この観点から,値域・軌跡・通過範囲を統一的に把握しよう. これは,問題の構造をよく見て論理的に考える練習になる.
問題を解きながら,普通はどのようにいわれているのか,考えていこう. あえて問題にあわせた解答をしていく.
解答
となり,グラフの軸が である. したがってここでは単調増加なので
の連立方程式と見て解く.
解2
となる が存在するのは
本問の図形が「 が実数を動くときの二直線の交点の軌跡」というものだ. 「軌跡」といっても「点の集合」であることに変わりない.
求める であることは, となる の範囲の が存在することと同値である.
ゆえに の二次方程式 が に解をもつような
に他ならない. とおく.次のいずれかが成り立てばよい.
は, なら , なら を意味する.
これは「領域から領域への写像」だ.
通常「値域,軌跡,通過範囲」といわれるものもこのように言い方や見方をかえれば, 同じ型の問題であることは理解できただろうか.
を数直線や座標平面,またはその部分集合とする. の要素を動く変数 と の要素を動く変数 の間の関係式がある (一つとはかぎらない)とする.この関係式を と象徴的に書こう.象徴的というのは,式が一つとはかぎらないからである. また, や と大文字を使ったのは, のような平面の点(二変数)のこともあるからだ. 一変数のときは小文字を使うのが普通だが統一的に大文字にした. は通常のいい方では媒介変数にあたる.
この観点から例題の(1)(2)(3)を再度一般的な命名と問題の形にまとめる.
このように上の問題はどれも次の形をしている,
集合 と集合 の要素の間に一定の関係があるときに, の部分集合の各要素とこの関係で対応するの要素の集合を求めよ.集合で書けばは次のように書ける.
受験参考書ではこのようにして媒介変数の存在条件として を求める方法を 「逆像法」とか「逆手法」とかいうことが多い. 何となく「裏ワザ」的な名前がついているため, 正面から勉強しないことが多いようだが, この方法こそ問題の構造を論理的に解明する「正攻法」なのだ. これがときに応じて値域であり,軌跡であり,通過領域,ということだ. 値域とか,軌跡とか,通過領域とか, いろいろに訳すのは日本の高校数学ぐらいなもので, かえってわかりにくくなっている. 大切なことは, この は媒介変数が存在するための条件として定まるということだ.
ただしあくまで「定まる」ということであって, 具体的に求まるかどうかは別の問題である. 例えば『数学対話』のなかの「包絡線」で取りあげた通過領域は, この方法では具体的には求まらなかった. そこでもう少し,軌跡や通過領域を図形的に考えることが必要になり, それを述べたのが,「包絡線」である.
また,例題の(4)で,もし として対称性を崩すと, たちまちこのままではできない. この場合も領域の形を定めるためには,別の工夫がいる. 万能ということではなく,領域や軌跡が何によって定まるのかを, しっかりおさえよ,ということである. 入試問題は, この対象のなかにある論理がつかめているかを問う問題が多く, したがって,ここで述べてきたことで解けるものがほとんどなのだ.
例題 1.3
[92千葉大]
線分ABを直径とする半円がある. 周上の弧PQを弦PQで折り返したとき,折り返された弧が ABに接したとする(右図). このような弦PQの存在する範囲を求めて図示せよ.
考え方
さてこれは何をどう置けばよいのか.
まずこれは座標平面に入れよう.当然円の中心を原点にする単位円だ.
座標平面に入れて考える.折り返すとはどういうことだ.
円弧を折り返すように考えるが,折り返された円弧は別の円の弧の一部だ.
ここが飛躍だ.この新しい折り返された円は,当然もとの円と半径は同じ1だ.
では中心は. 軸に接する円の中心の 座標は 軸との接線だ.
そこで,「何をどう置くか」だ.
解答
接点を とおく.
折り返された円は中心が で半径が1の円である.
よって弦PQの通過範囲は 媒介変数 が を動くときの, 直線 の通過範囲と, 円の周および内部の共通部分である.
よって, , または 軸 が成り立てばよい. がこの二組の条件のいずれにも入っているが, 「または」だからこれでよい.
これから次のいずれかを満たす点の集合と 円の周および内部との共通部分が求めるものである. 「,」はすべて「かつ」を意味する. \begin{eqnarray*} @&&1-x-y\leqq 0,\ かつ\ 1+x-y\geqq 0\\ A&&1-x-y\geqq 0,\ かつ\ 1+x-y\leqq 0\\ B&&x^2-(1-2y)\geqq 0,\ 1-x-y\geqq 0,\ \\ &&\quad 1+x-y\geqq 0,\ かつ\ -1\le x\leqq 1 \end{eqnarray*}
この領域と半円の内部の共通部分が求める通過範囲である.
図示すると次のようになる.□