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等しいものを文字に置く

二つ以上の等号でむすばれた条件などは, その等しいものを別の文字で表すことによって, 論証が簡明になることが多い. 同一の文字で表さたものは,相等しい.

例題 2.1       [84防衛大改題]

相異なる3数 $a, b, c$

\begin{displaymath}
\dfrac{a^3+2a}{a+1}=\dfrac{b^3+2b}{b+1}=\dfrac{c^3+2c}{c+1}
\end{displaymath}

を満たすとき,次の式の値を求めよ.
  1. $a+b+c$
  2. $abc+ab+bc+ca$


考え方     問題の条件は三つの分数式の値が等しいといっている. $a, b, c$ 三つの文字に対して等式は二つだから $a, b, c$ の値が定まるわけではない. しかし一定の式の値は定まる.それを求めよといっている. 三つ以上のものが等しい場合は,その式の値を文字におく. 互いに等しい値を文字におくのだ. これは等しいものを文字におく典型だ. そして得られた式を見れば,$a, b, c$について同じ形をしている. これはどういうことか.そこから解答作りがはじまる.

解答    

\begin{displaymath}
\dfrac{a^3+2a}{a+1}=\dfrac{b^3+2b}{b+1}=\dfrac{c^3+2c}{c+1}
=k
\end{displaymath}

と置く.すると
\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
a^3+2a=k(a+1)\\
b^3+2b=k(b+1)\\
c^3+2c=k(c+1)
\end{array}\right.
\end{displaymath} (2.1)

が成り立つ.ゆえに三数 $a, b, c$ は3次方程式

\begin{displaymath}
X^3+(2-k)X-k=0
\end{displaymath}

の三解である. 3次方程式の解と係数の関係から

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
a+b+c=0\\
ab+bc+ca=2-k\\
abc=k
\end{array}\end{displaymath}

つまり,

\begin{displaymath}
a+b+c=0,\ \quad abc+ab+bc+ca=2
\end{displaymath}

最初に等しいものを一つの文字に置くことがカギである. なお,解と係数を用いて関係式を導いたところは, 次のように辺々引いて求めていくこともできる.

解答2     (2.1)の第1式と第2式,第2式と第3式をそれぞれ引くと

\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
a^3-b^3+2(a-b)=k(a-b)\\
b^3-c^3+2(b-c)=k(b-c)
\end{array}\right.
\end{displaymath}

$a-b\ne 0,\ b-c\ne 0$ なので
\begin{displaymath}
\left\{
\begin{array}{l}
a^2+ab+b^2+2=k\\
b^2+bc+c^2+2=k
\end{array}\right.
\end{displaymath} (2.2)

さらにこの二式を辺々引いて

\begin{displaymath}
a^2-c^2+b(a-c)=(a-c)(a+b+c)=0
\end{displaymath}

$a-c\ne 0$なので

\begin{displaymath}
a+b+c=0
\end{displaymath}

が得られる.

(2.1) の三式をすべて加えると

\begin{displaymath}
a^3+b^3+c^3+2(a+b+c)=k(a+b+c)+3k
\end{displaymath}

$a+b+c=0$ なので

\begin{displaymath}
a^3+b^3+c^3=3k
\end{displaymath}

一方

\begin{displaymath}
a^3+b^3+c^3-3abc=(a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)
\end{displaymath}

なので,$a+b+c=0$ を用いると $a^3+b^3+c^3-3abc=0$. あわせて$k=abc$ を得る.

(2.2)式と $c^2+ca+a^2+2=k$ の三式を加えると

\begin{eqnarray*}
&&2(a^2+b^2+c^2)+ab+bc+ca+6=3k\\
&\iff&2\{(a+b+c)^2-2(ab+bc+ca)\}+ab+bc+ca+6=3abc
\end{eqnarray*}

より

\begin{displaymath}
abc+ab+bc+ca=2
\end{displaymath}

を得る.□

もしこの$k$とおく方法を使わず, 与えられた関係式のみから求めると,やや複雑になる.

解答3    

\begin{displaymath}
\dfrac{a^3+2a}{a+1}=\dfrac{b^3+2b}{b+1}
\end{displaymath}

より

\begin{eqnarray*}
0&=&(a^3+2a)(b+1)-(b^3+2b)(a+1)\\
&=&a^3b-ab^3+a^3-b^3+2a-2b\\
&=&(a-b)\{ab(a+b)+a^2+ab+b^2+2\}
\end{eqnarray*}

$a-b\ne 0$ なので
\begin{displaymath}
ab(a+b)+a^2+ab+b^2+2=0
\end{displaymath} (2.3)

同様に

\begin{displaymath}
bc(b+c)+b^2+bc+c^2+2=0
\end{displaymath}

得られた二式を辺々引いて

\begin{eqnarray*}
0&=&a^2b+ab^2-b^2c-bc^2+a^2-c^2+ab-bc\\
&=&(a-c)\{b(a+c)+b^2+a+c+b\}
\end{eqnarray*}

$a-c\ne 0$ なので

\begin{displaymath}
0=b(a+c)+b^2+a+c+b=(a+b+c)(b+1)
\end{displaymath}

$b+1$は条件式の分母にあり0ではない.

\begin{displaymath}
∴\quad a+c+b=0
\end{displaymath}

が得られる.

(2.3)に$a+b=-c$を代入して

\begin{displaymath}
-abc+a^2+ab+b^2+2=0
\end{displaymath}

および同様に得られる二式

\begin{eqnarray*}
&&-abc+b^2+bc+c^2+2=0\\
&&-abc+c^2+ca+a^2+2=0
\end{eqnarray*}

をすべて加えると


ここで

\begin{displaymath}
a^2+b^2+c^2=(a+b+c)^2-2(ab+bc+ca)=-2(ab+bc+ca)
\end{displaymath}

なので


これから

\begin{displaymath}
abc+ab+bc+ca=2
\end{displaymath}

を得る.□

これは簡単な例であるが,三通りの方法で解くことができた. このようにひとつの解法が見つかっても, それで終わりにせずに他の解法はないか,考えてみたい. 異なる問題を三題解くよりも, 同じ問題を三通りの方法で解く方が力がつく.


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