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いくつかの入試問題

耕一 今日はチェビシェフの多項式についてまとめて 聞かせてください.

南海  チェビシェフの多項式は大変重要なテーマだ.基礎と応用についてまとめよう.

三角関数に倍角公式というものがある.

\begin{displaymath}
\begin{array}{ll}
\cos 2\theta&=2\cos^2\theta -1\\
\cos 3\theta&=4\cos^3\theta -3\cos\theta
\end{array}\end{displaymath}

右辺は$\cos\theta$の多項式になっている.$x=\cos\theta$として, これを $T_2(x),\,T_3(x)$とおく.

\begin{displaymath}
\begin{array}{ll}
T_2(x)&=2 x^2 -1\\
T_3(x)&=4 x^3 -3 x
\end{array}\end{displaymath}

一般に

\begin{displaymath}
\cos n\theta=T_n(\cos\theta)
\end{displaymath}

で定まる多項式$T_n(x)$$n$次のチェビシェフの多項式という.

ところで倍角公式はド・モアブルの定理と二項定理から求まる.

\begin{displaymath}
\begin{array}{ll}
&\cos 3\theta+i\sin 3\theta\\
=&(\cos\...
...ta-3\cos \theta
+i\sin\theta(3 -4\sin ^2\theta)
\end{array}\end{displaymath}

耕一  三角関数の倍角公式は普通は加法定理から求めます.

南海  加法定理は,極形式で表された複素数の積公式

\begin{displaymath}
(\cos \alpha+i\sin \alpha)(\cos \beta+i\sin \beta)
=\cos(\alpha+\beta)+i\sin(\alpha+\beta)
\end{displaymath}

と同等だ.

これはまた偏角を0から $2\pi$ にとることを定めておけば

\begin{displaymath}
\arg(z_1z_2)=\arg z_1+\arg z_2
\end{displaymath}

でもあるわけだが,いずれにせよ,加法定理は複素数の性質に含まれてしまうので, 三角関数で示せることは,複素数で示せる.

耕一  いつも思うのですが,上の偏角の公式は 対数と同じ形ですね.

それには理由があって,実は

\begin{displaymath}
e^{i\theta}=\cos \theta +i\sin \theta
\end{displaymath}

という基本的な事実がある.もちろん左辺の複素数べきの意味を定めなければならないのだが, オイラーが発見したこの式ほど人間が発見した数学の式で重要なものはないほどだ.

耕一  だから $z=e^{i\theta}$ とすると


となり,偏角の公式が成り立つのですね.

南海  複素数 $z$ に関する$\log z$の意味を 定めなければならないのだが,基本的にはそういうことだ.

さて今日の本題に戻って,いくつかの入試問題を考えよう.

例 1.6.1   [96京大後期理系] $n$は自然数とする.
  1. すべての実数$\theta$に対し

    \begin{displaymath}
\cos n\theta =f_n(\cos\theta),\,\,\sin n\theta
= g_n(\cos\theta)\sin\theta
\end{displaymath}

    をみたし,係数がともにすべて整数である$n$次式$f_n(x)$$n-1$次式$g_n(x)$が存在することを示せ.
  2. $f'_n(x)=n g_n(x)$を示せ.
  3. $p$を3以上の素数とするとき,$f_p(x)$$p-1$次以下の係数はすべて $p$で割り切れることを示せ.

設定が少し違う以外次の問題も同じものだ.

例 1.6.2   [91東大前期理系]
  1. 自然数 $n=1,2,3,\cdots$に対して,ある多項式 $p_n(x),\ q_n(x)$が存在して,

    \begin{displaymath}
\sin n\theta =p_n(\tan\theta)\cos ^n\theta,\,\,\cos n\theta
=q_n(\tan\theta)\cos ^n\theta
\end{displaymath}

    と書けることを示せ.
  2. このとき,$n >1$ならば次の等式が成立することを証明せよ.

    \begin{displaymath}
p_n'(x) =n q_{n-1}(x) ,\ q_n'(x)=-np_{n-1}(x)
\end{displaymath}

これらは普通にやれば数学的帰納法でやるところだ.しかし次節で複素数で考える.



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