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二次不定方程式のなかで,
の形をしたものを「ペル方程式」という.
ここで, は平方数でない整数である.
この方程式の意義に気づき本格的に研究したのはフェルマである.本来は「フェルマ方程式」
と呼ぶべきだが,オイラーがある手紙の中で(不注意で)「ペル(J.Pell 1611-1685)方程式」と
呼んだために,今では「ペル方程式」が定着している.
ペル方程式の場合も一次不定方程式の場合と同様,研究すべきは次の三項である.
- (i)
- ペル方程式の整数解の集合の構造
- (ii)
- ペル方程式に整数解が存在する証明
- (iii)
- ペル方程式の整数解を構成する方法
ちなみに『ペル方程式の解の構成』まで読み進めば のとき,
を満たす最小の正の整数解 は
であることがわかる! これを楽しみにして進もう.
ところで,日本の大学の入学試験で「ペル方程式の整数解の集合の構造」に関する問題が過去何回か出題されている.高校生諸君の勉強の便宜を考え,材料としていくつかの入試問題を掘りさげるところから始めよう.まず,同じ95年に出題された二つの問題と85年の問題を解いてみよう.
例 6.1.1
[大阪府立大95年]
に対して,
とする.次の問いに答えよ.
- (1)
- と を求めよ.
- (2)
-
とおく. と を
を用いて表せ.また,点
はすべて同じ曲線上にある. が成り立つことを利用して,
その曲線の方程式を求めよ.
それぞれの解答をつける.
例6.1.1の解
- (1)
-
となる
を求める.
であるから,
となり, を
消去すると となり,
,したがって
である.
つまり,
従って,
これを解いて,
- (2)
-
である.
両辺を二乗して辺々引くと
つまり
はすべて,曲線 の上にある.
注意 6.1.1
ここでは手短に求めたが,
計算を行う方法がいくつか参考書には載っているので,
それから求めても良い.
つまり,一般に二次行列はハミルトン・ケイレイの定理によって,
となる実数
,
があるので,
となり,三項間漸化式と同じ方法で
が求まる.
例6.1.2の解
- (1)
-
より
である.つまり,
より,逆に解いて,
である.したがって,
- (2)
-
よって である.
- (3)
- 府立大の問1と同様.ただし結果が与えられているので数学的帰納法で証明できる. ここでは数学的帰納法による証明をおこなおう.
のときは,明らかである.
のとき,成立するとする.すなわち
で定まる が
となるとする.
すると,
一方,
したがって, のときも成立する.
よってすべての自然数 に対して成立する.
- (4)
- を満たす正の整数の組 に対して,
とおく.
すると(2)より であるが,さらに
となるので, は を満たす正の整数の組である.
したがって,同じ操作を繰り返えすことができる.すなわち,順次
, , を定めることができる.このとき,
なので,ある番号 において
したがって となる.すなわち
が
となる.
つまり
である.
□
例6.1.3の解
- (1)
- 求める を
と置く.
,
つまり
である.
だから
.
つまり
かつ
.
よって, と辺々和と差をとることにより, が得られる.
したがって最小となるのは のときである.
- (2)
- の任意の二元 ,
について,
を示す.
であるが,ここで,
したがって, .
さらに,
より, の元である.
その積はつねに に属する. に属する元の積は再び に属する.よって
すべての整数に対して が示された.
- (3)
- とする. であるからはが増加すれば増加する.
今
となる最大の をとる.
したがって,
.
他方(2)と同様の考察により,
である.
したがって の最小性により,
でなければならない.
すなわち, である.
□
大阪府立大と明治大学の問題で記号の使い方が違うが,二つの集合を
とおくとき,大阪府立大の問題は,数列がペル方程式を満たすことを示せ,つまり
を示せといい,明治大の問題は,逆にそのペル方程式のすべての解がその数列から
得られることを示せ,つまり
を示せといっている.
必要条件と十分条件のそれぞれが同じ年に出題されたのである.
さらに,解の集合の構造がどのようになっているかについて,
観点を変えて出題したのが第三の東京工大の問題である.
ここには,この問題の本質的な解法が問われている.
東京工業大学の問題を一般化することでペル方程式の構造定理が得られる.
ペル方程式に 以外の解があることをこの節の最後に証明する.
まず,解に 以外の解があるなら解の集合がどのようなものになるか,
これを定式化する.
1985年の東京工業大学の入試問題は,そのまま一般の場合の構造定理になる.
さらにあわせて,数列との関係もまとめたのが次の構造定理である.
定理 57 (ペル方程式の解の構造定理)
を平方数ではない正の整数とし,二次不定方程式
を考える.
解
の部分集合
を次のように定める.
は
以外の解を持つとする.
に属し,
でかつ の値が最小となるものを
とする.
- (1)
-
および任意の整数 に対し,
で を定める. である.
- (2)
- のすべての元は,整数 に対して,
によって定まる で得られる.
すなわち次式が成立する.ただし, とする.
- (3)
- はまた行列
によって,
と書ける.
■
証明
- (1)
-
ここで,
よって, のとき成立する.
次に, これより
であるから,
かつ,
なので, のときも成立し,
で定まる について,
となった. そして,
は任意であるから,
帰納的にすべての整数 に対し成立する.
- (2)
- を の元で, である任意の元とする.
の最小性により,
となる が存在する. したがって,
ところが, (1)より
で定まる について,
である. したがって, の最小性により,
つまり, この場合ある によって,
となった.
次に, のとき,
で, この
について,
と表せば,
となり, この場合もある整数 によって,
となる.
逆に,
で定まる は, (1)
より の元であるから, これで集合 と集合
が一致す
ることが示された.
- (3)
-
とする.
よって,
となる. したがって,
□
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