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ガウス素数

ノルムが1より大きいガウス整数は,単数とそれ自身の同伴数以外の約数をもたないとき ガウス素数と呼ばれる. すると有理整数の場合と同様に素因数分解ができる.分解の存在はノルムに関する 数学的帰納法でできる.一意性の証明は,有理整数に関する一連の性質をガウス環について おこなったうえで同様に示される.よってその証明は略する. 代わって、ツェルメロの証明をガウス素数の場合に行う.

定理 45
     すべての0でないガウス整数は一つの単数といくつかのガウス整数の積として 単数倍の違いを除いて一意的に書き表される.■

証明     異なる素因数分解をもつガウス整数の集合を考える. この集合に属するノルム最小のガウス整数を$\alpha$とする. $\alpha$は相異なる二つの因数分解をもつ.それを

\begin{eqnarray*}
n=\pi_1\pi_2\cdots \pi_r&&(N(\pi_1)\le N(\pi_2)\le \cdots \le...
...\cdots \rho_s&&(N(\rho_1)\le N(\rho_2)\le \cdots \le N(\rho_s))
\end{eqnarray*}

とする.ここに $\pi_1,\ \cdots,\ \pi_r,\ \rho_1,\ \cdots,\ \rho_s$ はガウス素数である.これが異なる因数分解ということは $r\ne s$か,または$r=s$$\pi_i$$\rho_i$が同伴数でない$i$が存在するか,のいずれかである.

また, $\pi_1,\ \cdots,\ \pi_r$のいずれも $\rho_1,\ \cdots,\ \rho_s$のいずれとも 同伴でない.なぜなら,もし$\pi_i$$\rho_j$が同伴なら, これを約せば$\alpha$よりノルムが小さいガウス整数で, 異なる素因数分解をもつものが得られ, $\alpha$がそのような数のなかでノルム最小であることに反する.

$N(\pi_1)<N(\rho_1)$とする. $\pi_1$と同伴な4数$\pi_1$$i\pi_1$$-\pi_1$$-i\pi_1$のうちには, $\rho_1$との偏角の差が $\dfrac{\pi}{4}$以下のものがある. それを$\epsilon\pi_1$とする. このとき, $N(\rho_1-\epsilon\pi_1)<N(\rho_1)$が成り立つ.

     ここでガウス整数$\beta$

\begin{displaymath}
\beta=\alpha-\epsilon\pi_1\rho_2\cdots \rho_s
=(\rho_1-\epsilon\pi_1)\rho_2 \cdots \rho_s
\end{displaymath}

で定める.

 

\begin{displaymath}
N(\beta)=N(\rho_1-\epsilon\pi_1)N(\rho_2 \cdots \rho_s)
<N(\rho_1)N(\rho_2 \cdots \rho_s)=N(\alpha)
\end{displaymath}

である.

$\beta$の因数分解における因数 $\rho_1-\epsilon\pi_1$$\pi_1$の倍数ではない. なぜならもし$\pi_1$の倍数なら$\rho_1$$\pi_1$の倍数となり互いに異なる素数であることに反する.よってこの因数分解に$\pi_1$は現れない.

一方$\beta$

\begin{eqnarray*}
\beta&=&\alpha-\epsilon\pi_1\rho_2 \cdots \rho_s\\
&=&\pi_1(\pi_2 \cdots \pi_r-\epsilon\rho_2 \cdots \rho_s)
\end{eqnarray*}

でもある. この$\beta$の因数分解には,因数$\pi_1$が現れている.

よって$\beta$の二つの因数分解は相異なる因数分解である.

$N(\beta)<N(\alpha)$なので, $\alpha$が異なる二つの因数分解をもつ最小の自然数であることと矛盾した.

したがって異なる二つの因数分解をもつ自然数は存在しない.□


ガウス環の素数はどのようなものか.

定理 46
     $p$ を奇素数とする. $p$ は次のいずれかである.
  1. ガウス素数である.つまり$R$のなかでも因数分解されない.
  2. あるガウス素数$\pi$ のノルムである, つまり$R$において $p=\pi\bar{\pi}$と因数分解され, $\pi$$\bar{\pi}$は同伴数でなく, さらにこのとき $p$$\pi$$\bar{\pi}$とその同伴数以外のガウス素因数をもたない.■

証明     $p$ をガウス環 $R$ で因数分解しそれを

\begin{displaymath}
p=\epsilon \pi_1\pi_2\cdots\pi_l
\end{displaymath}

とする.ここで $\epsilon$ は単数であり, $\pi_1,\ \pi_2,\ \cdots,\ \pi_l$は単数でないガウス素数である.

ノルムをとると

\begin{displaymath}
p^2=N(\pi_1)N(\pi_2)\cdots N(\pi_l)
\end{displaymath}

ここでどれかが $N(\pi_l)=p^2$ となれば他のノルムはすべて1で単数になる. ゆえにこの場合 $l=1$ $p=\epsilon\pi_1$ となり, $p$ がガウス素数である.

そうでなければ単数以外のノルムは $p$ であり, $l=2$

\begin{displaymath}
N(\pi_1)=\pi_l\bar{\pi_l}=p
\end{displaymath}

となり, $\bar{\pi_l}(=\pi_2)$ もガウス素数である.

$p=\pi\bar{\pi}$のとき $\pi$$\bar{\pi}$ が同伴数なら$\bar{\pi}$ $\pm \pi,\ \pm i\pi$ のどれかと一致する.

$\pi=x+iy$とすれば,$\pi$は虚数なので $\bar{\pi}=\pi$はない. $\bar{\pi}=-\pi$なら$x=0$で,このとき$p=y^2$となり, $\bar{\pi}=\pm i\pi$なら$y=\pm x$で,このとき$p=2x^2$となる. しかし,$p$は奇素数なのでこれらはあり得ない. □

$p=2$ のとき,その分解は

\begin{displaymath}
2=N(1+i)=(1+i)(1-i)=i^3(1+i)^2
\end{displaymath} (4.2)

で与えられる. 四つのガウス整数 $1+i,\ 1-i,\ -1+i,\ -1-i$は, もし単数でない二数に分解されれば,そのノルムも素数でない.よってこれら四整数は素数であり,

\begin{displaymath}
1-i=-i(1+i),\ -1+i=i(1+i),\ -1-i=-(1+i)
\end{displaymath}

より,互いに同伴である. 従ってまた因数分解(4.2)で「単数倍を除いて一意」であることは成立している.

補題 6
ガウス整数$\alpha=a+bi$$\lambda=1-i$で割りきれるための必要十分条件は, $a\equiv b\quad (\bmod.\ 2)$である. ■

証明      $a,\ b$ともに偶数なら,$\alpha=a+bi$が2で割り切れ, $\lambda$でも割り切れる. ともに奇数なら$a+bi-(1-i)$が2で割り切れ, これから$a+bi$$\lambda$で割り切れる. 十分性が示せた.

一方が奇数で他方が偶数のとき, $a+bi-1$において$a-1$$b$の偶奇が一致するので, $a+bi-1$$\lambda$で割り切れ, $\alpha=a+bi$$\lambda$で割り切れない. 必要性が示せた. □

$\lambda=1-i$で割り切れるか割り切れないかによって「偶数」,「奇数」 と読ぶ.ガウス整数の2での剰余類は

\begin{displaymath}
0,\ 1,\ i,\ 1+i
\end{displaymath}

で代表され,そのうち0と$1+i$が偶数,1と$i$が奇数である.

補題 7
ガウス整数$\alpha$$\lambda=1-i$で割りきれなければ, $\alpha^4-1$は8の倍数である. ■

証明      ガウス整数$\alpha$$\lambda=1-i$で割りきれないので, 補題6より$\alpha-1$または$\alpha-i$が2の倍数である. それぞれ$\alpha+1$または$\alpha+i$も2の倍数なので, $\alpha^2-1$または$\alpha^2+1$が4の倍数であり,他方も2の倍数である. よって$\alpha^4-1$は8の倍数である. □


では奇素数 $p$ がガウス環で分解されるか否かは何で決まるのか.

定理 47
     $p$ を奇素数とする.このとき

\begin{eqnarray*}
p\equiv 1\quad (\bmod.\ 4)&\iff&p=(a+bi)(a-bi)\ と分解さ...
...p\equiv 3\quad (\bmod.\ 4)&\iff&pはガウス素数である.
\end{eqnarray*}

が成り立つ.■

証明     $p$ がガウス素数のノルムであれば $p=(a+bi)(a-bi)=a^2+b^2$ となる. $p$ が奇素数なので $a$$b$ の一方のみが偶数で他方が奇数になる.

\begin{displaymath}
∴\quad p\equiv 1\quad (\bmod.\ 4)
\end{displaymath}

逆に $p\equiv 1 \quad (\bmod.\ 4)$ のとき.平方剰余の第一補充法則から$-1$$p$ を法とする平方剰余である.つまり

\begin{displaymath}
-1\equiv x^2\quad (\bmod.\ p)
\end{displaymath}

となる $x$ がある.ゆえに $x^2+1$$p$ の倍数である.ところがこのとき

\begin{displaymath}
x^2+1=(x+i)(x-i)
\end{displaymath}

なので,もし $p$ 自身がガウス素数なら $p$$x+i,\ x-i$のいずれかの約数でなければならないが, 明らかにそれはあり得ない.

したがって $p$ はガウス素数のノルムである.

$p\equiv 1 \quad (\bmod.\ 4)$ のときの必要十分性が示されたので, $p\equiv 3\quad (\bmod.\ 4)$についての命題も成立する. □

このことから「有理素数は,2か,または4を法として1に合同なときにかぎり,二つの平方数の和として一通りに書き表すことができる」ということがわかる.

本定理は平方剰余の第一補充法則を用いた.これを用いない初等的な大学入試問題がある.それを紹介しておきたい.2002年慶応大医学部問題(問題41)である.


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