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なぜ「微積分の基本定理」?

史織 図書館で参考書を見ていたら

\begin{displaymath}
\dfrac{d}{dx}\int _a^xf(t)\,dt=f(x) \quad \cdots \maru{1}
\end{displaymath}

が,微分積分の基本定理と書いてありました. でも高校の教科書では,
$F(x)$$f(x)$の原始関数とするとき, 定積分 $\displaystyle \int _a^xf(t)\,dt$

\begin{displaymath}
\int _a^xf(t)\,dt=F(x)-F(a)
\end{displaymath}

で定める.
となっています. $f(x)$の原始関数とは微分すれば$f(x)$となる関数のことですから, $\maru{1}$が成り立つのは当然で, 「基本定理」というようなことではないはずです.

南海  なるほど.最近はこれを基本定理と書くことはまずない. しかし昔の参考書などには,基本定理と書かれていることも多い. 教科書の記述が,1970年代に大きくかわったのだ. 教科書にどのように書かれているのかということと, 事実として,微分や積分の基本事項は何なのかということを, 考えて見よう.

現在の教科書にはどのように書いてあるのか見てみよう. 手元にあるのは「数研出版」の1997年版の教科書だが, 現在のものと大きくはかわっていない.次のような流れになっている.

  1. 函数$f(x)$に対してF'(x)=f(x)となる関数$F(x)$を, $f(x)$の不定積分,または原始関数という.
     
  2. 区間$[a,b]$で常に$f(x)\ge 0$のとき, 区間$[a,x]$$x$軸と$y=f(x)$のグラフ, および$x$軸の点 $(a,\ 0),\ (x,\ 0)$を通る2直線で囲まれた図形の面積を$S(x)$とする. このとき
  3. \begin{displaymath}
S'(x)=f(x)
\end{displaymath}

    が成り立つ.
  4. このことは$S(x)$$f(x)$の原始関数の一つであることを意味するので, $S(x)$$f(x)$の任意の原始関数$F(x)$を用いて $S(x)=F(x)-F(a)$と表される.

    そこで,$f(x)$$a$から$b$までの定積分を

    \begin{displaymath}
\int _a^bf(x)\,dx= \biggl[F(x) \biggr]_a^b=F(b)-F(a)
\end{displaymath}

    で定義する.(以上数学II)
  5. 区間$[a,b]$$n$等分して

    \begin{displaymath}
a=x_0,\ x_1,\ \cdots,\ x_n=b
\end{displaymath}

    とし, $\mit{\Delta} x=\dfrac{b-a}{n}$とおくとき,

    \begin{displaymath}
\int_a^bf(x)\,dx=\lim_{n \to \infty}\sum_{k=1}^nf(x_k)\mit{\Delta} x
\end{displaymath}

    が成り立つ(数学III).

このようになっている.一番重要なところは,(2)である. その証明は教科書によって書かれていたりいなかったりする. それをここで書いておこう.


(2)の証明      $y=f(x)$$x$軸および $(a,\ 0),\ (x,\ 0)$を通る$y$軸に平行な 2直線で囲まれる図形の面積を$S(x)$とおく.

$x$に対して増分$\mit{\Delta}x$をとり小区間 $[x,\ x+\mit{\Delta}x]$での最小値を $m$,最大値を$M$とする.

\begin{displaymath}
m \cdot\mit{\Delta}x \le S(x+\mit{\Delta}x)-S(x)\le M \cdot\mit{\Delta}x
\end{displaymath}

$\mit{\Delta}x \to 0$のとき $m,\ M \to f(x)$である.よって

\begin{displaymath}
m \le \dfrac{S(x+\mit{\Delta}x)-S(x)}{\mit{\Delta}x} \le M
\end{displaymath}

より

\begin{displaymath}
\lim_{\mit{\Delta}x \to 0 } \dfrac{S(x+\mit{\Delta}x)-S(x)}{\mit{\Delta}x} =f(x)
\end{displaymath}

したがって

\begin{displaymath}
S'(x)=f(x)
\end{displaymath}

である.
(証明終わり)

あわせて(3)のはじめのところは次のように示される. ここで $f(x)$の原始関数を$F(x)$とする. $S'(x)-F'(x)=0$なので,

\begin{displaymath}
S(x)=F(x)+C
\end{displaymath}

とおける.$S(a)=0$なので$C=-F(a)$

\begin{displaymath}
∴ \quad S(x)=F(x)-F(a) \quad つまり\int _a^bf(x)\,dx= \left[F(x) \right]_a^b=F(b)-F(a)
\end{displaymath}

が成り立つ.

高校数学としては,ここが一番重要なところだ.

史織  すると「$y=f(x)$$x$軸に囲まれた図形の面積は,$f(x)$の 原始関数で求めることができる」ということになります. これが「微積分の基本定理」なのですか.

南海  この面積とその導関数の関係は重要で,これを発見するまで, 面積を求めるのに人間はずいぶんと苦労した.

これは大切なことではあるのだが, 教科書では,この面積とその導関数の関係を根拠に,定積分を(2)で, つまり原始関数の値の差として定義する.

史織  しかしそうしてしまうと$\maru{1}$が成り立つのは当然で, $\maru{1}$を基本定理というほどのことはなくなります.

どういうことでしょうか.

南海  このように学校では原始関数の値の差として定積分を定義するのだが,実際にそれですべて計算されているかというと, そうではない.最近,掲示板のnayutaさんの投稿で教えられた例を示そう.

例題 0.1.1        定積分

\begin{displaymath}
\int_{-1}^3\left\vert x(x-1) \right\vert\,dx
\end{displaymath}

を計算せよ.

史織 

\begin{displaymath}
\left\vert x(x-1) \right\vert=
\left\{
\begin{array}{ll}...
...(x\le 0,\ 1\le x)\\
-x(x-1)&(0<x<1)
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

なので,

\begin{eqnarray*}
\int_{-1}^2\left\vert x(x-1) \right\vert\,dx&=&
\int_{-1}^0x...
...ght)
+\left(\dfrac{27}{3}-\dfrac{9}{2} \right)
=\dfrac{17}{3}
\end{eqnarray*}

南海  関数 $\left\vert x(x-1) \right\vert$の原始関数$F(x)$は?

史織 

\begin{displaymath}
F(x)=
\left\{
\begin{array}{ll}
\dfrac{x^3}{3}-\dfrac{...
...-\dfrac{x^3}{3}+\dfrac{x^2}{2}&(0<x<1)
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

ではないのですか.

南海  それで$F(3)-F(-1)$を計算すると?

史織 

\begin{displaymath}
\left(\dfrac{3^3}{3}-\dfrac{3^2}{2} \right)
-\left(\dfrac{-1}{3}-\dfrac{1}{2} \right)
=\dfrac{16}{3}
\end{displaymath}

あれっ,あわない.

南海  グラフはどうなる.

史織 

あっ,$x=1$で連続ではない. 連続でなければ微分可能でないから,原始関数ではない.連続にするためには

\begin{displaymath}
F(x)=
\left\{
\begin{array}{ll}
\dfrac{x^3}{3}-\dfrac{...
...ac{x^2}{2}+\dfrac{1}{3}
&(1\le x)\\
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

としなければならない.こうすると微分可能になる.そのグラフが右です.

これを$F(x)$に取り直して$F(3)-F(-1)$を計算すると,

\begin{displaymath}
\left(\dfrac{3^3}{3}-\dfrac{3^2}{2}+\dfrac{1}{3} \right)
-\left(\dfrac{-1}{3}-\dfrac{1}{2} \right)
=\dfrac{17}{3}
\end{displaymath}

となり,確かに定積分が原始関数の値の差になっています. しかし,この問題の計算ではいちいち原始関数は求めません.

南海  そうなのだ.この場合は面積の方から考えている. だから高校微積の定義と方法は一貫していない. このように,定積分の定義やその意味については, もうすこし深く考えなければならない.

そのために, まず,歴史的に面積を求める方法を振り返ろう.


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Aozora
2013-06-28