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原始多項式

南海  整数係数の整式(多項式)で,係数の最大公約数が1であるものを原始多項式と呼ぶ. このとき次の事実が示される.

定理 4 (ガウス)
     原始多項式の積は原始多項式である.

証明

$\psi(x)$$\phi(x)$$n$次,$m$次の原始多項式とする.

\begin{displaymath}
\psi(x)=\sum_{i=0}^n a_ix^i,\ \ \phi(x)=\sum_{j=0}^m b_jx^j
\end{displaymath}

とおく.

任意の素数$p$をとる.$p$で割り切れない係数をもつ最低次の項を $a_hx^h,\ b_kx^k$とする.

$\psi(x)\phi(x)$における$x^{h+k}$次の項の係数は

\begin{displaymath}
\sum_{i+j=h+k}a_ib_j
=\cdots+a_{h+2}b_{k-2}+a_{h+1}b_{k-1}+a_hb_k+a_{h-1}b_{k+1}+a_{h-2}b_{k+2}+\cdots
\end{displaymath}

である.この和は,$i+j$$h+k$となるようなすべての$(i,\ j)$にわたるという意味だ.

ここで中央の$a_hb_k$$p$で割れないが, 他のすべての$a_ib_j$$p$の倍数になる.つまりこの係数は$p$で割り切れない.

任意の素数$p$について,$p$で割りきれない係数の項が存在するので, 積 $\psi(x)\phi(x)$の係数の最大公約数は1である.つまり積は原始多項式である.□

次の定理の証明のために一つ補題を示そう.

この補題は,整数 $a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n$の最大公約数が1なら,

\begin{displaymath}
t_1a_1+t_2a_2+\cdots+t_na_n=1
\end{displaymath}

となる整数 $t_1,\ t_2,\ \cdots,\ t_n$が存在する,を用いている.

この証明は『初等整数論』「一次不定方程式」「一次不定方程式の解の存在」定理5を見てほしい.

補題 1
     整数係数多項式$f(x)$が原始多項式 $\psi(x),\ \phi(x)$を用いて

\begin{displaymath}
f(x)=p\psi(x)=q\phi(x)
\end{displaymath}

と表されれば,$p=\pm q$である.

証明

二式 $\psi(x),\ \phi(x)$は同次なので

\begin{displaymath}
\psi(x)=\sum_{i=0}^n a_ix^i,\ \ \phi(x)=\sum_{i=0}^n b_ix^i
\end{displaymath}

とおく.

$\dfrac{pa_i}{q}=b_i\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ n)$ $a_i\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ n)$は互いに素なので

\begin{displaymath}
\sum_{i=1}^n t_ia_i=1
\end{displaymath}

となる整数 $t_i\ (i=1,\ 2,\ \cdots,\ n)$が存在する.ゆえに

\begin{displaymath}
\sum_{i=1}^n \dfrac{pa_i}{q}t_i=\dfrac{p}{q}=\sum_{i=1}^n t_ib_i
\end{displaymath}

より$\dfrac{p}{q}$が整数.同様に$\dfrac{q}{p}$ が整数.よって $\dfrac{p}{q}=\pm 1$である.□

南海  そこで本題.

定理 5
     整数係数多項式f(x)が有理数の範囲で因数分解されれば,整数の範囲で因数分解される.

証明

\begin{displaymath}
f(x)=\psi(x)\phi(x)
\end{displaymath}

で, $\psi(x),\ \phi(x)$の係数は有理数とする.

$f(x)$の係数の最大公約数を$\alpha$とする.$\alpha$は整数である. $f(x)=\alpha f_0(x)$とおく.$f_0(x)$は原始多項式である.

$\psi(x)$に係数の分母の最小公倍数をかけ,それから係数の最大公約数でくくると原始多項式が得られる.それを$\psi_0(x)$とし, $\psi(x)=\beta\psi_0(x)$とおく.$\beta$は有理数である.

同様に $\phi(x)=\gamma\phi_0(x)$($\gamma$は有理数,$\phi_0(x)$は原始多項式)とする.

\begin{displaymath}
\alpha f_0(x)=\beta\gamma\psi_0(x)\phi_0(x)
\end{displaymath}

ガウスの定理(4)より $\psi_0(x)\phi_0(x)$は原始多項式なので,補題1より $\beta\gamma=\pm \alpha$となり$\beta\gamma$は整数である.ゆえに$f(x)$は2つの整数係数の多項式 $\beta\gamma\psi_0(x)$$\phi_0(x)$に因数分解された.□

南海  ここまで来ると,例題の(2)を一般化することができる.

定理 6 (アイゼンシュタイン)
     整数係数の整式で,最高次の項の係数を除いてその他の係数はすべてある素数$p$で割り切れるとする. もし定数項が$p^2$で割り切れなければ,この整式は有理数の範囲で因数分解されない.

証明

この多項式を$f(x)$とする.$f(x)$が因数分解されたとする.それを $\psi(x),\ \phi(x)$とし, その次数を$m,\ n$とする.

ガウスの定理の証明と同様に素数$p$に対し, $\psi(x),\ \phi(x)$$p$で割り切れない係数をもつ最低次の項を $a_hx^h,\ b_kx^k$とする.

$\psi(x)\phi(x)$における$x^{h+k}$次の項の係数は

\begin{displaymath}
\sum_{i+j=h+k}a_ib_j
=\cdots+a_{h+2}b_{k-2}+a_{h+1}b_{k-1}+a_hb_k+a_{h-1}b_{k+1}+a_{h-2}b_{k+2}+\cdots
\end{displaymath}

である.これは$p$で割り切れないのだから$x^{h+k}$$f(x)$の最高次数の項でなければならない. ゆえに$h=m,\ k=n$である.つまり $\psi(x),\ \phi(x)$も最高次数の項の係数以外は$p$で割り切れる.

ゆえに$f(x)$の定数項は$p^2$で割り切れ,条件と矛盾し,対偶が示せた.□

南海  以上の一般論が例題の別解になっていることがわかっただろうか.

耕一  もういちどまとめます. $f(x)$が有理数$\alpha$を用いて $f(x)=(x-\alpha)Q(x)$と因数分解されるとき, $\alpha$ $\alpha=\dfrac{p}{q}$とすれば $f(x)=(qx-p)S(x)$と因数分解される.この$S(x)$ が直ちに整数係数とはいえないが,さきにいわれましたように,今の場合$qx-p$の係数は互いに素 なので,ここからくくって$S(x)$全体にかける整数はないので,$S(x)$自身が整数係数である. すると同じ記号を用いて$qb_{n-1}=1$より$q=1$となり$\alpha$は整数である.

例題の最後の問題は,対偶を示すことは同じで, 有理数解があれば整数解で$f(x)$が整数の因数をもつが,アイゼンシュタインの既約性定理から $f(x)$は既約なので,それはあり得ない.

南海  ということだ. $f(x)=(qx-p)S(x)$のところは,次のようにしても良い.$S(x)$の係数の 分母の最小公倍数と,分子の最小公倍数を括りだし, $f(x)=\dfrac{u}{v}(qx-p)S_0(x)$と表したとする. ここで$S_0(x)$は原始多項式である.$f(x)$も原始多項式で,$qx-p$も原始多項式なので,ガウスの定理と 補題から $\dfrac{u}{v}=\pm 1$.これでも良い.


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Aozora Gakuen