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一次変換とシュタイナー楕円の特徴付け

拓生  東大の問題は三角形に内接する楕円で面積最大のもの を求めよ,ということでした.それを一般化したのが(2)ですね.

南海  これは直観的には次のように考えればよい.

正三角形に内接する面積最大の楕円は各辺の中点で接する円である.

正三角形から2方向への拡大で任意の三角形と相似な三角形が得られ,辺の中点で内接する楕円は 再び辺の中点で内接する楕円になり,相対的な大小関係は変わらないからである.

これをもう少し厳密にいうと,今は習わなくなった一次変換が必要だ.



行列 $A=\matrix{a}{b}{c}{d}$ を用いて, $xy$ 平面の点 $(x,\ y)$ から点 $(x',\ y')$ への変換

\begin{displaymath}
f_A\ :\ (x,\ y)\longrightarrow (x',\ y')
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
\vecarray{x'}{y'}=\matrix{a}{b}{c}{d}\vecarray{x}{y}=\vecarray{ax+by}{cx+dy}
\end{displaymath}

で定め,「一次変換」という.

$\vec{p}=(x,\ y),\ \vec{p'}=(x',\ y')$ とするとベクトルからベクトルへの変換でもある.

これは次の性質を持つ.

  1. $f_E(\vec{p})=\vec{p}\ \ (恒等写像)$
  2. $f_A(\alpha\vec{p}+\beta\vec{q})=\alpha f_A(\vec{p})+\beta f_A(\vec{q})$
  3. $f_B(f_A(\vec{p}))=f_{BA}(\vec{p})$

さらに $\Delta(A)=ad-bc\ne 0$ のとき次のことが成り立つ.

  1. $f_A^{-1}(f_A(\vec{p}))=f_E(\vec{p})$ より $f_A^{-1}=f_{A^{-1}}$ . 逆写像が存在する.よってまた1対1の対応である.
  2. $f_A(\vec{p}+t\vec{q})=f_A(\vec{p})+tf_A(\vec{q})$ より直線は直線に移る. 線分上の内分(外分)点は,移った線分上の同じ比率の内分(外分)点に移る.
  3. $(x_1,\ y_1),\ (x_2,\ y_2)$ $(x'_1,\ y'_1),\ (x'_2,\ y'_2)$に移ったとする.

    \begin{displaymath}
\vert x'_1y'_2-x'_2y'_1\vert=\vert ad-bc\vert\vert x_1y_2-x_2y_1\vert
\end{displaymath}

    より $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$ $\bigtriangleup \mathrm{A'B'C'}$ に移れば

    \begin{displaymath}
\bigtriangleup \mathrm{A'B'C'}=\vert ad-bc\vert\bigtriangleup \mathrm{ABC}
\end{displaymath}

    図形の面積は三角形の面積の和の極限であるから,一般に面積は $\vert ad-bc\vert$ 倍される. とくに面積の大小関係は保たれる.
  4. 一次変換で二次曲線は二次曲線に移ることを示す.

    二次曲線

    \begin{displaymath}
px^2+2lxy+qy^2+2mx+2ny+r=0
\end{displaymath}

    が一次変換 $f_A$ で 二次曲線

    \begin{displaymath}
p'x^2+2l'xy+q'y^2+2m'x+2n'y+r'=0
\end{displaymath}

    に移ったとする.

    \begin{displaymath}
px^2+2lxy+qy^2=(x,\ y)\matrix{p}{l}{l}{q}\vecarray{x}{y}
\end{displaymath}

    かつ $x'=ax+by,\ y'=cx+dy$ とすれば

    \begin{displaymath}
p'x'^2+2l'x'y'+q'y'^2=(x',\ y')\matrix{p'}{l'}{l'}{q'}\vecarray{x'}{y'}
\end{displaymath}


    \begin{displaymath}
\vecarray{x'}{y'}=\matrix{a}{b}{c}{d}\vecarray{x}{y}
\end{displaymath}

    であるから,${}^tA=\matrix{a}{c}{b}{d}$とおくと

    \begin{eqnarray*}
px^2+2lxy+qy^2&=&(x,\ y)\matrix{p}{l}{l}{q}\vecarray{x}{y}\\ ...
...p}{l}{l}{q}A^{-1}\vecarray{x'}{y'}\\
&=&p'x'^2+2l'x'y'+q'y'^2
\end{eqnarray*}

    となる.ここで

    \begin{eqnarray*}
p'q'-l'^2&=&\Delta \left( {}^tA^{-1}\matrix{p}{l}{l}{q}A^{-1}...
...\Delta (A^{-1})\\
&=&\Delta \matrix{p}{l}{l}{q}\\
&=&pq-l^2
\end{eqnarray*}

    である.

    よって一次変換で二次曲線の $pq-l^2$ の値は不変.

    適当な一次変換で二次曲線が標準形になったとする.標準形は $l'=0$ のときである.

    よって $pq-l^2=p'q'$ となる. これは に応じて楕円,放物線,双曲線,であることを示し, さらに一次変換で楕円は楕円に移ることを示している.

  5. 任意の三角形を正三角形に移す変換が作れる. $\vec{p}=(x_1,\ y_1)$ $\vec{q}=(x_2,\ y_2)$ $(2,\ 0),\ (1,\ \sqrt{3})$ に移す変換 $A$

    \begin{displaymath}
\matrix{2}{1}{0}{\sqrt{3}}=A\matrix{x_1}{x_2}{y_1}{y_2}
\end{displaymath}

    より

    \begin{displaymath}
A=\matrix{2}{1}{0}{\sqrt{3}}\matrix{x_1}{x_2}{y_1}{y_2}^{-1}
\end{displaymath}

    で定めればよいからである.
  6. 二次曲線とその接線は,二次曲線と接線に移る.

2.の証明

南海  次のようにして,三角形に内接する楕円で面積最大のものがシュタイナー楕円であることが示される.

  1. 東大理系の三角形に内接する楕円の問題、一次変換で変形が利くから正三角形や 直角二等辺三角形など特殊な三角形でやっても一般性を失わない. つまり正三角形に内接する楕円で面積最大なものが辺の中点で接する円であることを示せばよい.
  2. 円に外接する三角形の中で面積が最小になるのは正三角形の時である.なぜか.

    面積=周長×半径÷2なので周長で考えればよい. 周長を最短にする三角形が正三角形でなければ等しくない2辺をとり, その2辺が等しくなるよう第3の辺を引き直した三角形はそれよりも周長が短くなるので矛盾.

  3. 正三角形に内接する楕円において面積が最大になるのは円の時である.なぜか.

    正三角形に内接する楕円を任意にとる. この楕円を正三角形の内接円に一致させる一次変換を正三角形に施す. すると変形後の三角形は(2)によりもとの正三角形よりも面積は大きい. 楕円は内接円よりも面積が小さいことがわかる.


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