ゼロ数,負数の導入とその加法・減法の諸法則の発見は中国が最初である. 『九章算術』 には「(引き算の時)同符号は引き,異符号は加える.正を無入から引いて負とし,負を無入から引いて正とする」との一文がある.「無入」はゼロのことである. 中国で発見された負の数は,インドに渡りそこで広がり,アラビアに伝わり,そして欧州にまで届いたのである.
整数の構成という問題を後で考えることにし,
自然数に0と負整数を加えた集合を整数の集合としで表す.
には二つの演算,加法と乗法が定義されている. それをそれぞれ「+」「」で表す. 「定義されている」ということは, の任意の二つの要素とに対し, 和と積が一意に定まり,ふたたびに属する,ということを意味する.
このとき加法と乗法について次のことが成り立つ,
集合の各要素を整数という. 実は「整数」の概念は,いま考えている整数よりはるかに広く,代数的整数といわれる世界がある. そのごく一部を後に紹介するが, 広がった概念の整数の世界のなかでは,いま考えている整数を有理整数という. これは「有理数に含まれる整数」という意味である. 区別する必要のないときは単に整数というものとする.
数学では考える対象を集合としてとらえる.あるいはある概念を構成すると,その概念に適応する対象の集合を考える.そのとき,その集合がどのような構造をもっているか,これが基本的な問題意識,探求の方向となる.代数的な対象からなる集合では,そこにどのような演算が定義されうるかによって,いくつかの構造が概念化されている.その基本的のものとして,整数の集合にかかわる群,環,体の定義をここで述べておく.
さらに,に対して を満たすとき,可換群 (または アーベル群 )であるという.
の任意の要素に対して
このようには環であるがしかし体ではない.体とは何か.
有理数ではを和, を積にするとき,体になる. これを有理数体という. 有理数体は,自然数を含む最小の体である. は整数に成り立つ基本性質に加えて
(iv) 0でない任意のに対してとなる要素が存在する. このをと表す.を加えたものである.
このような整数環,有理数体が実際に存在する,つまり構成できるのか.自然数の集合の存在を前提に,そこから構成することができなければならない.この問題は最終章でで考える.ここではとの存在を前提に除法について考察を深めよう.