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ペル方程式の解の存在

さていよいよ存在定理に進もう.ペル方程式の解の存在は 後の「構成定理」からも示される.つまり,つねに解を構成する方法があることが証明されれば, 結果として解の存在も示される.しかし,一般的には「存在するが一般的構成法はない」と いうことがある(例,五次方程式の解の公式」)ので,直接存在が示せるならばその証明は 重要である.以下に直接証明を行う.

定理 59
     $D$ が正の整数で,かつ $\sqrt{D}$ が無理数であるとする.このとき方程式

\begin{displaymath}
x^2-Dy^2=1
\end{displaymath}

は,自明でない整数解 $(X,Y) ,\,(X>0,Y>0)$ をもつ. ■

証明      定理58 により,

\begin{displaymath}
\vert x-\sqrt{D}y\vert < \dfrac{1}{y}
\end{displaymath}

となる $(x,y)\ x>0,\ y>0$ が無数に存在する. つまり

\begin{displaymath}
-\dfrac{1}{y}<x-\sqrt{D}y<\dfrac{1}{y}
\end{displaymath}

従って $x+\sqrt{D}y<\dfrac{1}{y} +2 \sqrt{D}y$ $\vert x-\sqrt{D}y\vert <\dfrac{1}{y}$ と乗じて,

\begin{displaymath}
\vert x^2-Dy^2\vert < \dfrac{1}{y^2}+2 \sqrt{D} \le 1+2 \sqrt{D}
\end{displaymath}

この不等式の右辺は $(x,\ y)$ に無関係である.

$x^2-Dy^2$ $-(1+2 \sqrt{D})$ $(1+2 \sqrt{D})$ の間にある(有限個の)整数の うちのいくつかと一致する. ところが $(x,\ y)$ の組は無数のあるので少なくとも一つの整数 $l$ に対して,

\begin{displaymath}
x^2-Dy^2 =l
\end{displaymath}

は無数の解をもつ.

整数を $l$ で割った余りで分類すると, $l$組に分類される.整数の組 $(x,\ y)$ は, $l^2$ 個の有限個に分類される.他方 $(x,\ y)$ は無数だから,分類されたどれかの組には無数 の$(x,\ y)$ が属する.

$(s,t), \, (u,v)$ が同一の組に属するとする.

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
u=s+kl\\
v=t+hl
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

とおく.

$tu-sv=(kt-hs)l$ である. $Y=(kt-hs)$ とおく.

一方 $s^2-Dt^2=l,\,u^2-Dv^2 =l$ であるから,

\begin{eqnarray*}
l^2 &=& (s^2-Dt^2)(u^2-Dv^2) \\
&=& (su-Dtv)^2-D(sv-tu)^2\\
&=& (su-Dtv)^2-DY^2l^2
\end{eqnarray*}

つまり $(su-Dtv)^2$$l^2$ で割り切れ,したがって $(su-Dtv)$$l$ で割り切れる. $su-Dtv=Xl$ と置く. かくして

\begin{displaymath}
(Xl)^2-D(Yl)^2=l^2
\end{displaymath}

つまり,

\begin{displaymath}
X^2-DY^2=1
\end{displaymath}

ゆえに解 $(X,Y)$$x^2-Dy^2 =l$ の解である. □


この定理によってペル方程式はつねに自明でない解をもち, したがって前節の構造定理が空論ではないことが保証されるのである.


Aozora Gakuen