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定積分の定義

南海  かつて定積分は異なる道筋で定義されていた. 原始関数の差で定積分を定義するのは日本の高校教科書くらいなものだ. 1990年代の高校課程の改訂でこうなった. かつてどのようになされていたのか,ふりかえろう.

手元に1969年の日本書院の教科書がある. 数学IIBと数学III では区間の分割が等分か任意の分割かが違うのだが, 本質的に同じなので,ここでは数学III の定義を紹介しよう. 次のように書かれている.


関数$y=f(x)$は閉区間$[a,b]$で連続とする.

この区間を図のように$(n-1)$個の点

\begin{displaymath}
x_1,\ x_2,\ \cdots ,\ x_{n-1}
\end{displaymath}

$n$個の小区間

\begin{displaymath}[a,\ x_1],\ [x_1,\ x_2],\ \cdots ,\ [x_{n-1},\ b]
\end{displaymath}

に分ける.それら小区間内にそれぞれ任意の点

\begin{displaymath}
t_1,\ t_2,\ \cdots,\ t_n\quad \cdots\maru{2}
\end{displaymath}

をとって,和

\begin{displaymath}
S_n=\sum _{k=1}^nf(t_k)(x_k-x_{k-1})
\end{displaymath}

を作る.

すべての小区間の長さが,いずれも0に近づくように$n$を限りなく大きくするとき, $\maru{2}$の点のとり方にかかわらず, 和$S_n$は一定の極限値に近づくことが知られている.


この極限値を,関数$f(x)$の区間$[a,b]$における定積分といい

\begin{displaymath}
\int_a^bf(x)\,dx
\end{displaymath}

で表す.

史織  区分求積法に出てくる和の極限値が定積分の定義なのですね. つまり,現在の教科書で区分求積法といわれる(3)は, じつは定積分の定義なのですね.

南海  そうなのだ,1969年にはこのように書かれていた. 連続なら収束することは,証明はないが正しく指摘されている. さらに,1984年に初版が出た『問題新集     微分・積分基本500選』(科学新興社)では, まとめに次のように書かれている.


$a<b$とする.$f(x)$を区間$[a,b]$で定義された関数とする.分割

\begin{displaymath}
\mit{\Delta} : a=x_0<x_1<x_2< \cdots <x_{n-1}<x_n=b
\end{displaymath}

により,$[a,b]$$n$個の小区間

\begin{displaymath}[x_0,\ x_1],\ [x_1,\ x_2],\ \cdots ,\ [x_{n-1},\ x_n]
\end{displaymath}

に分ける. 各小区間に属する任意の点 $c_k\ (k=1,\ 2,\ ,\cdots,n)$をとる. また, $k=1,\ 2,\ ,\cdots,n$に対する小区間の幅$x_k-x_{k-1}$の 最大値を $\vert\mit{\Delta}\vert$で表す.

    極限値

\begin{displaymath}
S=\lim_{\mit{\Delta} \to 0}\sum _{k=1}^nf(c_k)(x_k-x_{k-1}) \quad \cdots \maru{3}
\end{displaymath}

が存在するとき, $f(x)$$[a,b]$で積分可能であるといい,

\begin{displaymath}
S=\int_a^bf(x)\,dx
\end{displaymath}

と定める.

南海  これが正確な定積分の定義だ. この和

\begin{displaymath}
\sum _{k=1}^nf(c_k)(x_k-x_{k-1})
\end{displaymath}

を「リーマン和」という. リーマン(Riemann,1826〜1866)は19世紀ドイツの数学者である. 現代にいたってますますその偉大さが際立ってくる人だ..

この定義では「$S$が存在するとき」と書かれているがそれは

\begin{displaymath}
\vert\mit{\Delta}\vert \to 0 となるどのような分割についても同一の値に収束するとき
\end{displaymath}

ということだ.だから値が存在するときは, 分割を区間$[a,b]$$n$等分するものにとって値を計算してよく, それが区分求積法の計算式

\begin{displaymath}
\lim_{n \to \infty}\dfrac{b-a}{n}\sum_{k=0}^{n-1}f \left(a+\dfrac{b-a}{n}k\right)
\end{displaymath}

だ.その上で,微積分の基本定理である.

関数$f(x)$が区間$I$で連続ならば,$I$の点$a,\ x$に関して,$x$の関数

\begin{displaymath}
F(x)=\int_a^x f(t)\,dt \quad は \quad F'(x)=f(x) \quad を満たす
\end{displaymath}

つまり,

\begin{displaymath}
\dfrac{d}{dx}\int _a^xf(t)\,dt=f(x)
\end{displaymath}

である. その結果として, 関数$f(x)$が区間$I$で連続で,$F(x)$$f(x)$の原始関数ならば,

\begin{displaymath}
\int _a^bf(x)\,dx= \left[F(x) \right]_a^b=F(b)-F(a)
\end{displaymath}

が成り立つ.

史織 $\maru{3}$の極限が$f(x)$が連続なら存在するのですか.

南海  そうだ.理論的にはそこが肝心なところなのだ.その証明自体は高校範囲を超える. 大切なことは,積分は$\maru{3}$の和の極限として定まり, $f(x)\ge 0$の所では$y=f(x)$$x$軸で囲まれた図形の面積だ,ということだ.

史織  そうすると,この定積分の定義と面積の関係は, $y=f(x)$のグラフと$x$軸で囲まれた図形の$x$軸の上にある部分の面積を$+$で, 下にある部分の面積を$-$でとり加えたものになるのですね.

南海  その通りだといいたいのだが,しかしここには一つの問題が潜んである. それは何かというと,そもそも面積とは何か,という問題だ.

史織  当然のように面積を全体に考えてきましたが,複雑な関数で面積とは何か. たしかに,この面積という数値をどのように求めるのか. これ自体が定義されていない,ということですね.

南海  実は,$f(x)\ge 0$のとき,定積分 $\displaystyle \int_a^bf(x)\,dx$の値をもって, $f(x)$$x$軸と$x=a,\ x=b$で囲まれた図形の面積と定義する.

史織  そうすると,いま言った,定積分と面積の関係は定義そのもになる.

南海  この観点で最初から書いたのが,『解析基礎』だ.高校生が読むのも不可能ではない.


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Aozora
2013-06-28