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高校数学

初等数学での高校数学の位置

高校時代というのはこの初等数学の最後の段階であり,学んで身につける段階から能動的に考える段階への過渡期である.そこにおける方法論,その飛躍への道筋,これが「高校数学の方法」である.

構造・存在・構成

高校数学においても,「構造・存在・構成」という考え方が基礎にある.「構造・存在・構成」は19世紀の後半に西洋文明のなかで自覚的につかまれ,20世紀になって数学だけではなく,自然科学,言語学や社会科学など,およそ科学といわれる分野において一般的になった考え方である.人が何かを解明しようとするときとる普遍的な考え方である.

そのことを1次不定方程式で考えよう. $x$$y$を未知数とする$2x+3y=1$のような方程式を不定方程式という.この場合は$x$$y$の次数は1なので「1次不定方程式」という.どうして「不定」なのか.式$2x+3y=1$は座標平面では直線を表し,直線上の点の$xy$座標の値はすべてこの方程式を満たす.つまり,未知数の数(この場合は2個)より方程式の数(この場合は1個)が少なく,解は無数にあって定まらないので「不定」と言う.

例題 1.1       

$a$$b$が互いに素な整数であるとき, 一次不定方程式$ax+by=1$に関して,次の問いに答よ.

  1. $ax+by=1$に解$(x,\ y)$が存在するとき, 解の全体を$xy$平面上に置くと,直線$ax+by=1$上に等間隔に並んでいることを示せ.
  2. $a$$b$が互いに素であるという条件の下で解 $(x,\ y)$ が存在することを示せ.
  3. $a$$b$からはじめて解を実際に発見する一般的な方法があることを示せ.


解答

  1. 1組の解を$(x_0,\ y_0)$とし,他の任意の解を$(x,\ y)$とする.

    \begin{displaymath}
ax_0+by_0=1,\,ax+by=1
\end{displaymath}

    であるから,辺々引くことにより,

    \begin{displaymath}
a(x-x_0)+b(y-y_0)=0
\end{displaymath}

    となる. ところが$a,b$は互いに素であるから$y-y_0$$a$で割り切れ,整数$t$を用いて$y-y_0=at$と表せる. このとき,$x-x_0=-bt$となる.

         逆に任意の整数$t$を用いて

    \begin{displaymath}
x=x_0-bt \, \, \, , \, \, \, y = y_0+at
\end{displaymath}

    と表される$(x,\ y)$について,

    \begin{displaymath}
ax+by=a(x_0-bt)+b(y_0+at)=ax_0+by_0=1
\end{displaymath}

    より,与方程式の解となる.

    だから,$ax+by=1$のすべての解はあるひと組の解$(x_0,\ y_0)$と整数$t$を用いて

    \begin{displaymath}
x=x_0-bt,\quad y=y_0+at
\end{displaymath}

    と表される整数の集合である.

         これは解の全体を$xy$平面上に置くとき, 直線$ax+by=1$上に等間隔に並んでいることを意味している.

  2. 次の集合に含まれる正の最小の要素を$d$とする.

    \begin{displaymath}
J=\{ax+by \ \vert \ x,\ y は整数 \,\}
\end{displaymath}

    $d$$d=ax_0+by_0$とする.

         任意の$J$の要素$ax+by$をとり,それを$d$で割る.商が$q$,余りが$r$であるとする.

    \begin{displaymath}
ax+by=q(ax_0+by_0)+r,\ 0\le r <d
\end{displaymath}

    より

    \begin{displaymath}
r=a(x-qx_0)+b(y-qy_0)
\end{displaymath}

    となるので,$r$$J$の要素である. $r\ne 0$なら$d$$J$に含まれる正で最小の要素であることと矛盾する. よって$r=0$となり$J$の要素はすべて$d$の倍数である.

         一方

    \begin{displaymath}
a=a\cot 1+b \cdot 0\in J,\
b=a\cot 0+b \cdot 1\in J
\end{displaymath}

    なので$d$$a$$b$の公約数である.$a$$b$が互いに素なので$d=1$. このことは$ax+by=1$が,$1=ax_0+by_0$という解をもつことを意味している.
  3. $a>b$とし, $a=bq+r,(0 \le r <b)$とする.

    \begin{displaymath}
ax+by=(bq+r)x+by=rx+b(qx+y)
\end{displaymath}

    であるから,ここで$y'=qx+y$とおくと$ax+by=1$$rx+by'=1$となる. $rx+by'=1$の解$(x_0,y'_0)$が構成できれば, $y_0=y'_0-qx_0$によって定めた$(x_0,\ y_0)$$ax+by=1$の解 となる.

         $a$$b$が互いに素なら$b$$r$も互いに素であるから, こうして解が係数のより小さいものの解から構成できる. この過程を繰り返すと,最後は一方は$1$となる. $sx+y=1$または$x+ty=1$の解として$(0,1)$$(1,0)$がとれる. ここから逆に戻っていけば$ax+by=1$の解が得られる.

これが1次不定方程式の基本的な事実である.

(1)が1次不定方程式の解の構造を問うている.「構造」という言葉は訓読みすれば「つくりとかまえ」である.ものの内部のつくられかたと,そのものの現れかたを意味する.「社会構造」や「言語構造」などのように「構造」としてとらえるためには,考えている全体,という意識がなければならない.この全体という意識,考え方自体は近代が生み出したものであり,「構造」は近代になって用いられるようになった.そのさきがけは,次の二例である.

◇『小説神髄』(坪内逍遙)「いくらかはじめに土台をまうけてさて構造(カウゾウ)に着手せざれば」/ここでは「つくり」が主になっている.土台は構造に含まれていない.

◇『流行』(森鴎外)「此家は今日に見えている周囲の構造(コウザウ)が寺らしくても,寺ではない」/ここでは「かまえ」が主になっている.

このように数学は,考える対象を集合としてとらえ,その集合がどのような構造をもっているのか,それを考える.

だがさらに,考えている対象が本当に実質的な内容をもつのか,ということが問題である.(1)の$(x_0,\ y_0)$は存在するのか.条件を満たす集合の要素は「存在」しているのか.

そしてさらに,その要素を具体的につかむことができるのか,つまり一般的な「構成」方法はあるのか,が問題になる.

つまり考える対象としての集合が明確に定まったとしてそのうえで,

(1)
集合の要素相互はどのような関係になっているのか,つまり構造を解明する.
(2)
集合は空ではなく条件を満たす要素は存在するのか,つまり存在を証明する.
(3)
集合の各要素をつくり出す一般的な方法はあるのか,つまり構成方法を示す.
という問題が生まれる.数学は,集合を定めたうえでこの三項目を調べることで発展してきた.

構造は,存在と構成とあわせて考えるときはじめてその集合を解明したといえる.実は高校数学はすべてこのような「構造・存在・構成」を調べ,学ぶこととしてとらえることが出来る.

例題 1.2       

$a,\ b,\ c$を実数とする$x$の方程式$ax^2+bx+c=0$に関して,次の問いに答よ.

  1. 方程式の解の集合の要素の個数を求めよ.
  2. 実数の解が存在するための$a,\ b,\ c$に関する必要十分条件を求めよ.


解答     

  1. $a=0$のとき.方程式は$bx+c=0$$b=c=0$なら無数(不定).$b=0,\ c\ne 0$なら解なし.$b\ne 0$のとき, $x=-\dfrac{c}{b}$で1個.

    $a\ne 0$のとき.方程式を変形して

    \begin{displaymath}
a\left(x+\dfrac{b}{2a} \right)^2+\dfrac{-b^2+4ac}{4a}=0
\end{displaymath}

    となる.よって

    \begin{displaymath}
x=\dfrac{-b\pm \sqrt{b^2-4ac}}{2a}
\quad \cdots\maru{1}
\end{displaymath}

    したがって$b^2-4ac=0$なら1個.$b^2-4ac\ne 0$なら2個. 以上から解の集合の要素の個数は次のようになる.

    \begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{ll}
無数&(a=b=c=0)\\
なし...
...\
2個&(a\ne 0かつb^2-4ac\ne 0)
\end{array}
\right.
\end{displaymath}

  2. $\maru{1}$が実数となる必要十分条件は

    \begin{displaymath}
b^2-4ac\ge 0
\end{displaymath}

    である.


$a\ne 0$の場合にも解の構成方法が存在し, それをまとめたものがいわゆる2次方程式の解の公式である. それを解答のなかで用いている.

さらに,すべての3次方程式,4次方程式の解を構成する方法がある.つまり,3次方程式,4次方程式の解の公式が存在する.

18世紀から19世紀,5次方程式の解の公式を作ろうと多くの人が努力した.しかし出来なかった.ついに,アーベルとガロアによって,5次方程式には解の公式が存在しないことが証明された.

解はつねに存在する.しかしそれを求める一般的な方法はない.

ここでこのような集合とその構造に関する入試問題を紹介しよう.

例題 1.3       [01京府医2番]

0でない複素数からなる集合 $G$ は次を満たしているとする.

\begin{displaymath}
G\ の任意の要素\ z,\ w の積\ zw\ は再び\ G\ の要素である.
\end{displaymath}

(1)
ちょうど $n$ 個の複素数からなる $G$ の例をあげよ.
(2)
ちょうど $n$ 個の複素数からなる $G$ は (1) の例以外にないことを示せ.


解答     

  1. $\alpha=\cos\dfrac{2\pi}{n}+i\sin\dfrac{2\pi}{n}$ とおく.

    \begin{displaymath}
G=\{1,\ \alpha,\ \alpha^2,\ \cdots,\ \alpha^{n-1}\}
\end{displaymath}

    とする.この要素はすべて異なり $n$ 次方程式 $x^n-1=0$$n$ 個の解の全体である.

    $G$ の任意の2つの要素 $\alpha^i,\ \alpha^j\ (0\le i,\ j\le n-1)$ に対して $\alpha^{i+j}$ も明らかに $x^n-1=0$ の解なので,再び $G$ の要素である.

    よって $G$ は題意を満たすちょうど $n$ 個の複素数からなる集合である.

  2. $G$ の要素 $z$ に対し, そのべき $z,\ z^2,\ z^3,\ \cdots$ もすべて $G$ の要素である. $z\in G$ とし $z=r(\cos \theta+i\sin \theta)$ とする.

    \begin{displaymath}
z,\ z^2,\ z^3,\ \cdots
\end{displaymath}

    が有限集合なので,すべてが異なることはありえない.ゆえに

    \begin{displaymath}
z^i=z^j\ (i < j)
\end{displaymath}

    となる $i,\ j$ がある.両辺の絶対値をとり

    \begin{displaymath}
r^i=r^j \quad ∴ \quad r=1
\end{displaymath}

    かつ

    \begin{displaymath}
z^{j-i}=1
\end{displaymath}

    したがって $G$ の要素はすべて1のべき根である.

    $z\in G$$z^m=1$ なら $z^{-1}=z^{m-1}$なので$z^{-1}\in G$ である.つまり

    $z,\ w \in G$ なら $z^{-1}w \in G$ である.

    $G$ の要素 $z$ の偏角 $\arg z$ $0 \le \arg z <2\pi$ でとるとする.

    $G$ の要素で偏角が正で最小であるものを $\alpha$ とする.

    $G$ の任意の要素 $z$ をとる.

    \begin{displaymath}
m \arg \alpha \le \arg z < (m+1)\arg \alpha
\end{displaymath}

    となる正整数 $m$ がある.

    このとき $z\alpha^{-m}\in G$ であるが

    \begin{displaymath}
0\le \arg(z\alpha^{-m})<\arg \alpha
\end{displaymath}

    となる.

    もし $0\ne \arg(z\alpha^{-m})$なら偏角が正で $\arg \alpha$ の偏角より小さい 要素 $z\alpha^{-m}$ が存在し,$G$ の要素で偏角が正で最小であるものを $\alpha$ としたことと矛盾する.

    ゆえに $0=\arg(z\alpha^{-m})$.つまり $z=\alpha^m$

    ゆえに $G$ の要素はすべて $\alpha$ のべきである. $\alpha$ のべきで初めて1になるものを $\alpha^m(=1)$ とすれば

    \begin{displaymath}
G=\{\alpha,\ \alpha^2,\ \cdots,\ \alpha^{m-1},\ \alpha^m \}
\end{displaymath}

    となる.ゆえに $m=n$$G$ は(1)で作った例と一致した.


    別解     $G=\{z_1,\ z_2,\ \cdots,\ z_n\}$とする.

    $G$の任意の要素$w$をとる.条件から $k=1,\ 2,\ \cdots,\ n$に対して $wz_k\in G$なので,

    \begin{displaymath}
\{wz_1,\ wz_2,\ \cdots,\ wz_n\}\subset G
\end{displaymath}

    である.一方,$w\ne 0$なので, $k=1,\ 2,\ \cdots,\ n$に対する$wz_k$はすべて異なる. よって $\{wz_1,\ wz_2,\ \cdots,\ wz_n\}$$n$個の要素からなり,

    \begin{displaymath}
\{wz_1,\ wz_2,\ \cdots,\ wz_n\}= G
\end{displaymath}

    である.この結果,それらの積も相等しい.

    \begin{displaymath}
wz_1\cdot wz_2\cdot \cdots\cdot wz_n=z_1z_2\cdots z_n
\end{displaymath}

    つまり

    \begin{displaymath}
w^nz_1z_2\cdots z_n=z_1z_2\cdots z_n
\end{displaymath}

    $z_1z_2\cdots z_n\ne 0$なので,$w^n=1$となり, $G$の要素はすべて1の$n$乗根である. $n$個の要素からなる1の$n$乗根の集合は 1) の例に一致する.

命題・条件・証明

構造・存在・構成はすべて命題として記述され,その成立が証明されてはじめて事実として確定する.

「命題」とは何か

与えられた条件を明確にし,その下で証明すべき結論を明確にする. これが基本である.そのために日頃使っている「命題」や「条件」とは何であるのかをはっきりさせよう. 「条件」を理解するためにはその前提として「命題」を理解しなければならない.多くの教科書の「命題と証明」の章では「命題」が次のように定義されている.
式や文章で表された事柄で,正しいか正しくないかが明確に決まるものを命題という.命題が正しいことをであるといい,正しくないことをであるという.

「事柄」そのものは定義されていないが,数学的現象について何らかの事実や推論を述べたもの,と言うことである.「5は3より大きい」は命題である.「5は3より美しい」は命題ではない.なぜなら「3より大きい」は明確に定義されるが,「3より美しい」は定義されないからである,としてよい.

命題の定義への疑問

この段落は難しければ読み飛ばしてもよいところだ.しかしこの教科書の定義に何かひっかかるものを感じた人はいないだろうか.何か疑問が起こらなかっただろうか.

「正しいか正しくないかが,明確に決まる」かどうかどうやって判断するのだろう.証明できるか反例があげられたとき真偽が決定される.とすれば,証明もできないし反例もあげられないとき,それは命題ではないのか,あるいは力不足で証明もできないし反例もあげられないだけであるのか,どうやって判断するのかということである. 証明もせず反例もあげないで,あらかじめ「命題」であるかどうか判断できるのだろうか.

さらに次のような問題もある.正しいか正しくないかはつねに決定されるのか,ということである.命題は真偽いずれかであるとしても,決定はできるのか.実はこの問題は数学体系の完備性,十分性という問題で,大変難しい.

これらはすべて当然で自然な疑問である.だが,この問題を掘りさげようと思ったら,数学基礎論の勉強をしなければならない.いずれも数学体系をどのように組み立てるのかという難しい問題なのだ.高校の教科書の定義は厳密な意味で「命題」の定義ではない.実は命題とは「いくつかの公理と論理演算の列」として定義されるのだが,ここではそれ以上追求することはできない.

このように高校数学のなかには,論理的な穴がいっぱいある.それはそれでいいのだ.それは人間が数学的現象を捉えるときの不十分さということであり,さらに学ぶなかで必要なときに解決していけばいいのだ.もし上に書いたようなことが気になる人はさらに勉強を続けてほしい.

命題の意味

高校数学段階ではこれらを問題にする必要はない.「5は3より大きい」は命題である.「5は3より美しい」は命題ではない.なぜなら「3より大きい」は明確に定義されるが,「3より美しい」は定義されないからである,としてよい.そこでこれを踏まえて,われわれの数学の世界では,真偽は確定するとして,命題を次のように理解すればよい.
数学的に定義され内容の確定する主部と述部よりなる文
ここで「主部」とは,何について述べるかを明示する部分,「述部」とは主部で明示されたものの属性であると主張する部分である.主部で明示されたものが実際にその属性をもつか否かいずれかであり,それによって命題の真偽は確定する.

「条件」とは何か

教科書では「条件」とは何かについて,明確には述べられていない.教科書では命題よりも先に必要条件や十分条件,つまりは「条件」が出てくる構成になっている.そのため「条件」とは何かが明確にならないのだ.

「命題」はわかったものとし,これを基本にして順次考えていこう.「16は4の倍数である」は命題である.この16を変数 $x$ に変えた「 $x$ は4の倍数である」は$x$に何が入るのかによって真になったり偽になったりする.この場合は16を$x$に置きかえたが文字は必要に応じて使い分ける.

命題の主部を適当な変数,例えば $x$$a$ などに置きかえたものを命題関数という.そしてこれを $p$ や,変数を明確にしたいときは $p(x),\ p(a)$ のように書く.例えば $p(a)$ :「$a$ は奇数である」のようなものだ.命題関数 $p(x)$ はそれ自体真偽が定まらないから命題ではない. $x$ に値を代入することによって命題になる.「真である」ことを「成立する」ともいう.

この$p(x)$についていえば,$p(3)$つまり「3 は奇数である」は真,$p(4)$つまり「4 は奇数である」は偽である.命題関数というからには何かの値をとると考えることもできる.この場合の値は何かといえば,それは「真」と「偽」だこの二つの値をとる.だから上の例では $p(3)=真,p(4)=偽$ と考えることもできる.

そこで「条件」の定義だが,命題関数 $p(x)$ のことを$x$ に関する条件というのだ.命題の定義にたちかえっていうと,文字を $x$ とすれば,条件とは「$x$ に代入することによって真偽が定まる式や文」のことである.何となく使ってきた「条件」もこのようにして明確に定義される.

実数$a,\ b,\ c$に対し 2次方程式 $ax^2+bx+c=0$ は実数根をもつ.
は,文字 $a,\ b,\ c$ に関する条件である.上の書き方では命題関数 $p$
$p(a,\ b,\ c)$ :「$ax^2+bx+c=0$ は実根をもつ.」
となる.一方,文字 $a,\ b,\ c$ に関する別の条件を
$q(a,\ b,\ c)$$a,\ b,\ c$$b^2-4ac \ge 0$ を満たす.
とおく.すると,
命題関数$p(a,\ b,\ c)$は,$q(a,\ b,\ c)$を満たすなら真である.
命題関数$q(a,\ b,\ c)$は,$p(a,\ b,\ c)$を満たすなら真である.
のいずれもが成り立つ.このようなとき,2つの条件 $p(a,\ b,\ c)$$q(a,\ b,\ c)$同値であると言う.

なお,条件は単に$p$のように変数を明示しないで書くことも多い.

複合命題

「命題」はいくらでも複雜なものがあり得る.いちばん単純なのは「何々(について述べる)」という主題の部分(主部)と「(何々)である」とそのものの内容を述べる述語の部分(述部)から成り立っている断定型である.「3は奇数である」とかのたぐいだ.

これに対して,二つの条件$p,\ q$を用いて $p\Rightarrow q$と表される推論も命題である.推論型の命題を複合型命題ということもある.ここで$p$$q$は例えば

$p$$x$$-1\le x \le 2$をみたす.     $q$$x$$0\le x \le 1$をみたす.
のような何かの条件である.この例の場合$x$についての条件である.

このように命題には事実を述べた断定型と,推論を述べた推論型がある.しかし「3は奇数である」という断定型命題は,「$x$が3ならば$x$は奇数である」と推論型に表されるので,基本的に命題は推論型であるとしてもよい.

条件$p$が成立するならば,条件$q$が成立する.     (これを「 $p\Rightarrow q$」と記す).
の形に表される命題を考えよう.このとき 条件$p$ をこの命題の仮定(条件), 条件$q$結論(条件)という.

証明とは何か

証明とは, $p\Rightarrow q$という複合命題において, 条件$p$が成立するならば条件$q$が成立することを, 各段階において根拠が示される$\Rightarrow$で結ぶことに他ならない.

\begin{displaymath}
p \Rightarrow q_1\Rightarrow q_2\Rightarrow \cdots
\Rightarrow q_m\Rightarrow q
\end{displaymath}

とつなぐ.各 $\Rightarrow q_j$は, $q_{j-1}$と,すでに証明が済んでいて用いることが出来る他の命題とから,ただちに示されなければならない.

いわば,複合命題をさらに細かく分けて, 各段階の成立が明白となるようにすることである.

その道筋を見つけることが,証明の根幹である.

仮定される条件と示すべき結論を明確に

数学の問題とはこのような複合型命題の真偽の決定問題,あるいは条件が真となる$x$の値の決定問題のいずれかであると言ってもよい.そこで,問題文を読んだらその問題の構造をつかまなければならない.仮定と結論とよく言われるが,仮定とは「何々のとき」「何々とすれば」のように,何ごとかに関する条件が成立するという仮定である.結論はその条件が成立するときに,その結果として成り立つ事実であり,これもまた一つの条件である.

だから問題解決の第一歩は,次のことを確認することである.

  1. 全体に共通な大前提は何か.
  2. 成立が仮定される条件は何か.
  3. その結果として成立することを示すべき結論, あるいは決定すべき事柄は何か.

このように問題を読んだらまず問題を分析し,どのような条件が成立すると仮定するとき,何を決定しなければならないのかを明確にすることである.

例題 1.4       [09京大理系乙]

平面上の鋭角三角形 $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の内部(辺や頂点は含まない)に点Pをとり, $\mathrm{A}'$をB,C,Pを通る円の中心, $\mathrm{B}'$をC,A,Pを通る円の中心, $\mathrm{C}'$をA,B,Pを通る円の中心とする. このときA,B,C, $\mathrm{A}',\ \mathrm{B}',\ \mathrm{C}$が同一円周上にあるための 必要十分条件はPが $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の内心に一致することであることを示せ.


考え方    
全体に共通な前提:

平面上の鋭角三角形 $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の内部(辺や頂点は含まない)に点Pをとり, $\mathrm{A}'$をB,C,Pを通る円の中心, $\mathrm{B}'$をC,A,Pを通る円の中心, $\mathrm{C}'$をA,B,Pを通る円の中心とする.

このもとで,二つの命題:

甲:A,B,C, $\mathrm{A}',\ \mathrm{B}',\ \mathrm{C}$が同一円周上にある.
乙:Pが $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の内心に一致する.
に対し「甲ならば乙」,「乙ならば甲」のいずれもが成り立つことを示す. これが問題の構造である.

そのうえで証明法であるが,次のような間接証明ができないか考えてみよう.

1) 条件$A$を満たすものは一つしかない.     2) $X$$Y$も条件$A$を満たす.
3) ゆえに$X=Y$である.

中心が同一直線上にない三円が同一の点を共有すれば, その点は一つしかない.あるいは,三角形の外心はただ一つしかない. この簡単なことを用いると比較的簡明に証明できる.

証明    

$\mathrm{P}$ $\mathrm{A}',\ \mathrm{B}',\ \mathrm{C}'$が題意のように定まっている 前提のもとで次の二条件の同値性を示す.

条件甲:A,B,C, $\mathrm{A}',\ \mathrm{B}',\ \mathrm{C}'$が同一円周上にある.

条件乙:Pが $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の内心$\mathrm{I}$と一致する.

(1)    甲ならば乙を示す.

\begin{picture}( 12.6600, 14.0700)( 2.0000,-14.3400)
% CIRCLE 2 0 3 0
% 4 833 ...
...
\special{pn 8}%
\special{ar 684 200 88 88 0.9433259 1.9457425}%
\end{picture}
     $\mathrm{A'B}=\mathrm{A'C}$より$\mathrm{A}'$は弧$\mathrm{BC}$の中点. 円周角の相等より $\angle \mathrm{A'AB}=\angle \mathrm{A'AC}$. つまり直線$\mathrm{AA'}$は角$A$の二等分線である. 従って内心$\mathrm{I}$$\mathrm{AA'}$上にある. 他についても同様なので,三直線 $\mathrm{AA'},\ \mathrm{BB'},\ \mathrm{CC'}$は 内心$\mathrm{I}$で交わる.

     $\angle \mathrm{CIA'}=\angle \mathrm{IAC}+\angle \mathrm{ICA},\
\angle \mathrm{ICA'}=\angle \mathrm{ICB}+\angle \mathrm{BCA'}$ である.

    ここで 角の二等分より $\angle \mathrm{ICA}=\angle \mathrm{ICB}$. 円周角の相等によって $\angle \mathrm{BCA'}=\angle \mathrm{BAA'}=\angle \mathrm{IAC}$. これから $\angle \mathrm{CIA'}=\angle \mathrm{ICA'}$が結論される.

    この結果 $\mathrm{A'I}=\mathrm{A'C}$となり,内心$\mathrm{I}$$\mathrm{A}'$を中心とし $\mathrm{B},\ \mathrm{C}$を通る円周上にある.点$\mathrm{P}$も同じ円周上にある. $\mathrm{B'},\ \mathrm{C'}$についても同様に成り立つ.


三点 $\mathrm{A}',\ \mathrm{B}',\ \mathrm{C}'$ を中心とする三円上に$\mathrm{I}$$\mathrm{P}$の両点がある. これら三円の中心が一直線上に来ることはない. よって三円が共有する点は一点しかない. つまり $\mathrm{P}=\mathrm{I}$である.


(2)    乙ならば甲を示す.



     $\angle \mathrm{A}$の二等分線と $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の外接円の交点を     $\mathrm{A}''$とする. 点$\mathrm{P}$は内心なので,(1)と同様にして, $\mathrm{PA''}=\mathrm{BA''}=\mathrm{CA''}$である.

    つまり$\mathrm{A}''$は三点 $\mathrm{P},\ \mathrm{B},\ \mathrm{C}$ から等距離にある.点$\mathrm{A}'$も等距離にある. 同一直線上にない三点から等距離にある点は一つなので $\mathrm{A}'=\mathrm{A}''$である.つまり $\mathrm{A}'$ $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の外接円上にある. 他も同様である.□


\begin{picture}( 12.1100, 13.6000)( 2.1400,-13.8500)
% LINE 2 0 3 0
% 6 678 18...
...special{pn 8}%
\special{ar 820 780 606 606 0.0000000 6.2831853}%
\end{picture}


では次の問題はどうだろうか.

例題 1.5       [06大府大後期経済]

$x,\ y,\ z$を0でない3つの実数とする. $A=x+y+z$$B=xy+yz+zx$$C=xyz$とおき, 以下の命題を考える.

($p$)
$A=0$ならば,$B<0$である.
($q$)
$A,\ B,\ C$がすべて正ならば, $x,\ y,\ z$はすべて正である.
($r$)
$x,\ y,\ z$の1つだけが正ならば, $A<0$または$B\le 0$である.
このとき以下の問に答よ.
  1. $(p)$が成り立つことを証明せよ.
  2. $(q)$が成り立つことを仮定して$(r)$が成り立つことを証明せよ.
  3. $(q)$が成り立つことを証明せよ.

こうなると問題の分析が難しい.(2)は前提が $(q)$である.そのもとでの$(r)$の成立を示せといっている.このところをおさえることと,命題の否定の作り方を正しくすること.これに注意して解いてみてほしい.


解答     

(1)
$A=0$なので,$z=-x-y$である. よって,

\begin{eqnarray*}
B&=&xy+y(-x-y)+(-x-y)x\\
&=&-x^2-xy-y^2=-\left(x+\dfrac{y}{2}\right)^2-\dfrac{3y^2}{4}\le 0
\end{eqnarray*}

これが0になるのは, $x+\dfrac{y}{2}=0,\ y=0$,つまり$x=y=0$のとき. $x,\ y,\ z$が0でない3つの実数なので等号は成立しない. これより$B<0$である.
(2)
($r$)の対偶を示す.

($r$)の対偶は,「$A\ge 0$かつ$B>0$であるとき, $x,\ y,\ z$の正の個数は0,2,3である」である.

もし$A=0$なら(1)から$B<0$なので,$A\ne 0$.よって$A>0$である.

$C>0$なら($q$)から$x,\ y,\ z$の正の個数は3. $C<0$なら$x,\ y,\ z$の正の個数0か2.

よって($r$)の対偶が示された.

(3)
$A,\ B,\ C$がすべて正なので,特に$C=xyz>0$ よって$x,\ y,\ z$のなかに0はなく,負のものは偶数個である.

$x>0,\ y<0$$z<0$とする. $A=x+y+z>0$より$x>-(y+z)$である.$y+z<0$なので

\begin{eqnarray*}
B&=&xy+yz+zx=x(y+z)+yz\\
&<&-(y+z)^2+yz=-\left(y-\dfrac{z}{2} \right)-\dfrac{3}{4}z^2<0
\end{eqnarray*}

したがって$B>0$と矛盾した.

よって$x,\ y,\ z$のなかの負のものは0個,つまりすべて正である.  □


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Aozora 2018-02-25