耕一
南海 そこで,内積が先か,大きさが先かということになる. 結論的には,ベクトル空間は内積を基礎にする.
耕一
『数学対話』-「高校数学の土台」-「座標の方法」-「ベクトルと座標」では,
内積の2つの定義
南海 今は,それ以前の議論をしている. 第1の定義のなかで用いられている「大きさ」と, 「なす角」はどのように定めるのか. また,第2の定義で用いた座標は,ベクトル空間では, まだ設定されていない.
耕一 確かに.
南海 ベクトル空間の内積を,次のように定義しよう.
第3の条件は,内積の定義そのものには不要で, この条件を満たすものを特に「正値な内積」と呼ぶのだが, 簡単のためここではこの条件も内積の定義のなかに入れておく. 直交座標が定まっていて,大きさが普通のユークリッド式の距離であるときは, を と書くのだった.
耕一 は何から来ているのですか.
南海 性質(i)と(ii)は, が, のそれぞれについて 一次(線型)であるということを意味している. すなわち を固定し, を変数とすると, はから実数への線型写像になっている. 逆に を固定しても同様である. つまり内積は双線型(bilinear)なのだ.このから来ている.
さて,今はまだ座標も定まっていない段階だが, 普通の座標が入った平面ベクトルでの内積の例を作っておこう.
耕一 内積の満たすべき性質(i)から
以上から
南海
そう.
さて,この内積を用いて,
ベクトルの大きさとしての絶対値
を次のように定める.
によって定まる絶対値という意味でを添えて書いておこう.
耕一
これは内積の定義から
南海
問題は三角不等式だ.つまり内積とそれを用いた絶対値の定義に対し
耕一 両辺負ではないので,2乗する. 左辺の2乗は
南海
実はこれより強い
耕一
これって,普通の場合,成分で書くと
南海 そう.この不等式が一般的な内積で成立する.これを証明しよう.
証明
のときは両辺0で成立. とする. 内積の定義(iii)から,任意の実数に対して
耕一 ということは先の例で考えた内積でこれを実際に書くと