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ディリクレの原理

ペル方程式 $x^2-Dy^2= \pm 1$ で解 $(\pm 1,\ 0)$を「自明な解」という. いつでも明らかに解になるからである.そこで以下でペル方程式に自明な解以外の 解が必ず存在することを証明する. 存在を保証するのは,ディリクレ(P.G.Dirichlet,1805-59)によって用いられた まことに巧妙な「鳩の巣原理」と呼ばれる原理である.

鳩の巣原理

補題 8
  1. 自然数$n$$k$に対し,$n$人の人を$k$個の部屋に入れることを考える. $n$$k$で割った商を$q$,余りを$r$とおく.もし$r>0$ならば, 少なくとも1つ,$q$人より多くの人が入った部屋が存在する.
  2. 整数 $a_1,\ a_2,\ \cdots ,\ a_n$ は, すべて $1 \le a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n \le n$ を満たし, さらにすべて異なる. このとき $a_1,\ a_2,\ \cdots ,\ a_n$$1〜n$の値を一回ずつとる. ■

証明
  1. もしどの部屋も$q$人以下なら,合計人数は$qk$人以下になり$n-qk=r>0$に反する. ゆえに$q$人より多くの人が入った部屋が存在する.
  2. もし $a_1,\ a_2,\ \cdots ,\ a_n$ のなかに,$1〜n$ でとらない値があったとする. その値を除く数を記した箱を用意する.箱の数は $n-1$ 個以下になる. 数 $a_1,\ a_2,\ \cdots ,\ a_n$をその値にしたがってこれらの箱に入れる.鳩の巣原理によって 同じ箱に入るものが少なくとの一組できる.これは $a_1,\ a_2,\ \cdots ,\ a_n$の値が すべて異なることに矛盾する. ゆえに $a_1,\ a_2,\ \cdots ,\ a_n$$1〜n$の値を一回ずつとる. □

この明快な原理によって次のディリクレによる定理が示され, これをもとにペル方程式の解の存在が示される. 次の定理はすでに無理数の連分数展開を用いて 系54.1で示されているのであるが, 次のように直接に示すことができる.

定理 58
$\omega$ を与えられた無理数とする.このとき

\begin{displaymath}
\vert x-\omega y\vert < \dfrac{1}{y}
\end{displaymath}

となる整数 $x,\ y$無数に 存在する. ■

証明    

  1. 任意の自然数 $n$ に対して,

    \begin{displaymath}
0<y\le n, \,\, \vert x-\omega y\vert<\dfrac{1}{n}
\end{displaymath}

    となる整数$(x,\ y)$ が少なくとも一組存在すること示す.

    実数 $a<b$ に対して $a$ を含み $b$ を含まない区間を $[a,b)$ と表す. 区間 $[0,1)$ を次のように $n$ 等分する.

    \begin{displaymath}
\left[0,\dfrac{1}{n}\right),\,\,\left[\dfrac{1}{n},\dfrac{2}{n}\right),
\cdots ,\left[\dfrac{n-1}{n},1\right)
\end{displaymath}

    $ p $ に $ 0,1, \cdots , n $ の各値を与え,その $ p $ に対して, $ \omega p $ を超えない最大の整数を $ q $ とする. \[ 0 \leqq \omega p-q < 1 \] である.これらは全部で $ n+1 $ 個あるので, 鳩の巣原理によって上の $ n $ 個のうち少なくとも一つの区間には, 二つ以上の $ \omega p-q $ が属する. $ \omega p_1-q_1 $ , $ \omega p_2 -q_2 $ , $ p_1\ne p_2 $ に対応する2つが同じ区間に属するとする.つまり \[ |(\omega p_1-q_1)-(\omega p_2-q_2)| < \dfrac{1}{n} \] $ p_1 >p_2 $ とし, $ x=q_1-q_2,\ y=p_1-p_2 $ とおく. この $ (x,\ y) $ に対して \[ |\omega y-x| < \dfrac{1}{n} \] である.
  2. 各自然数 $n$ に対して $0<y\le n$ $\vert\omega y-x\vert < \dfrac{1}{n}$ となる $(x,\ y)$ が 存在した. $n$ を動かすとき, これらの $(x,\ y)$のなかに相異なるものが無数にあることを示す.

    もし有限個しかなかったとする. そのなかで $\vert\omega y-x\vert$ の値が最小のもの を $\vert\omega y_0-x_0\vert$ とする.それに対して,

    \begin{displaymath}
\dfrac{1}{n}<\vert\omega y_0-x_0\vert
\end{displaymath}

    となる $n$ をとる. この $n$ に対して再び, $\vert\omega y-x\vert < \dfrac{1}{n}$ と なるように$(x,\ y)$を選ぶことができる.ところが

    \begin{displaymath}
\vert\omega y-x\vert<\dfrac{1}{n}<\vert\omega y_0-x_0\vert
\end{displaymath}

    なので, $(x_0,y_0)$ の最小性と矛盾した.

    よって相異なるものは無数にある. $\dfrac{1}{n}<\dfrac{1}{y}$なので

    \begin{displaymath}
\vert\omega y-x\vert < \dfrac{1}{y}
\end{displaymath}

    となる$(x,\ y)$が無数にあることが示された.□

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