $\alpha=a+bi,\ \beta=c+di$ に対してその商

\begin{displaymath}
\dfrac{\alpha}{\beta}=\dfrac{a+bi}{c+di}=\dfrac{ac+bd}{c^2+d^2}+\dfrac{bc-ad}{c^2+d^2}i
\end{displaymath}

は必ずしも整数でない. $\dfrac{\alpha}{\beta}=\gamma$ が再び整数であるとき, $\alpha$$\beta$ で割り切れると言い, $\alpha$$\beta$ の倍数, $\beta$$\alpha$ の約数,と言う.

有理整数で逆数もまた整数になるのは $1$$-1$ であった. ガウス整数ではどのようなものになるだろうか. $\alpha$ は逆数 $\dfrac{1}{\alpha}$ も整数であるとする. このとき

\begin{displaymath}
1=N \left(\alpha\cdot \dfrac{1}{\alpha} \right)
=N(\alpha)N \left(\dfrac{1}{\alpha} \right)
\end{displaymath}

$N(\alpha)\ge 0$なので $N(\alpha)=1$ でなければならない. つまり $\alpha=a+bi$ とすれば

\begin{displaymath}
a^2+b^2=1
\end{displaymath}

$a$$b$ は有理整数なので $(a,\ b)=(1,\ 0),\ (-1,\ 0),\ (0,\ 1),\ (0,\ -1)$ である. つまりガウス整数で逆数もまた整数になるのは

\begin{displaymath}
1,\ -1,\ i,\ -i
\end{displaymath}

の四個である.これらを $R$単数と呼ぶ.この四数が $R$ のノルム1の元である.

$\dfrac{\alpha}{\beta}$が単数であるとき, $\alpha$$\beta$同伴数という. $\alpha$ の同伴数は $\alpha,\ -\alpha,\ i\alpha,\ -i\alpha$ である.

二つの整数の割れる割れないの関係は,それらの整数を同伴数に置き換えて考えても 同じことになる.つまり整除の問題を考えるかぎり同伴数を同じ数のように考えて良い. これは有理整数の整除の問題では$\pm 1$の因数を度外視して良く,多項式環では0でない定数倍の違いを度外視して良いのと同じである.

定理 43 (ガウス整数環における除法の存在)
     $R$ の元 $\alpha$ $\beta\ (\beta\ne 0)$ に対して

\begin{displaymath}
\alpha=\beta \gamma+\rho\ ,\ \quad 0\le N(\rho)<N(\beta)
\end{displaymath}

となる $\gamma,\ \rho \in R$ が存在する. ■

証明     $\dfrac{\alpha}{\beta}=r+si$とおく. ここに $r,\ s$ は有理数である.

この $r,\ s$ に対して整数 $m,\ n$ $\vert r-m\vert\le\dfrac{1}{2},\ \vert s-n\vert\le\dfrac{1}{2}$ とることができる.

$\gamma=m+ni$とおく.

\begin{displaymath}
N\left(\dfrac{\alpha}{\beta}-\gamma\right)
\le\left(\dfrac{1}{2}\right)^2+\left(\dfrac{1}{2}\right)^2=\dfrac{1}{2}
\end{displaymath}

なので, $\rho=\alpha-\beta\gamma$ とおくと

\begin{displaymath}
N(\rho)=N\left(\beta\left(\dfrac{\alpha}{\beta}-\gamma\righ...
...c{\alpha}{\beta}-\gamma\right)\le\dfrac{N(\beta)}{2}<N(\beta)
\end{displaymath}

よって条件を満たすガウス整数$\gamma$$\rho$が存在した. □


このように除法の定理が成立する環をユークリッド整域というのだった.これで,整数環,整式環,ガウス環と三種のユークリッド整域を学んできたことになる. それらのカギになるのは,除法との関連で次のような「大きさ」が定義できたことであった.


\begin{displaymath}
\begin{array}{\vert c\vert l\vert ll\vert}
\hline
環&...
...ta \gamma+\rho&0\le N(\rho)<N(\beta)\\
\hline
\end{array}
\end{displaymath}

である.この大きさによって除法の定理が成立するのであった.

定理 44
     $\alpha,\ \beta\in R$ に対し,集合 $J$

\begin{displaymath}
J=\{\ \alpha x+ \beta y\ \vert\ x,\ y \in R\ \}
\end{displaymath}

する.このとき$J$ はある $R$ の元$\delta$の倍数全体になる. $\delta$は単数倍の違いを除いて一意に定まる.■

証明     $J$ の元のノルムの値の集合を考える. それは0と自然数の部分集合であるからそのなかに0でない最小のものが存在する. そのノルムを与える元を $\delta=\alpha x_0+\beta y_0$ とする.

$J$ の任意の元 $\alpha x+ \beta y$をとる.

\begin{displaymath}
\alpha x+ \beta y=\delta \gamma+\rho,\ \quad 0\le N(\rho)<N(\delta)
\end{displaymath}

である.

\begin{displaymath}
\rho=\alpha (x-\gamma x_0)+ \beta (y -\gamma y_0)\in R
\end{displaymath}

であるから, $N(\delta)$ の最小性により$\rho=0$である. よって$J$の元はすべて$\delta$の倍数である.

逆に$\delta$の倍数 $z\delta=\alpha(zx_0)+\beta(zy_0)$$J$に属することは明らかである.

また他の$\delta'$もノルム最小の元なら, $\delta$$\delta'$はノルムが等しいので単数倍違うのみである.□


この$\delta$$\alpha$$\beta$ の最大公約数という. ガウス環では除法を用いてユークリッドの互除法ができ $\alpha$$\beta$ の最大公約数$\delta$が単数倍の違いを除いて一意に存在することをが示された.

これによって整数環,多項式環の場合と同様に,ガウス環もまた単項イデアル整域である.


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