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平面上の直線

二つのベクトルの平行条件


南海  最初は,零ベクトルでない二つのベクトル $\overrightarrow{a}=(a_1,\ a_2)$ $\overrightarrow{b}=(b_1,\ b_2)$ が平行である条件から考えよう.

耕一  平行ということは方向が同じで大きさは違ってもよいということなので, 0でない実数 $t$

\begin{displaymath}
(b_1,\ b_2)=t(a_1,\ a_2)
\end{displaymath}

となるものがあることと同値です.

$\overrightarrow{a}$ $\overrightarrow{b}$が平行, つまり $b_1=ta_1,\ b_2=ta_2$なる $t$ があるとします.このとき

\begin{displaymath}
a_2b_1=ta_2a_1,\ a_1b_2=ta_1a_2
\end{displaymath}

なので, $a_1b_2-a_2b_1=0$ です.

逆に $a_1b_2-a_2b_1=0$とします. $a_1=0$なら$a_2\ne 0$ なので$b_1=0$ となり $\overrightarrow{a}$ $\overrightarrow{b}$は平行, $a_2=0$ のときも同様.

$a_1a_2\ne 0$ とする. このとき $\dfrac{b_1}{a_1}=\dfrac{b_2}{a_2}$となる.この比の値を $t$ とすると,

\begin{displaymath}
(b_1,\ b_2)=t(a_1,\ a_2)
\end{displaymath}

したがって

\begin{displaymath}
a_1b_2-a_2b_1=0
\end{displaymath}

が求める必要十分条件である.

これは二つのベクトル $\overrightarrow{a}=(a_1,\ a_2)$ $\overrightarrow{b}=(b_1,\ b_2)$ から作られる行列

\begin{displaymath}
A=\matrix{a_1}{b_1}{a_2}{b_2}
\end{displaymath}

に対する

\begin{displaymath}
\Delta(A)=a_1b_2-a_2b_1
\end{displaymath}

が0を意味しています.

南海  逆に平行でないということは $\Delta(A)\ne 0$であり, このとき行列$A$は逆行列

\begin{displaymath}
A^{-1}=\dfrac{1}{\Delta(A)}\matrix{b_2}{-b_1}{-a_2}{a_1}
\end{displaymath}

をもつ.

耕一  任意のベクトル $\overrightarrow{c}=(c_1,\ c_2)$に対して

\begin{displaymath}
\vecarray{c_1}{c_2}=x\vecarray{a_1}{a_2}+y\vecarray{b_1}{b_2}
=\matrix{a_1}{b_1}{a_2}{b_2}\vecarray{x}{y}
\end{displaymath}

なので,$A$が逆行列をもてば

\begin{displaymath}
\vecarray{x}{y}=A^{-1}\vecarray{c_1}{c_2}
\end{displaymath}

$x$$y$が一組存在する.

つまり二つのベクトル $\overrightarrow{a}$とベクトル $\overrightarrow{b}$ が一次独立ならば, これを用いて任意のベクトル $\overrightarrow{c}$を表すことができる.

南海  ということなのだ. だからやはり平面ベクトルの理解も一次変換と行列までの内容を必要とする. このことはさらに3次元,$n$次元ベクトルについても言える.

なお,行列 $A=\matrix{a_1}{b_1}{a_2}{b_2}$に対して, 数$a_1b_2-a_2b_1$のことを行列$A$行列式といい

\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cc}
a_1&b_1\\
a_2&b_2
\end{array}
\right\vert
\end{displaymath}

とも書きあらわす. これをもとに,平面上の直線の式について考えよう. それは二つの異なる方法で定まる.

平面上の直線(その一)


南海  まず第一の方法だ.平面上の二点 $\mathrm{A}(a_1,\ a_2),\ \mathrm{B}(b_1,\ b_2)$ がある. このとき直線 $\mathrm{AB}$の方程式をベクトルを用いて求めよ.

耕一  直線 $\mathrm{AB}$上の点を $\mathrm{P}(x,\ y)$ とおく.この $x$$y$ が 満たす式を求めればよいのですね.

$\mathrm{P}(x,\ y)$が直線 $\mathrm{AB}$上にあるということは二つのベクトル

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{AB}}=(b_1-a_1,\ b_2-a_2),\
\overrightarrow{\mathrm{AP}}=(x-a_1,\ y-a_2)
\end{displaymath}

が平行ということなので,先の平行条件から
\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cc}
x-a_1&b_1-a_1\\
y-a_2&...
...end{array}
\right\vert
=(b_2-a_2)(x-a_1)-(b_1-a_1)(y-a_2)=0
\end{displaymath} (1)

となります,これを整理すると
\begin{displaymath}
(b_2-a_2)x-(b_1-a_1)y-(a_1b_2-a_2b_1)=0
\end{displaymath} (2)

です.

南海  そうだ.これは昔どおり傾きを求めてから導く直線の式と同じだろう. $b_1\ne a_1,\ b_2\ne a_2$のとき (1)はまた

\begin{displaymath}
\dfrac{x-a_1}{b_1-a_1}=\dfrac{y-a_2}{b_2-a_2}
\end{displaymath}

ともかける.これはもちろん $\overrightarrow{\mathrm{AP}}=t\overrightarrow{\mathrm{AB}}$から $t$ を消去した式でもある.

これと本質的に同じだが,ほんの少し違う形で導こう.

例題 1.1        点 $\mathrm{P}(x,\ y)$が直線 $\mathrm{AB}$ 上の点であることは,
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OP}}
=s\overrightarrow{\mathrm{OA}}+t\overrightarrow{\mathrm{OB}}
\end{displaymath} (3)

と表すとき, $s+t=1$ となることと同値である.これから直線 $\mathrm{AB}$ の式を作れ.

耕一  (3)式を成分で書くと

\begin{displaymath}
\vecarray{x}{y}=s\vecarray{a_1}{a_2}+t\vecarray{b_1}{b_2}
...
...b_1t}{a_2s+b_2t}
=\matrix{a_1}{b_1}{a_2}{b_2}\vecarray{s}{t}
\end{displaymath}

です. これより

\begin{displaymath}
\matrix{a_1}{b_1}{a_2}{b_2}^{-1}\vecarray{x}{y}=\vecarray{s}{t}
\end{displaymath}

つまり

\begin{eqnarray*}
\vecarray{s}{t}&=&\dfrac{1}{a_1b_2-a_2b_1}\matrix{b_2}{-b_1}{...
...\
&=&\dfrac{1}{a_1b_2-a_2b_1}\vecarray{b_2x-b_1y}{-a_2x+a_1y}
\end{eqnarray*}

したがって $s+t=1$ より

\begin{displaymath}
(b_2x-b_1y)+(-a_2x+a_1y)=a_1b_2-a_2b_1
\end{displaymath}

あっ.先ほどの式 (2) と同じだ.

南海  式が同じになるのは当然なのだが,なかなかおもしろい. 行列を習っていない人は,$s$$t$を未知数として連立一次方程式を解いたと考えればよい.

平面上の直線(その二)


南海  さて第二の直線の作り方は,ベクトルの直交条件を使うものだ.

$\overrightarrow{\mathrm{O}}$ でない二つのベクトル $\overrightarrow{a}=(a_1,\ a_2)$ $\overrightarrow{b}=(b_1,\ b_2)$ が直交している条件は,二つのベクトルのなす角が $\dfrac{\pi}{2}$ , つまり内積が0ということなので,

\begin{displaymath}
a_1b_1+a_2b_2=0
\end{displaymath}

だ. そこで,定点 $\mathrm{P}_0(x_0,\ y_0)$ をとおり, ベクトル $\overrightarrow{n}=(p,\ q)$ に直交する直線 $l$ の方程式を求めよ.

耕一  これは教科書にも載っています.直線上の任意の点 $\mathrm{P}(x,\ y)$ をとる.

二つのベクトル $\overrightarrow{n}=(p,\ q)$ $\overrightarrow{\mathrm{P}_0\mathrm{P}}$ が直交するので内積が0. $\overrightarrow{\mathrm{P}_0\mathrm{P}}=(x-x_0,\ y-y_0)$ なので

\begin{displaymath}
l\ :\ p(x-x_0)+q(y-y_0)=0
\end{displaymath}

です. このベクトル $\overrightarrow{n}=(p,\ q)$ のことを 直線 $l$法線ベクトルという.

南海  その通り. 逆に直線の方程式 $ax+by+c=0$からはじめると, この直線とベクトル $(a,\ b)$ は平面上でたがいに直交している. なぜか.

耕一  この方程式を満たす任意の2点 $\mathrm{P}_0(x_0,\ y_0),\ \mathrm{P}_1(x_1,\ y_1)$をとる.

\begin{displaymath}
ax_0+by_0+c=0,\ ax_1+by_1+c=0
\end{displaymath}

が成り立つ.辺々引いて

\begin{displaymath}
a(x_1-x_0)+b(y_1-y_0)=0
\end{displaymath}

これは, ベクトル $\overrightarrow{\mathrm{P}_0\mathrm{P}_1}$とベクトル$(a,\ b)$の内積が0, つまり方程式$ax+by+c=0$をみたす任意の2点を結ぶベクトルが, ベクトル$(a,\ b)$と直交していることを意味している.

これは,方程式$ax+by+c=0$をみたす点の集合が, 点 $\mathrm{P}_0(x_0,\ y_0)$を通りベクトル$(a,\ b)$と直交する直線になることを示している.

南海  二つの直線 $ax+by+c=0,\ a'x+b'y+c'=0$ に対して二つの法線ベクトル $(a,\ b),\ (a',\ b')$ ができるが, もとの二直線が直交または平行であるのに応じて, それぞれの法線ベクトルも直交または平行であるから,上の二直線の

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
直交条件:aa'+bb'=0\\
平行条件:ab'-a'b=0
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

となるのだった.


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Aozora 2018-08-31