耕一 では5次以上の方程式ではどうなのでしょうか．
南海 その問題を解決し， わずか21歳のとき決闘で死んだフランスの天才数学者エバリスト・ガロアの話をしよう．
ガロア（Évariste Galois（1811.10.25〜1832.5.31））は，フランス革命から20年の後，
ナポレオン1世がフランス皇帝の時代にパリ郊外に生まれた．
15歳の頃，学校で数学の勉強をして強い興味を感じたけれど， 間もなく教科書での方法に不満を感じて，数学の専門書を自分で読んで勉強した．
17歳の時にはすでに方程式論において重要な発見をしていたらしい．
工科大学の受験に2回失敗した．失敗したのは面接官の質問が余りに簡単で， ガロアには幼稚に見え，まともに答えなかったためだといわれている． ようやく1829年に高等師範学校（エコール・ノルマル：フランスの最難関大学）にはいった．
1829年の春頃から数学の論文を書いて発表するようになったが，提出した原稿が紛失してしまったり， 審査する学者に理解できない内容であったために掲載を拒否されたりし， 生前に印刷公表された論文はほとんどない．
ガロアが研究していたのはどんなことだったのだろう．当時の多くの数学者は
この問題を根本から考え解いたのは2人の若い数学者だった．そして2人とも若くして死んだ． 一人がガロア，もう一人が，ノルウェーの数学者アーベル （Niels Henrik Abel ニールス＝ヘンリク―，1802〜29）．アーベルが 最初に5次以上の代数方程式が代数的に（つまり，加減乗除と根号で）解き得ないことを証明した． その内容は当時誰にも理解されず，貧しく病弱だった． ようやくある大学の講師の職を得たとき病気で死んだ．
ガロアはアーベルのことを知らずに独力で同じ結論とさらに深い代数学の理論に到達していた． ガロアがアーベルのことを知ったとき，アーベルはもうこの世にいなかった．
その理論は余りにも当時の水準からかけ離れていた．だから誰にも理解されなかった． 日本の大学では数学科に進めばやっと3年生で習う．
当時のヨーロッパは日本の幕末から明治維新の時代のように激しい時代だった．フランスは， ナポレオンのあとウイーン会議を経てフランス革命の成果をなしにしようとする反動の時代にあった． ガロアの純粋な精神は反動政治を許そうとせず，エコール・ノルマル在学中から共和派として 革命運動に参加，せっかく入った大学を1年で退学処分にされている． その後ガロアは政治活動に熱中，投獄され数ヶ月をPélage の獄舎で過ごした．仮出獄中， 反動派によって決闘をする羽目に陥れられ，殺されたのだ．決闘した殺し屋は， 相手のガロアがどんなすばらしい数学者であるかまったく知らない． 決闘は 1832年5月30日に行われることになった．自分の中にすばらしい数学の発見があるのに， それは自分にはわかっているのに，それを誰にも知らせずに死ぬかもしれない． そんなことはできない．彼は徹夜でそれまでに得た数学の結果をまとめて， 友人シュバリエ宛に手紙として29日付で発送した．それが遺言だった． そして，30日の決闘で傷つき31日に死んだ．享年21だった．
ガロアの手紙はそれから15年たってようやく1846年に数学者リウビルによって整理して公表された． とにかく遺言は無駄にはならなかった．それ以降いろいろな形で出版されて数学者の目に触れる ようになった．しかしその内容が本当に理解されるようになったのはさらに 1870年頃より後のことである．
わたしはかつてこのリウビルによって出版された本を大学の図書館で借りて読んだことがある．
『私は二，三の新しいことを成し遂げた．一つは方程式論，もう一つは積分に関するものだ．これらのものを三つの論文にまとめることができる．第一のものは1年前に学士院に提出したが，理解されなかった．……』
胸うたれるものだ．
このような時代を経て今日がある．高校で習う数学の一つ一つにも，最初の発見のときがある．
受験数学も正しく勉強すれば，いろいろ考えることができるし，
そうすることが君たちを鍛え力をつける．