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演繹的構成

体系化の試み

『数学対話』によって,逆に公理を立て体系的に叙述することの大切さもわかる.そのことは,『対角線論法と不完全性定理』の中で,ヒルベルトの方法として書かれている.そしてそれを高校範囲から地続に実行したのが,『数論初歩』,『解析基礎』,『幾何学の精神』である.これらはいずれも数学対話をもとに,逆にそれを体系的に再構成したものである.

数論初歩

数えることは,言葉を話すこととともに,人間にとってもっとも基本的なことである.数は身近な第二の母語というべきものである.数はまず自然数である.この基本的な自然数の世界に,今も多くの未解決問題があることは驚きである.自然数は,整数から有理数,実数,複素数へと世界をひろげる.そのなかで整数もまた代数的整数へと拡大される.整数の理論を数論という.これは今日も発展し続けているまことに美しい理論である.

基本となるのは有理数のなかにある整数,有理整数である.『数論初歩』は有理整数の古典理論を紹介するものである.本書では,とくに断らなければ有理整数のことを単に整数という.数論は初等的な段階から数学のおもしろさ,美しさを実感することができる分野である.また,体系立てて学ぶことで,少ない原理を自由に広く応用するという,数学の大切な精神を身につけることができる. 中学生,高校生の時期に数のもつ美しい性質の一端に触れることは,その人を豊かにするとともに,現象を掘り下げて深く考える力をつける.しかし,現実に日本の高校生が出会う整数は,入学試験問題に引きずられて記述されるため,行きあたりばったりで切れ切れの知識が積みあげられ,小手先の方法論が先行し,単純で美しく,かつ豊かな整数の世界がかえってわかりにくくなっている.これが現状である.これはたいへん残念なことである.

このような現状を打破し,数の理論の美しさを伝えてゆく.そのための基礎作業の一つがこの『数論初歩』である.整数分野は教育数学にとっても重要な分野である.したがってこれは,教育数学を構築してゆく上での基礎作業でもある.

●まえがき●数論の基礎/自然数/整数/約数と倍数/一次不定方程式/素数/演習問題●剰余類/合同式/オイラーの関数/1のn乗根/フェルマの小定理/原始根と指数/演習問題●相互法則/平方剰余/平方剰余の相互法則/いくつかの別証明/演習問題●除法のできる環/ユークリッド整域/多項式環/ガウス整数環/演習問題●連分数/一次不定方程式と連分数/二次行列と実数の連分数展開/連分数と格子/演習問題●ペル方程式/解集合の構造と解の存在/連分数による解の構成/演習問題●素数分布/素数の分布とは/素数が無数にあることの別証明/素数分布の探求/素数定理●存在と構成/自然数の構成/整数と有理数の構成●文献と解答/演習問題解答/入試問題解答●出典と文献

解析基礎

本稿では,数列と関数の収束に関する,いわゆる $\epsilon-\delta$論法は終始一貫して用いる.次のような内容を骨子に,いくつか関連したことを含めて展開した.

第一,現代数学は集合をその言葉として用いる.まずこれを整理するとともに,整列集合と選択公理についてのべる.その上で,整数の公理系を出発点とする.西洋の伝統では自然数からはじめるのであるが,高木貞治の『数の概念』にならい,東洋の伝統を引き継いで,整数を定義し,有理数にすすむ.

第二,実数の公理までまとめる.整数の公理は人間がつかんでいる数の世界の構造を定式化するものであるが,実数の公理は理論の要請である.実数の公理を満たすモデルの存在を,有理数をもとに示す. 実数の構成でのカントールの方法はそれ数列を用いる.実数の連続性を理論の根拠として,そこから導かれる,数列の極限に関する基本性質と無限級数についてまとめる.

第三,解析学は関数を解析することが,基本である.ではその関数とは何か.また,関数の連続性とは何か.これをいわゆる $\epsilon-\delta$論法によって定義し,基本性質を示す.

第四,無限小変化率として微分をとらえ,関数の微分を定義し,基本定理としての平均値の定理を示す.平均値の定理の一般化として,関数の展開定理を示す.

第五,無限小の総和としての積分を微分とは独立に定義する.そのうえで面積,体積などの量と定積分の関係を考える.また,積分と微分がどのような条件で逆演算であるかを解明する.

第六,微分と積分を多次元空間の関数に適用し,陰関数定理を証明する.ベクトル解析と多変数の微分積分の初歩をつかむ.

第七,微分方程式を定義し,実数の完備性がどのように微分方程式の解の存在を保証するのかを確認する.

第八,以上の準備の下に,物理世界への適用として,地球の軌道が太陽を焦点とする楕円軌道をなすことを証明する.

幾何学の精神

これは2010年の1月にはじまる私の射影幾何学習帳であった.それまでも『数学対話』のなかで,射影幾何に関連する話題を取りあげてきた.その内容は高校範囲かそれに地続きな領域内でのことであった.それら『数学対話』の中の射影幾何に関するものを見直し,私自身の勉強として,改めてその根拠を掘り下げるため,パスカルに立ちかえって読み解き,それをふまえて公理的方法によって射影幾何を再構成したいと考えた.

青空学園の願いは,この場が,制度としてある教育体制から自由に,高校数学とそれにつながる領域を掘りさげる場となり,そして何より,高校数学を学問として学び考える力をつける場となることであった.

学問とは根拠を問うことであり,根拠を問うとは、現象を批判し存在を根本において捉えようとすることであり,さらにそれをも捉え直そうとする永続運動である.青空学園はこの根拠を問う永続運動としての学問の復興を願ってきた.教育とは具体的な課題の勉強と研究を通して,この意味における学問を身につけることでなければならないと考えてきた.

高校生の数学教育にかかわるものは,数学を学ぶだけではなく,再構成するという実践がなければ,ほんとうに,教えていることを理解することもできず,また教える内容を普遍的な立場から自由に語ることもできず,その意味で本当に教えるということは出来ないと考えてきた.大学初年級の講義においても不可欠であると考える.

『数学対話』では具体的な数学的現象として,パスカルの定理やポンスレの定理を一般化してつかもうとした.それをふまえ,『幾何学の精神』は射影幾何の公理系からこれらを演繹するということを主眼とした.

●序論●円錐曲線試論/本文/訳文/読解/証明の試み/パスカルの方法●射影幾何/射影幾何の公理/射影幾何の構造/射影変換と複比●二次曲面の定義/パスカルの定理●幾何の展開/ポンスレの定理/非ユークリッド幾何/代数幾何へ●むすび●参考文献





Aozora 2018-08-09