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ある問題と一般化

太郎  次のような問題に出会いました.鳩の巣原理を使う練習問題でした.


例題 0.1  

  1. 6人の人がいる. どの2人も,互いに知り合いであるかまたは見ず知らずであるか,いずれかとする. すると,お互いに知り合いである3人がいるか, お互いに見ず知らずである3人がいるか,いずれかが成り立っていることを示せ.
  2. 平面に17個の点がある.各2点は赤,青,黒のいずれかの線分で結ばれている. このとき3辺が同じ色の三角形が存在することを示せ.

解答

  1. 6人を平面上の6点 $\mathrm{A}_0,\ \mathrm{A}_1,\ \cdots\ \mathrm{A}_5$に対応させる. 知り合いの場合は赤の線分で結び, 見ず知らずの場合は青の線分で結ぶ.

    $\mathrm{A}_0$からは5本の線分が出ている.$5=2\cdot 2+1$なので赤か青かのいずれかは 3本以上である.赤が3本以上出ているとし,$\mathrm{A}_0$とそれらの線分で結ばれた点のうち の3点を $\mathrm{A}_1,\ \mathrm{A}_2,\ \mathrm{A}_3$とする. この3点を結ぶ3本の線分のなかに赤があるとする. それを $\mathrm{A}_1\mathrm{A}_2$とすると, 3点 $\mathrm{A}_0,\ \mathrm{A}_1,\ \mathrm{A}_2$に対応する3人は互いに知り合いである.

    $\mathrm{A}_1,\ \mathrm{A}_2,\ \mathrm{A}_3$を結ぶ3本の線分がすべて青とする.この場合, この3点に対応する3人は互いに見ず知らずである.

    赤青逆の場合も同様に示される.

  2. 17個の点を $\mathrm{A}_0,\ \mathrm{A}_1,\ \cdots,\ \mathrm{A}_{16}$ で表す.これらの点が互いに青色,赤色,黒色の線分で結ばれている.

    $\mathrm{A}_0$から出ている16本の線分を考える. $16=5\cdot3+1$なので,少なくともひとつの色については6本の線分が出ている.その色を 青とし,それらの端点を $\mathrm{A}_1,\ \mathrm{A}_2,\ \cdots,\ \mathrm{A}_6$とする.

    これら6個の点を結ぶ線分の中に青色があればその線分の両端の点と $\mathrm{A}_0$でできる三角形が題意を満たす.

    もしこれらの線分が赤色と黒色のみであったとする.

    この6点のうちには(1)により,赤か黒の三角形が少なくとも一つは存在する.

    したがって3辺が同じ色の三角形が存在することが示された.

太郎  これを 有限個の点がある.各2点を定まった色で塗り分ける場合, 点がいくつあれば,3辺が同色の三角形がつねに存在すると言えるのか. という問題に一般化してみました. 色の数を$n$とし,次の漸化式で定まる数列$\{a_n\}$を考えました. 色が一色の場合,3点あればよいので,$a_1=3$とします.

定理 1        次の漸化式で数列$\{a_n\}$を定める.
\begin{displaymath}
a_1=3,\
a_{n+1}-1=(n+1)(a_n-1)+1
\end{displaymath}

平面上に$a_n$個の点がある. 各2点をどのように$n$色で塗り分けても, つねに同色の三角形が存在する. ■

証明      $n$に関する数学的帰納法で示す. $n=1$のときは成立するので,$n$のとき$a_n$点あれば同色の3辺の三角形が存在するとする.

$a_{n+1}$個の点を $\mathrm{A}_0,\ \mathrm{A}_1,\ \cdots,\ \mathrm{A}_{a_{n+1}}$ で表す.これらの点が互いに色1,色2,…色$n$の線分で結ばれている.

$\mathrm{A}_0$から出ている$a_{n+1}-1$本の線分を考える. $a_{n+1}-1=(n+1)(a_n-1)+1$なので,少なくともひとつの色については$a_n$本の線分が出ている. その色を色1とし,それらの端点を $\mathrm{A}_1,\ \mathrm{A}_2,\ \cdots,\ \mathrm{A}_{a_n}$とする.

これら$a_n$個の点を結ぶ線分の中に色1があればその線分の両端の点と $\mathrm{A}_0$でできる三角形が題意を満たす.

もしこれらの線分が色2〜色$n$であったとする. この$a_n$点のうちには帰納法の仮定によって,3辺が色2〜色$n$のいずれかの三角形が少なくとも一つは存在する.

したがって3辺が同じ色の三角形が存在することが示された.  □

太郎  この一般項は求まるのでしょうか.

南海  このように問題を一般化してとらえようとすることは,大切なことだ.

次のようにすれば,$a_n$を書くことができる.

\begin{displaymath}
\dfrac{a_{n+1}-1}{(n+1)!}=\dfrac{a_n-1}{n!}+\dfrac{1}{(n+1)!}
\end{displaymath}

と変形する.よって
\begin{displaymath}
\dfrac{a_n-1}{n!}=a_1-1+\dfrac{1}{2!}+\dfrac{1}{3!}+\cdots+\dfrac{1}{n!}
=\sum_{k=0}^n\dfrac{1}{k!}
\end{displaymath}

である.一方,$e$を自然対数の底とすると
\begin{displaymath}
e=\sum_{k=0}^{\infty}\dfrac{1}{k!}=\sum_{k=0}^{n}\dfrac{1}{k!}+\sum_{k=n+1}^{\infty}\dfrac{1}{k!}
\end{displaymath}

であるが,ここで
\begin{eqnarray*}
\sum_{k=n+1}^{\infty}\dfrac{1}{k!}&=&\dfrac{1}{(n+1)!}
\left...
...1)!}\cdot\dfrac{1}{1-\dfrac{1}{n+2}}
=\dfrac{n+2}{(n+1)!(n+1)}
\end{eqnarray*}

よって
\begin{displaymath}
\dfrac{a_n-1}{n!}<e<\dfrac{a_n-1}{n!}+\dfrac{n+2}{(n+1)!(n+1)}
\end{displaymath}

つまり
\begin{displaymath}
a_n-1<en!<a_n-1+\dfrac{n+2}{(n+1)!(n+1)}<a_n
\end{displaymath}

この結果
\begin{displaymath}
en!<a_n<en!+1
\end{displaymath}

$a_n$は正整数なので,
\begin{displaymath}
a_n=[en!+1]
\end{displaymath}

と表される.ただし,実数$x$に対して$[x]$$x$を超えない最大の整数を表す.  □

太郎  確かに

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
a_1=[e+1]=3,\ a_2=[2e+1]=6,\ \\
a_3=...
...7\ (17.2=6\cdot 2.7+1<6e+1<6\cdot 2.72+1=17.32)
\end{array}
\end{displaymath}

です.

太郎  色の数を一般化しましたが,さらに一般化はできるのでしょうか.

南海 

2点ずつ結んだ線分を$n$色で塗り分ける.
3点を選ぶとその3つの辺の色が同じである.
$r$個の点を結んだ多辺形を$n$色で塗り分ける.
$q$個の点を選ぶとそのうちの$r$個の点を結んだ多辺形はいずれも色が同じである.
とする.また集合$X$の各元を$n$色で塗り分けるとは, $X$から, $\{1,\ 2,\ \cdots,\ n\}$への写像を定めることに他ならない. さらに「$q$個の点」と言うところを,色によってその個数の指定を変えてもよい. つまり $i=1,\ 2,\ \cdots,\ n$に対して「$q_i$個の点」としたほうがより一般的になる.

その上で,先の問題を一般化すれば次のようになる.

集合$U$$u$個の元からなるすべての部分集合の集合を$P(u\ ;\ U)$と表す.

定理 2       
\begin{displaymath}
q_k\ge r \ge 1\quad ,\ k=1,\ 2,\ \cdots,\ n
\end{displaymath}

をみたす整数の組 $r,\ q_1,\ q_2,\ \cdots,\ q_n$を任意に定める. このとき,次の命題が成立する整数$R$が存在する.
命題:
$N$$N\ge R$をみたす自然数とする. $N$個の元からなる集合$S$および $P(r\ ;\ S)$から $\{1,\ 2,\ \cdots,\ n\}$への任意の写像$\chi$に対し
\begin{displaymath}
V\in P(q_k\ ;\ S)\ かつ\ \chi(P(r\ ;\ V))=k
\end{displaymath}

となる組$(V,\ k)$が存在する.

今後は,色の塗り分けで考えたり,写像$\chi$で考えたりするが, それは同じことである.


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Aozora
2015-03-04