上: 凸関数と不等式
前: ミンコフスキーの不等式と三角不等式
南海
これらの不等式は
さらに積分型で成り立ち,函数解析という分野でたいへん重要なものだ.
しかし高校範囲では,このあたりまでの一般化を見通せればよい.
拓生
一般化することによって,かえって見通しがよくなることがよくわかりました.
そのうえで,一般化することなく,高校で絶対不等式として習う相加平均と相乗平均の不等式から,
高校範囲のコーシー・シュワルツの不等式や三角不等式を直接に導く道筋を確認したいのです.
$x$ と $y$ を負でない実数とするとき,不等式
\[
\sqrt{xy}\leqq \dfrac{x+y}{2}
\quad \cdots@
\]
が成り立つ.等号は$x=y$のとき成立する.これが相加平均と相乗平均の不等式である.
これを用いてコーシー・シュワルツの不等式
\[
(a_1x_1+a_2x_2+\cdots+a_nx_n)^2\leqq
({a_1}^2+{a_2}^2+\cdots+{a_n}^2)
({x_1}^2+{x_2}^2+\cdots+{x_n}^2)
\quad \cdotsA
\]
を証明します.
証明
まず,
$a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_n$,$x_1,\ x_2,\ \cdots,\ x_n$ を負でない実数とする.
このときは不等式
\[
a_1x_1+a_2x_2+\cdots+a_nx_n\leqq
({a_1}^2+{a_2}^2+\cdots+{a_n}^2)^{\frac{1}{2}}
({x_1}^2+{x_2}^2+\cdots+{x_n}^2)^{\frac{1}{2}}
\quad \cdotsB
\]
等号は $a_1:x_1=\cdots=a_n:x_n$ のときである.
これをを示せばよい.
$x=\dfrac{{a_k}^2}{{a_1}^2+{a_2}^2+\cdots+{a_n}^2}$,
$y=\dfrac{{x_k}^2}{{x_1}^2+{x_2}^2+\cdots+{x_n}^2}$
を@に代入し,$k=1,\ 2,\ \cdots,\ n$ について加える.
\begin{eqnarray*}
&&\dfrac{a_1x_1+a_2x_2+\cdots+a_nx_n}{\sqrt{{a_1}^2+{a_2}^2+\cdots+{a_n}^2}\sqrt{{x_1}^2+{x_2}^2+\cdots+{x_n}^2}}\\
&\leqq&
\dfrac{1}{2}\left(\dfrac{{a_1}^2+{a_2}^2+\cdots+{a_n}^2}{{a_1}^2+{a_2}^2+\cdots+{a_n}^2}+
\dfrac{{x_1}^2+{x_2}^2+\cdots+{x_n}^2}{{x_1}^2+{x_2}^2+\cdots+{x_n}^2}\right)=1
\end{eqnarray*}
が得られる.これはBに他ならない.
等号は $x=y$ つまり
\[
\dfrac{{a_k}^2}{{x_k}^2}=
\dfrac{{a_1}^2+{a_2}^2+\cdots+{a_n}^2}{{x_1}^2+{x_2}^2+\cdots+{x_n}^2}
\]
が各 $k$ について成り立つときである.つまり $a_1:x_1=\cdots=a_n:x_n$ のときである.
$a_k,\ x_k$ が負でないとはかぎらないとき.一般に実数 $y_1,\ \cdots,\ y_n$ について
\[
|y_1+\cdots+y_n|\leqq |y_1|+\cdots+|y_n|
\]
が成り立ち,等号はすべて同符号のとき成立する.これは $n=2$ のときは両辺2乗して,一般の$n$については数学的帰納法で直接示される.よってAは
\begin{eqnarray*}
(a_1x_1+a_2x_2+\cdots+a_nx_n)^2
&=&|a_1x_1+a_2x_2+\cdots+a_nx_n|^2\\
&\leqq&(|a_1||x_1|+|a_2||x_2|+\cdots+|a_n||x_n|)^2\\
&\leqq&({a_1}^2+{a_2}^2+\cdots+{a_n}^2)
({x_1}^2+{x_2}^2+\cdots+{x_n}^2)
\end{eqnarray*}
より成立する.等号は $a_1x_1,\ a_2x_2,\ \cdots,\ a_nx_n$
が同符号でかつ $|a_1|:|x_1|=\cdots=|a_n|:|x_n|$ のとき.
つまり $a_1:x_1=\cdots=a_n:x_n$ のときである. □
次に,相加平均と相乗平均の不等式@から,三角不等式を導きます.
三角不等式は
\[
\left(\sum_{i=1}^n(a_i+b_i)^2\right)^{\frac{1}{2}}
\leqq
\left(\sum_{i=1}^na_i^2\right)^{\frac{1}{2}}+
\left(\sum_{i=1}^nb_i^2\right)^{\frac{1}{2}}
\]
でした.
その証明です.
まず,$a_i,\ b_i$ は負でないとしする.
\[
\sum_{i=1}^n(a_i+b_i)^2=\sum_{i=1}^n(a_i+b_i)(a_i+b_i)
=\sum_{i=1}^na_i(a_i+b_i)+\sum_{i=1}^nb_i(a_i+b_i)
\]
コーシー・シュワルツの不等式Bを,
$\displaystyle \sum_{i=1}^na_i(a_i+b_i)$と$\displaystyle \sum_{i=1}^nb_i(a_i+b_i)$
に対して用いる.
\begin{eqnarray*}
\sum_{i=1}^n(a_i+b_i)^2&\leqq&
\left(\sum_{i=1}^n{a_i}^2\right)^{\frac{1}{2}}
\left\{\sum_{i=1}^n(a_i+b_i)^{2}\right\}^{\frac{1}{2}}+
\left(\sum_{i=1}^n{b_i}^2\right)^{\frac{1}{2}}
\left\{\sum_{i=1}^n(a_i+b_i)^2\right\}^{\frac{1}{2}}\\
&=&
\left\{\sum_{i=1}^n(a_i+b_i)^2\right\}^{\frac{1}{2}}
\left\{\left(\sum_{i=1}^n{a_i}^2\right)^{\frac{1}{2}}+
\left(\sum_{i=1}^n{b_i}^2\right)^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{eqnarray*}
これから
\[
\left(\sum_{i=1}^n(a_i+b_i)^2\right)^{\frac{1}{2}}
\leqq
\left(\sum_{i=1}^na_i^2\right)^{\frac{1}{2}}+
\left(\sum_{i=1}^nb_i^2\right)^{\frac{1}{2}}
\]
を得る.等号成立は,
$a_i:(a_i+b_i)$,
$b_i:(a_i+b_i)$ が一定より. $a_i:b_i$ が一定のときである.
$a_i,\ b_i$ に負が混在する場合は,
\[
\sum_{i=1}^n(a_i+b_i)^2=\sum_{i=1}^n|a_i+b_i|^2
\leqq \sum_{i=1}^n(|a_i|+|b_i|)^2
\]
より,負がない場合に帰着する.
等号は $a_i:b_i$ が負でなく,すべて等しいときである.□
南海
高校では,
相加平均と相乗平均の不等式,
コーシー・シュワルツの不等式,そして三角不等式が別々の不等式として学ぶ.
しかしこれらがすべて,相加平均と相乗平均の不等式から導かれることを理解することはたいへん大切なことだ.
$\dfrac{1}{p}+\dfrac{1}{q}=1$ 型の参考問題:「津田塾大」
Aozora 2017-09-04