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代数学の基本定理の証明

南海   さて本題に入ろう.「実数とは何か」の中にある実数の連続性が,証明の根拠になる.

$xy$平面上の有界閉領域$D$とは, 十分大きい円盤をかけばその中に$D$が入り.$D$の無限部分集合の集積点がすべて$D$に 属することをいう.このとき

定理 2
     平面上の有界閉領域$D$で連続な実数値関数$F(x,\ y)$$D$で最大値,最小値をとる.

証明      $x$を固定すれば$y$の関数になり$x$を固定したとき$D$$y$の閉集合にあることは明らかである. したがって$x$を固定するたびに最大値$M(x)$が存在する.これは$x$の連続関数である.また, $I=\{x\ \vert\ (x,\ y)\in D\ \}$とおけば$I$は実数の集合の中の閉集合である.したがって$x$の関数としての$M(x)$に最大値$M_0$がある.$F(x,\ y)$が連続だから,先に y を固定して得られる最大値$M_1$と等しく, これが.$F(x,\ y)$$D$における最大値である.

最小値についても同様である.□

以下複素数係数の多項式を,変数を$z$で,係数を$c_i$で表すことにする.

\begin{displaymath}
f(z)=c_0z^n+c_1z^{n-1}+\cdots+c_n\quad (c_i \in C,\ c_0\ne 0)
\end{displaymath}

とする.また複素数体と複素数平面を同一視し$C$で表す.

代数学の基本定理を三段階に分けて証明する.最初の二段階を補題として示す.

補題 1
     $z=x+iy$とし, $F(x,\ y)=\vert f(z)\vert$とする.十分大きい$M$をとると

\begin{displaymath}
\vert x+iy\vert\ge M\quad ならば\quad \vert f(x+iy)\vert>\vert c_n\vert
\end{displaymath}

証明      $F(x,\ y)$は複素数平面全体で定義された$x$$y$の連続関数である.

そこで

\begin{displaymath}
\left\vert\dfrac{c_1}{c_0} \right\vert,\ \left\vert\dfrac{c_...
...\right\vert,\ \cdots,\
\left\vert\dfrac{c_n}{c_0} \right\vert
\end{displaymath}

の最大値を$N$として,$M=(n+1)N$とおく. $\vert z\vert=\vert x+iy\vert\ge M$ならば,

\begin{eqnarray*}
\vert f(z)\vert&=&\vert c_0\vert\vert z\vert^{n-1}
\left\vert ...
...ht\vert\\
&=&\vert z\vert^{n-1}\vert c_n\vert\ge \vert c_n\vert
\end{eqnarray*}

これで題意が示された.□

これは$\vert z\vert$の絶対値を十分大きくとれば,関数値の絶対値は定数項の絶対値$\vert c_n\vert$より大きくできる ということで,それ自体当然のことである.

補題 2

     $M$は前補題の$M$とする. 関数 $\vert f(z)\vert=\vert f(x+iy)\vert$の有界閉領域 $D=\{ z\in C\ \vert\ \vert z\vert\le M\ \}$における最小値は,関数$\vert f(z)\vert$$C$全体における最小値である.

証明      $a$が関数$\vert f(z)\vert$$D$における最小値とする.任意の$z\in C$について$z\in D$なら$a\le \vert f(z)\vert$$z\not\in D$なら前補題から $\vert f(z)\vert>\vert c_n\vert=\vert f(0)\vert\ge a$である.□

基本定理1の証明

関数$\vert f(z)\vert$$D$における最小値は定理2により存在する.その最小値を$a$とする.このとき

\begin{displaymath}
a=0
\end{displaymath}

であることを示す.

$a>0$として矛盾を示す.最小値を与える$z$$b$とする.つまり

\begin{displaymath}
\vert f(b)\vert=a>0
\end{displaymath}

と仮定する.ここで$z$$b$の周りに十分小さい半径で一周回す.そのために $u=\cos \theta+i\sin \theta$として$z=b+ru$とおく.

\begin{displaymath}
f(z)=f(b+ru)=a_0+a_1(ru)+a_2(ru)^2+\cdots+a_n(ru)^n
\end{displaymath}

と,$f(z)$を展開して$ru$の多項式に整理する.$a_0=f(b)\ne 0$である.$a_1$から順に見て 最初に0でない係数を$a_e$とする.

\begin{displaymath}
f(z)=f(b+ru)=f(b)+a_e(ru)^e+a_{e+1}(ru)^{e+1}+\cdots
\end{displaymath}

となる.$r$を十分に小さくとってすべての$\theta$に対して

\begin{displaymath}
\vert a_e(ru)^e\vert>\vert a_{e+1}(ru)^{e+1}+\cdots\vert\quad \cdots\maru{1}
\end{displaymath}

となるようにする.

なぜそれが可能か. $\vert a_{e+1}\vert,\ \cdots,\ \vert a_n\vert$の最大値を$A$とし,$l=n-e$とおくと

\begin{eqnarray*}
\vert a_{e+1}(ru)^{e+1}+\cdots\vert&\le&\vert A\vert(r^{e+1}+r...
...ert r^{e+1}\dfrac{1-r^l}{1-r}<\vert A\vert r^{e+1}\dfrac{1}{1-r}
\end{eqnarray*}

で, $\vert a_e(ru)^e\vert=\vert a_e\vert r^e$なので

\begin{displaymath}
\vert A\vert r^{e+1}\dfrac{1}{1-r}<\vert a_e\vert r^e
\end{displaymath}

となるようにとればよい.両辺$r^e$を約すと $\vert A\vert\dfrac{r}{1-r}<\vert a_e\vert$なので, このような$r$は存在する.

ここで$w=f(z)$によって複素数平面から複素数平面への関数を考える.

$\theta$が0から$2\pi$まで変化すると $f(b)+a_e(ru)^e$$f(b)$の周りを$e$回まわる.

$\vert w\vert=\vert f(z)\vert$はつねに$\vert w\vert\ge a$をみたす領域内になければならない.ところが $f(b)+a_e(ru)^e$ が図のように$f(b)$をとおり円$\vert w\vert= a$と垂直な直線上に来たとき,$\maru{1}$から$w=f(z)$$\vert w\vert\ge a$内にはあり得ない.

これは$a$$\vert f(z)\vert$の最小値であることと矛盾する.

したがって$a=0$となり確かに$f(z)=0$となる$z$が存在する.□


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