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はじめに

2018年は明治維新から150年の節目の年である.それは西洋式の近代数学が導入されて150年ということである.

ここで「大学初年級数学」とは,かつては「教養課程の数学」とも言ったが,それぞれの専門分野に分かれる前の,共通に学ぶ段階の数学のことを言う.私は,その段階でこそ,現代文明の普遍的な方法としての数学が,その基本において伝えられ,問題をとらえる力として学生の身につかねばならないと考えている.

近代150年を経た今日の数学は,この観点から改めて検証されねばならない.

私は,かつて公立高校に十数年間勤務し,その後いくつかの職業を経て,塾などで,高校生に数学を教えてきた.その一方で,1999年初秋からウエブサイト『青空学園数学科』([1])の制作と管理を行ってきた.

いろんな場で高校生に数学を教えていると,深く掘り下げて教えるためには,教える側に教える各内容の根拠をつかんでいることと,高校数学の方法論をもっていることが必要で,それがなければ,教えることを全うできないことを痛感した.それで,同じ思いをもつ教員や,自分で学ぼうという高校生,大学生の勉強の一助にと,みずから勉強したことを公開してきた.

前回のこの研究会の講究録『次の世代に何を伝えるのか〜今こそ「高い立場からみた初等数学」を〜』([2])において,現在の高校や中学での数学教育,またその教科書の内容をふまえながら,次のような問題点と課題を指摘した.

(1)
教育現場では,根拠を示すべきところを,感覚的な説明に置きかえ,それがわかりやすくすることだと思いちがいをしている.それでは,わからないときに立ちかえる根拠がわからないままになり,わかるまで考えるという力が育たない.こうしてますます関数や微積分のわからない生徒を増やしている.
(2)
数学を教えるものが,数学的現象をとらえ,その一般化と体系化をつかんだうえで適切に提起し,現象の分析において立ちかえる根拠をつかませ考えさせる.その上で,高校範囲,大学初年級範囲と適切に割り振り,一体のものとして,伝えなければならない.このようなことをするべき数学教員の力が近年大きく低下している.
(3)
このような問題意識を教員に提起し,それに応えるものを準備するのが教育数学である.そのために,初等数学を,現代の数学として系統的に基礎づけ,方法論を体系化する.それを学び研究することで,数学教育に携わるもの自身がわかる喜びを知り,それを教室で次の世代に伝えてゆくようにならねばならない.

この4年間,これらの課題について,教育現場で問題の把握や実際の教育活動での改革が進んだかといえば,まったくそうではない.ますます授業や講義の劣化が進み,日本の数学教育はいま大きな危機に瀕している.



Aozora 2018-08-09