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反転と根軸

南海  さて次に根軸について少し思いおこさなければならない. 『数学対話』「根軸」で二円の根軸を定義した. どのようなことをそこで調べたか?

太郎  二円$C,\ C'$の方程式を $f(x,\ y)=0,\ g(x,\ y)=0$とする. ただし円の方程式であるから$x^2,\ y^2$の係数は1にとる. このとき,方程式

\begin{displaymath}
f(x,\ y)+(-1)g(x,\ y)=0
\end{displaymath}

は一次式となる. この一次式で定まる直線を二円$C,\ C'$の根軸という.

$f(x,\ y)=(x-\alpha)^2+(y-\beta)^2-r^2$ とし, $\mathrm{P}(X,\ Y)$を円$f(x,\ y)=0$の外部の点とする. このとき$f(X,\ Y)$は点$\mathrm{P}$から円に引いた接線の長さの平方になる. このことを用いて根軸の図形的な意味を考えることができる. つまり,円の外部の点$\mathrm{P}$から$C,\ C'$に接線が引けるとき,接点を 接点 $\mathrm{T},\ \mathrm{T}'$とすれば

\begin{eqnarray*}
&&\mathrm{PT}=\mathrm{PT}'\\
&\iff&f(X,\ Y)-g(X,\ Y)=0\\
&\iff&\mathrm{P}(X,\ Y)が根軸上にある.
\end{eqnarray*}

が成り立つ. $C$$C'$が交わっていれば,根軸は二円の共通割線に他ならない.

$k$$k \ne -1$で,かつ方程式

\begin{displaymath}
f(x,\ y)+kg(x,\ y)=0
\end{displaymath}

が円を定めるとき,これを$C_k$とおく. 根軸上の点$\mathrm{P}$から$C_k$に接線が引けるとき, 接点を$\mathrm{T}_k$とすると

\begin{displaymath}
\mathrm{PT}=\mathrm{PT}_k
\end{displaymath}

が成り立つ. 逆にある円$O$$C$の根軸が$C$$C'$の根軸と一致するとき, $O=C_k$となる$k$が存在する. さらに根軸上の点を中心とする円は$C,\ C'$と直交する. このようなことを証明しました.

南海  最後の部分は91年の東大後期の問題でもあるのだが, 次にも使うので必要十分性の補題として証明しておいてほしい.

太郎  はい.

補題 1
     平面上に二つの円$C,\ C'$ がありその根軸を$l$とする. 第三の円$C_0$が二円$C,\ C'$の両方と直交するための必要十分条件は, $C_0$の中心が$l$ (ただし円$C,\ C'$が交わるときは,$l$の二円の外部の部分)上にあることである.

証明     円 $C,\ C',\ C_0$ の中心と半径をそれぞれ $\mathrm{A}(\alpha,\ \beta),\ \mathrm{A}'(\alpha',\ \beta'),\
\mathrm{A}_0(X,\ Y)$ $r,\ r',\ r_0$とする. また$\mathrm{A}_0$から$C,\ C'$へ引いた接線の接点を それぞれ $\mathrm{T},\ \mathrm{T}'$ とする.

$C,\ C'$$C_0$の直交しているとする. 三平方の定理より

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
\mathrm{AT}^2+\mathrm{A_0T}^2 ...
...^2+\mathrm{A_0T'}^2 =\mathrm{A'A_0}^2
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

が成り立つ.

\begin{displaymath}∴ \quad
\left\{
\begin{array}{l}
r^2+{r_0}^2=(X-\alpha...
...}^2+{r_0}^2=(X-\alpha')^2+(Y-\beta')^2
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

つまり

\begin{displaymath}
(X-\alpha)^2+(Y-\beta)^2 -r^2
+(-1)\left\{(X-\alpha')^2+(Y-\beta')^2 -{r'}^2\right\}=0
\end{displaymath}

この式は $\mathrm{A}_0(X,\ Y)$ が二円 $C_1$$C_2$の 根軸上にあることを示している.

逆に根軸上の接線が引ける位置に$\mathrm{A}_0$があれば, 共有点をもつような半径$r_0$をとり, 式変形を逆にたどることで$C,\ C'$$C_0$の直交性がわかる. □

南海  円の集合があってそのどの二つの根軸をとってもすべて一致するとき, この円の集合を根軸によって定まる円束という.
     二円$C,\ C'$が共有点をもたないとする. この二円の根軸と二円$C,\ C'$の中心を結ぶ直線$l$との交点を$\mathrm{K}$とする. $\mathrm{K}$から $C,\ C'$への接線の長さ $\mathrm{KT}=\mathrm{KT}'$に対して $l$上の点で

\begin{displaymath}
\mathrm{KT}=\mathrm{KF}
\end{displaymath}
となる点は二点ある.これら $\mathrm{F},\ \mathrm{F}'$を 2円$C,\ C'$焦点という.

太郎  どうして焦点というのですか.

南海  根軸が同じ円束をかいてみると図のように半径が小さくなると焦点に収束していく円列が得られる. また,焦点を通る円を描いてみるとこれらはすべて円束と直交している. このように二つの種類の円の集合が得られる.
この問題は今回はここでおいておくが,後日また考えたい.

 

定理 5
     互いに交わらない二円$C_1,\ C_2$がある. 二円の焦点$\mathrm{F}$を中心とする反転でこれら二円は同心円にうつる. ■

証明      二円の根軸と二円$C,\ C'$の中心を結ぶ直線$l$との交点を$\mathrm{K}$を中心とし, 二つの焦点を通る円$S$は二円$C_1,\ C_2$と直交している. 円$S$$\mathrm{F}$を通るので, $\mathrm{F}$中心とする反転で直線$m$になる. 一方,二円$C_1,\ C_2$はそれぞれ再び円 ${C_1}',\ {C_2}'$にうつるが, これらの円は$m$と直交しているので,その中心は$m$上にある.

一方,二円$C_1,\ C_2$の中心と反転の中心は二円$C_1,\ C_2$の焦点を結ぶ直線$l$上にあるので, 円 ${C_1}',\ {C_2}'$の中心も$l$上にある.

従って円 ${C_1}',\ {C_2}'$の中心は$m$上かつ$l$上にあるので, その交点に一致する.つまり円 ${C_1}',\ {C_2}'$の中心は一致する. □

本定理は,一方の円が他方に含まれる場合も同様である.


南海  焦点による反転をもちいて定理4の別証明をしよう.

定理4の別証明

図のように二円$C_1,\ C_2$の中心を通る直線$l$と円の交点を $\mathrm{P},\ \mathrm{Q},\ \mathrm{R},\ \mathrm{S}$とする. 半径$r_1,\ r_2$,中心間の距離$d$とすると

\begin{eqnarray*}
D(C_1,\ C_2)&=&\dfrac{d^2-(r_1-r_2)^2}{4r_1r_2}
=\dfrac{(\ma...
...SQ}}{\mathrm{PQ}\cdot\mathrm{SR}}=
(\mathrm{PS},\ \mathrm{RQ})
\end{eqnarray*}

反転によって, ${C_1}',\ {C_2}'$ $\mathrm{P}',\ \mathrm{Q}',\ \mathrm{R}',\ \mathrm{S}'$に なるとする.この四点は$l$の反転円$l'$の周上にある. $l$$C_1,\ C_2$が直交するので,$l'$ ${C_1}',\ {C_2}'$は直交している.

定理3によって

\begin{displaymath}
(\mathrm{PS},\ \mathrm{RQ})=
(\mathrm{P'S'},\ \mathrm{R'Q'})
\end{displaymath}

である.

次に ${C_1}',\ {C_2}'$の根軸と$l'$の交点を$\mathrm{U}$とする. $\mathrm{U}$から ${C_1}',\ {C_2}'$に接線を引き接点までの長さ$\nu$をとる. $\mathrm{U}$を中心とし$\nu$を半径とする円$S$に関して反転をおこなう. ${C_1}',\ {C_2}'$$S$と直交しているので,この反転でそれ自身にうつる. $l'$は直線$l''$にうつるが$l''$ ${C_1}',\ {C_2}'$と直交しているので, これが ${C_1}',\ {C_2}'$の中心を通る直線である. $\mathrm{P}',\ \mathrm{Q}',\ \mathrm{R}',\ \mathrm{S}'$がそれぞれ $\mathrm{P}'',\ \mathrm{Q}'',\ \mathrm{R}'',\ \mathrm{S}''$にうつるとすると, これが$l''$ ${C_1}',\ {C_2}'$の交点である.

再び定理3によって

\begin{displaymath}
(\mathrm{P'S'},\ \mathrm{R'Q'})=
(\mathrm{P''S''},\ \mathrm{R''Q''})
\end{displaymath}

であるが,前半の変形を逆にたどることにより

\begin{displaymath}
(\mathrm{P''S''},\ \mathrm{R''Q''})=D({C_1}',\ {C_2}')
\end{displaymath}

なので,定理4が示された. □

太郎  反転と根軸を組みあわせて用いることで, 簡明に出来るのですね.


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