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ある問題提起

近年,日本の技術における創造性の欠如が,産業界などからいろいろと発言されるようになった.中島聡(ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア)さんが「日本にはなぜ iPhone が作れなかったのか?」と,次のように言っておられる.

    私個人が、ここ10年間で「ライフスタイルを変えるほどのイノベーション」と感じたもの、そして実際に毎日のように使っているものを列挙してみました。残念ながら日本製のものは一つもありません。

    アプローチの一番の問題は、このプロセスの中で働く人々の当事者意識の欠如です。それぞれの人は、与えられた仕事を「作業」としてこなしているだけで、そこに「魂」が込められていないのです。

    商品の購入の際に、人の心を一番動かすのは、どんな機能があるか(WHAT)や、それで何ができるか(HOW)ではなく、なぜ自分はそれを持たなければならないか(WHY)という部分だ、という話です。

確かに,iPhone だけではなくさまざまの SNS や OS などで,世界で使われる情報技術のなかに日本発のものはない.ものそのものを作ることに長けていても,枠組みや仕組みを作ることにおいて,問題意識も能力も欠如していると言いうる現状である.

中島さんが指摘するように,日本の教育の根本的な欠陥は,結果を教えるだけであった.なぜそうするのかという動機を教え,そのような動機をもつことの重要性を教えてこなかったというのである.このような問題は,教育の日常のあり方から考えなければならない.

ところが後にみるように,現実の指導要録の改訂方向は,この問題に向きあうどころか,ますますやり方だけを教える方に進んでいる.

また,2018年06月04日付けの日本経済新聞は,

     日本の大学の研究力の地盤沈下が鮮明になっている。日本経済新聞が国内外の209大学を対象にイノベーション(革新)の創出力を算出したところ、東京大学は学術論文の「生産性」で中国の清華大学に逆転された。米欧の有力大学との差も開いたままだ。先端研究で海外との人的ネットワークが細り、イノベーションの土壌が痩せてきている。
と報告している.この事態は,現在の方向ではまったく変わることがない.



Aozora 2018-08-09