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チェビシェフの多項式

南海 上の京大の問題はチェビシェフの多項式 そのものを問うている.いくつか付け加えて考えやすくするために次の定理にまとめよう.

定理 7
     $n$は自然数とする.
  1. すべての実数$\theta$に対し

    \begin{displaymath}
\cos n\theta =T_n(\cos\theta),\,\,
\sin n\theta=U_n(\cos\theta)\sin\theta
\end{displaymath}

    をみたし,係数がともにすべて整数である$n$次式$T_n(x)$$n-1$次式$U_n(x)$が 存在する.最高次数の項の係数は $2^{n-1}$ である.

  2. \begin{displaymath}
T'_n(x)=n U_n(x)
\end{displaymath}

    が成り立つ.
  3. $T_n(x)=0$となる$x$

    \begin{displaymath}
\cos{\dfrac{1}{2n} }\pi,\ \cos{\dfrac{3}{2n} }\pi ,\ \ \cdots ,\
\cos{\dfrac{2n-1}{2n} }\pi
\end{displaymath}

    また$T'_n(x)=0$となる$x$

    \begin{displaymath}
\cos{\dfrac{1}{n}\pi} ,\ \cos{\dfrac{2}{n}\pi} ,\ \cdots,\ \cos{\dfrac{n-1}{n}\pi}
\end{displaymath}

  4. $T_n(x)\ ,\ U_n(x)$はいずれも次の漸化式を満たす.

    \begin{displaymath}
A_{n+2} -2x A_{n+1} +A_n =0
\end{displaymath}

南海 これを証明しよう.

耕一 少しずつやってみます (1)     ド・モアブルの定理と二項定理により,

\begin{eqnarray*}
&&\cos{n\theta}+i\sin{n\theta}=(\cos{\theta}+i\sin{\theta})^n...
...n \mathrm{C}_5\cos^{n-5}{\theta} (1-\cos^2{\theta})^2
-\cdots\}
\end{eqnarray*}

となり, $\{\quad\}$内は確かに$\cos\theta$の多項式である.

$n$ が偶数か奇数かで虚数部の最後の項の書き方が違うので,このようにしましたがいいでしょうか.

南海 十分意味がつたわるのでいいと思う.

耕一 これから,

\begin{displaymath}
\cos n\theta+i\sin n\theta=T_n (\cos{\theta})+i\sin{\theta}\cdot U_n(\cos{\theta})
\end{displaymath}

とおける. そして, $T_n(x)$$n$次式, $U_n(x)$$n-1$次式である.

$T_n(x)$における$x^n$の係数は,

\begin{displaymath}
{}_n \mathrm{C}_0+{}_n \mathrm{C}_2+{}_n \mathrm{C}_4+\cdots=\dfrac{2^n}{2}=2^{n-1}
\end{displaymath}

また, $U_n(x)$における$x^{n-1}$の係数は,

\begin{displaymath}
{}_n \mathrm{C}_1+{}_n \mathrm{C}_3+{}_n \mathrm{C}_5+\cdots=\dfrac{2^n}{2}=2^{n-1}
\end{displaymath}

(2) $\cos {n\theta}=T_n(\cos{\theta})$の両辺を$\theta$で微分すると,

\begin{displaymath}
-n\sin{n\theta}=T_n'(\cos {\theta})\cdot (-\sin{\theta})
\end{displaymath}

つまり,

\begin{displaymath}
-n\cdot U_n(\cos{\theta})\sin{\theta} =-T_n'(\cos{\theta})\sin{\theta}
\end{displaymath}

これは関数としての恒等式であるから,

\begin{displaymath}
n\cdot U_n(\cos{\theta})=T_n'(\cos{\theta})
\end{displaymath}

が得られる. つまり,

\begin{displaymath}
T_n'(x)=n U_n(x)
\end{displaymath}

(3) $-1\leq x\leq 1$の範囲で考えると, $x=\cos\theta$とおけて,

\begin{eqnarray*}
T_n(x)=0 &\Longrightarrow&\cos{n\theta}=0\\
&\Longrightarro...
...\\
&\Longrightarrow&\theta=\dfrac{2k+1}{2n}\pi\quad(k\ は整数)
\end{eqnarray*}

となるから, $x=\cos\theta$より,

\begin{displaymath}
T_n(x)=0\Longrightarrow\ x=\cos{\dfrac{1}{2n} }\pi,\
\cos{\dfrac{3}{2n} }\pi ,\ \ \cdots ,\ \cos{\dfrac{2n-1}{2n} }\pi
\end{displaymath}

そして, $T_n(x)=0$の解は高々$n$個しかないので, これが解のすべてである.

次に,

\begin{displaymath}
T_n'(x)=0\quad\Longrightarrow\quad U_n(x)=0
\end{displaymath}

ここで, $\theta=\dfrac{1}{n}\pi,\ \cdots,\ \dfrac{n-1}{n}\pi$に対して,

\begin{displaymath}
\sin n\theta=0\ かつ\sin{\theta}\neq 0
\end{displaymath}

であるから, $\sin n\theta=U_n(\cos\theta)\sin\theta$より,

\begin{displaymath}
x=\cos{\dfrac{1}{n}\pi} ,\ \cos{\dfrac{2}{n}\pi} ,\
\cdots,\ \cos{\dfrac{n-1}{n}\pi}
\end{displaymath}

$U_n(x)=0$の解である. そして, $U_n(x)=0$の解は高々$n-1$個しかない ので, これが解のすべてである.

(4)

耕一 (4)は 3項間漸化式を作るのですね.

\begin{eqnarray*}
&&T_n(\cos{\theta})+i\sin{\theta}\cdot U_n(\cos{\theta})\\
...
...os{\theta}\cdot U_{n-1}(\cos{\theta})
+T_{n-1}(\cos{\theta})\}
\end{eqnarray*}

したがって,

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{ll}
T_n(x)=x T_{n-1}(x)+(x^2-1) U_{n-1}(x)\\
U_n(x)= T_{n-1}(x)+x U_{n-1}(x)\\
\end{array}\right.
\end{displaymath}

これから漸化式を作ります.

南海 ここはケイレイ・ハミルトンの定理を活用した作り方でやってみよう.

耕一 すると

\begin{eqnarray*}
\vecarray {T_n(x)}{U_n(x)}
&=&\matrix {x}{x^2-1}{1}{x}\vecar...
...&{\matrix {x}{x^2-1}{1}{x} }^{n-1}\vecarray {T_{1}(x)}{U_{1}(x)}
\end{eqnarray*}

ここで, $P=\matrix{x}{x^2-1}{1}{x}$はケーリー・ハミルトンの定理により,

\begin{displaymath}
P^2-2x P+ E=O
\end{displaymath}

をみたすので,

\begin{displaymath}
P^{n+1}-2x P^n+P^{n-1}=O\quad(P^0=E\ とする)
\end{displaymath}

である. つまり,

\begin{eqnarray*}
&&P^{n+1}\vecarray{T_1(x)}{U_1(x)}-2xP^n \vecarray{T_1(x)}{U_1...
...}{U_{n+1}(x)}
+\vecarray{T_n(x)}{U_n(x)}=\vecarray{0}{0}
=0\\
\end{eqnarray*}

つまり, 各成分とも漸化式 $A_{n+2}-2xA_{n+1}+A_n=0$をみたしている.

南海 以上で証明はできた.実際の式を作っておくことは大切だ.

耕一 はい.

例 1.6.3        $i=1,2,3,4$に対して, $T_i(x)\ ,\ U_i(x)$を求め $T'_n(x)=n U_n(x)$を確認する.

$T_1(\cos{\theta})=\cos{\theta}$より,

\begin{displaymath}
T_1(x)=x
\end{displaymath}

$U_1(\cos{\theta})\sin{\theta}=\sin{\theta}$より,

\begin{displaymath}
U_1(x)=1
\end{displaymath}

$T_2(\cos{\theta})=2\cos^2{\theta}-1$より,

\begin{displaymath}
T_2(x) =2x^2-1
\end{displaymath}

$U_2(\cos{\theta})\sin{\theta}=2\sin{\theta}\cos{\theta}$より,

\begin{displaymath}
U_2(x)=2x
\end{displaymath}

また,


なので,

\begin{displaymath}
T_3(x)=4x^3-3x,\quad U_3(x)=4x^2-1
\end{displaymath}

そして,


なので,

\begin{displaymath}
T_4(x)=8x^4-8x^2+1,\quad U_4(x)=8x^3-4x
\end{displaymath}

となり, いずれも $T_n'(x)=n U_n(x)$をみたしている.


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