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オイラーの公式

史織   複素数の偏角について次の等式を『数学対話』の「複素数の構成」で証明しました.教科書にものっています.

$z_1,\ z_2$ を2つの複素数とし, $\arg$ で偏角を表すと

\begin{displaymath}
\arg(z_1z_2)=\arg(z_1)+\arg(z_2),\ \quad
\arg\left(\dfrac{z_1}{z_2}\right)=\arg(z_1)-\arg(z_2)
\end{displaymath}

それで思ったのですが,これってまったく対数の式

\begin{displaymath}
\log (xy)=\log x+\log y,\ \quad \log \left(\dfrac{x}{y}\right)=\log x-\log y
\end{displaymath}

ではありませんか.「偏角って対数?」と思いました.

南海  なるほど.

史織  それで,この式のもとは何かと考えるとそれはド・モアブルの定理です. $z_1=r_1(\cos \theta_1+i\sin \theta_1),\ z_2=r_2(\cos \theta_2+i\sin \theta_2)$ とすると

\begin{displaymath}
r_1(\cos \theta_1+i\sin \theta_1)\cdot r_2(\cos \theta_2+i\s...
...
=r_1r_2\{\cos (\theta_1+\theta_2)+i\sin (\theta_1+\theta_2)\}
\end{displaymath}

となります.

偏角を考えるのに大きさはいらないので $f(\theta)=\cos \theta+i\sin \theta$ とすると

\begin{displaymath}
f(\theta_1)\cdot f(\theta_2)=f(\theta_1+\theta_2)
\end{displaymath}

です.これは指数法則 $a^x\cdot a^y=a^{x+y}$ と同じです. すると $f(\theta)=\cos \theta+i\sin \theta$って「指数関数?」

南海  よく考えた.いわば高校数学の秘密に自分の力で迫っている. 結論から言えば $\cos \theta+i\sin \theta$はまさに指数関数だ.それは

\begin{displaymath}
e^{i\theta}=\cos \theta+i\sin \theta
\end{displaymath}

となる.これを オイラーの公式( Euler's formula ) という.

史織   べきに虚数が入るのですか.何か神秘的な感じですね.

南海   そうだ.三角関数と指数関数が虚数単位i をなかだちに結びついている. これは人類が発見した数学史上最もうつくしい公式だ.

この公式を理解するには左辺の定義から始めなければならない. そのためにはいくらか準備がいる. 高校の範囲では厳密には論証しきれないところが出る.しかしそれはそれでかまわない. 厳密には大学数学のなかで学んでもらいたい. オイラー(1707〜1783)の時代も19世紀以降の数学から見ればそんなに厳密であったわけではない. しかし彼らはすばらしい洞察力で新しい数学的な現象を発見した.

事実としての数学的現象をつかむことが大切だ.



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