next up previous
次: ビエタの公式 上: 円周率を表す 前: 円周率を表す

円周率に収束する数列

南海   2003年の東大前期入試で「円周率$\pi$ が 3.05 より大きいことを示せ」という問題が出題された. また,同じ2003年阪大後期入試では円周率$\pi$ が無理数であることを示す問題が出題された. こういう理論的な問題を入試にまとめて出題するのはたいへんいいことだ.

そこで今日は,円周率を実際に式に表し値を求めるさまざまな方法を, 高校数学として可能な範囲で考えよう.

拓生  まず円周率$\pi$ の定義です.

\begin{displaymath}
\pi=\dfrac{円周}{直径}
\end{displaymath}

その値は

\begin{displaymath}
3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592\cdots
\end{displaymath}

と続く無理数です.

南海   そう.

日常の目的には$3.14$$\dfrac{22}{7}$を用いれば十分で,もう少し精度の高い数値が必要な技術系では $3.1416$$3.14159$ などを使用することが多い. 天気予報や人工衛星などの計算では30桁程度の値を使用している.$355/113$も覚えやすく精度が高い分数である.

ドイツの数学者ルドルフ・ファン・コイレンは1600年代に35桁目まで $\pi$ の正しい値を計算した. 彼の墓標にはこの値が刻まれている.ドイツでは彼の名にちなんで円周率をルドルフ数と呼ぶそうだ. スロベニアの数学者ユリー・ベガは1789年に140桁まで正しい値を求め,37桁目までが正しかった. この記録はその後50年破られることがなかった.

円周率は人間が世界から見いだした定数で,やはり人間の歴史とともにある.

円周率を算出することは、アルキメデスが円に接する正多角形の周長を 求めることにより始まった. まずアルキメデスの方法を整理しよう.

円周率の定義から,半径$\dfrac{1}{2}$の円の円周がちょうど$\pi$になる. そこで半径$\dfrac{1}{2}$の円に内接する正$k$角形の周の長さを$p(k)$, 外接する正$k$角形の周の長さを$P(k)$とおこう.

拓生  まずこれを求めてみます. 正$k$角形の隣りあう2つの頂点と円の中心がなす角の$\dfrac{1}{2}$$\theta$とおく. $\theta=\dfrac{2\pi}{2k}=\dfrac{\pi}{k}$になる.

したがって 内接正$k$角形の1辺は $2\cdot\dfrac{1}{2}\sin\dfrac{\pi}{k}=\sin\dfrac{\pi}{k}$. 外接正$k$角形の1辺は $2\cdot\dfrac{1}{2}\tan\dfrac{\pi}{k}=\tan\dfrac{\pi}{k}$になる.


\begin{displaymath}
∴\quad
p(k)=k\sin\dfrac{\pi}{k},\ \quad
P(k)=k\tan\dfrac{\pi}{k}
\end{displaymath}

南海   だから,ここでさらに正多角形の各辺を2分割して正$2k$角形にするとそれぞれ周の長さは

\begin{displaymath}
p(2k)=2k\sin\dfrac{\pi}{2k},\ \quad
P(2k)=2k\tan\dfrac{\pi}{2k}
\end{displaymath}

となる.

ここでもし$p(2k),\ P(2k)$$p(k),\ P(k)$で表すことができれば,最初は正三角形や正四角形から はじめて,次々に正六角形や正八角形,正十二角形や正十六角形,$\cdots$ としたときの内接正多角形と 外接正多角形の周の長さを,その関係式から求めていくことができる.

拓生  とりあえず$p(k)とP(k)$の和と積を作ってみます.簡単のために $\theta=\dfrac{\pi}{k}$とおきます.

\begin{eqnarray*}
p(k)+P(k)&=&k\sin\theta+k\tan\theta\\
&=&k\sin\theta\left(1+\...
...ac{4\sin^2\dfrac{\theta}{2}\cos^2\dfrac{\theta}{2}}{\cos \theta}
\end{eqnarray*}

これは割ると簡単になりました.

$\dfrac{p(k)+P(k)}{p(k)P(k)}=\dfrac{1}{p(k)}+\dfrac{1}{P(k)}$だから

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{p(k)}+\dfrac{1}{P(k)}=\dfrac{\cos\dfrac{\theta}{2}...
...frac{\pi}{2k}}{2k\sin \dfrac{\pi}{2k}}
=2\cdot\dfrac{1}{P(2k)}
\end{displaymath}

逆に言うと

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{P(2k)}=\dfrac{1}{2}\left(\dfrac{1}{p(k)}+\dfrac{1}{P(k)} \right)
\end{displaymath}

$p(2k)$がわかりません.

南海   ここは次のようにすればよい.

\begin{eqnarray*}
\dfrac{1}{P(2k)}\cdot\dfrac{1}{p(k)}&=&
\dfrac{\cos\dfrac{\pi}...
...ft(\dfrac{1}{2k\sin\dfrac{\pi}{2k}} \right)^2=\dfrac{1}{p(2k)^2}
\end{eqnarray*}

拓生  つまり

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{p(2k)}=\sqrt{\dfrac{1}{P(2k)}\cdot\dfrac{1}{p(k)}}
\end{displaymath}

ですね.

南海   とすると,最初に任意の正$k$角形を作り,そこから順に倍々に増やしていって,$2^nk$となったときを 考える.

\begin{displaymath}
a_n=\dfrac{1}{P(2^nk)},\ b_n=\dfrac{1}{p(2^nk)}
\end{displaymath}

とおくと

\begin{displaymath}
a_{n+1}=\dfrac{1}{2}(a_n+b_n),\ b_{n+1}=\sqrt{a_{n+1}b_n}
\end{displaymath}

これで計算して$a_n,\ b_n$を求めていけば,その逆数が内接,外接正多角形の周長だ. これは,円周に収束する.これで任意の精度で円周率が求まる.

アルキメデスは正六角形から始めたらしい.

拓生  半径$\dfrac{1}{2}$の円に内接する正六角形の周は $p(6)=6\cdot\dfrac{1}{2}=3$.また外接正六角形は 一辺が $2\cdot \dfrac{1}{2}\tan\dfrac{2\pi}{12}=\dfrac{1}{\sqrt{3}}$なので $P(6)=6\cdot\dfrac{1}{\sqrt{3}}=2\sqrt{3}$

これから$a_0$$b_0$を求め,漸化式によって$a_1$$b_1$から順に求めていく.その逆数が 外からと内からの円周の近似,つまりは円周率の近似です.

この場合

\begin{eqnarray*}
a_0&=&\dfrac{1}{P(6)}=\dfrac{1}{2\sqrt{3}}=
0.2886751345948128...
...\dfrac{1}{p(6)}=\dfrac{1}{3}=
0.33333333333333333333333333333333
\end{eqnarray*}

電卓を用いていくつか計算してみました.


\begin{displaymath}
\begin{array}{\vert c\vert l\vert l\vert}
n&a_n=\dfrac{1}{...
...54584515&
0.31853725622246899366784668655328
\\
\end{array}\end{displaymath}

この逆数をとっていくと


\begin{displaymath}
\begin{array}{\vert c\vert l\vert l\vert}
n&P(2^n6)&p(2^n6...
...987942527&
3.1393502030468672071351468212233
\\
\end{array}\end{displaymath}

$n=1$ですでに$\pi>3.10$になっているのですね.

南海   $n=1$ということは正12角形の場合だ.

次に$k=4$で正方形から始めてみよう.

拓生  この場合

\begin{eqnarray*}
a_0&=&\dfrac{1}{P(4)}=\dfrac{1}{4}=0.25\\
b_0&=&\dfrac{1}{p(4)}=\dfrac{1}{2\sqrt{2}}=
0.35355339059327376220042218105242
\end{eqnarray*}


\begin{displaymath}
\begin{array}{\vert c\vert l\vert l\vert}
n&a_n=\dfrac{1}{...
...36448136&
0.31882178866807274113164034327073
\\
\end{array}\end{displaymath}

この逆数をとっていくと


\begin{displaymath}
\begin{array}{\vert c\vert l\vert l\vert}
n&P(2^n4)&p(2^n4...
...320681331&
3.1365484905459392638142580444449
\\
\end{array}\end{displaymath}

$n=1$ですでに$\pi>3.06$になっている.これが正八角形を内接させた場合で東大の問題の解答に使ったものです.


next up previous
次: ビエタの公式 上: 円周率を表す 前: 円周率を表す
Aozora Gakuen