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調和列点と対合

複比と調和列点

命題 70        完全四角形 $p_i\ (1\le i\le 4)$の対辺 $p_1\vee p_2$$p_3\vee p_4$の交点を$a$$p_2\vee p_3$$p_4\vee p_1$の交点を$b$とし, 直線$a\vee b$と対角線$p_1\vee p_3$の交点を$c$, 直線$a\vee b$と対角線$p_2\vee p_4$の交点を$d$とする. 4点$a,\ b,\ c,\ d$調和点列をなす. ■

証明      この関係は $a,\ c,\ b,\ a,\ d,\ b$が四角性六点であることを意味し, 直線体$K(b,\ a,\ c)$の点における和の定義21から$c+d=b$を意味する. 同型 $\theta:K(b,\ a,\ c)\to K$ $\theta(c)=1,\ \theta(b)=0$ なので,$\theta(d)=-1$.つまり $[a,\ b;\ c,\ d]=-1$である. □

系 70.1        さらに, $e=(p_2\vee p_4)\cap(p_1\vee p_3)$ $f=(p_1\vee p_2)\cap(d\vee p_3)$とする. $[p_1,\ p_3;\ e,\ c]=[p_1,\ f;\ p_2,\ a]=-1$である. ■

証明     

\begin{eqnarray*}[p_1\ p_3;\ e,\ c]
&=&[p_2\vee p_1,\ p_2\vee p_3;\ p_2\vee e,\...
...vee a,\ p_2\vee b;\ p_2\vee c,\ p_2\vee d]
=[a,\ b;\ c,\ d]=-1
\end{eqnarray*}

よって $[p_1,\ p_3;\ e,\ c]=-1$. また

\begin{displaymath}[p_1,\ f;\ p_2,\ a]=[d\vee p_1,\ d\vee f;\ d\vee p_2,\ d\vee a]
=[p_1,\ p_3;\ e,\ c]=-1
\end{displaymath}

この系は,完全四角形のとり方を変えることで命題70の読み直しでも示される.

対合

古典的な射影幾何で論証の主要な方法の一つが「対合」であった.

定義 27        射影直線$l$の恒等写像ではない射影変換$\varphi$で, $\varphi\circ\varphi$が恒等写像となるものを対合という.

$l$上の点$p,\ q$に対し,対合$\varphi$

\begin{displaymath}
q=\varphi(p)
\end{displaymath}

となるものが存在するとき,2点$p,\ q$対合をなすという. ■

対合は行列でどのような形になるものなのか. 直線$l$上に同次座標$(x_0,\ x_1)$を設定する. $\varphi$を対合とする.可換体であるから,$\varphi$は 線型写像

\begin{displaymath}
\varphi\ :\
\left(\begin{array}{l}
x_0\\
x_1
\end{a...
...
\left(\begin{array}{l}
x_0\\
x_1
\end{array}
\right)
\end{displaymath}

で表されるとしてよい.ただしこの行列は, 0行列でない二次行列$A$の集合を, 同値関係

\begin{displaymath}
A〜B\quad \iff\quad \exists k(\in K,\ \ne 0)\ ;\ B=kA
\end{displaymath}

による商集合の同値類の代表である. このとき, $\varphi\circ\varphi$対応する行列の類は

\begin{displaymath}
\left(\begin{array}{cc}
\alpha&\beta\\
\gamma&\delta
...
...mma(\alpha+\delta)&\beta\gamma+\delta^2
\end{array}
\right)
\end{displaymath}

よってこの変換が恒等変換と同一の類に属する条件は

\begin{displaymath}
\alpha^2+\beta\gamma=\beta\gamma+\delta^2,\
\beta(\alpha+\delta)=\gamma(\alpha+\delta)
=0
\end{displaymath}

である.これから $\delta=-\alpha$となる. つまり対合である条件は,それを表す行列の類が $\left(\begin{array}{cc}
\alpha&\beta\\
\gamma&-\alpha
\end{array}
\right)$という形をしていて, その行列式について $\alpha^2+\beta\gamma\ne 0$であることである.


以下断らなくても直線$l$上の射影変換で考えるものとし, さらに同次座標が設定されているものとする.

命題 71        $l$上の2点$p(p_0,\ p_1)$$q(q_0,\ q_1)$ $\varphi=\left(\begin{array}{cc}
\alpha&\beta\\
\gamma&-\alpha
\end{array}
\right)$で対合をなすことは,関係式

\begin{displaymath}
\beta p_1q_1+\alpha(p_0q_1+p_1q_0)-\gamma p_0q_0=0
\end{displaymath}

が成り立つことと同値である. ■

証明      $l$上の2点$p(p_0,\ p_1)$$q(q_0,\ q_1)$$\varphi$で対合をなすことをいいかえると, 点 $\left(\begin{array}{l}
q_0\\
q_1
\end{array}
\right)$ $\left(\begin{array}{cc}
\alpha&\beta\\
\gamma&-\alpha
\end{array}
\right)\left(\begin{array}{l}
p_0\\
p_1
\end{array}
\right)$ が同一の点となることである.よって

\begin{displaymath}
q_0(\gamma p_0-\alpha p_1)-q_1(\alpha p_0+\beta p_1)=0
\end{displaymath}

が条件である.これから命題の等式が成り立つ. 逆に命題の等式が成り立てば 2点$p(p_0,\ p_1)$$q(q_0,\ q_1)$$\varphi$で対合をなすことは,逆にたどることでわかる. □

命題 72        直線$l$の射影変換$\varphi$

\begin{displaymath}
\varphi(a)\ne a,\ \varphi^2(a)= a
\end{displaymath}

となる点$a$が存在すれば,$\varphi$は対合である. つまり任意の点$x$について $\varphi^2(x)= x$が成り立つ. ■

証明1     $x$に対して $\varphi(x)=x',\ \varphi(x')=x''$とおく. また$\varphi(a)=a'$とする.このとき

\begin{displaymath}[a,\ a';\ x,\ x']=[a',\ a;\ x',\ x'']=[a,\ a';\ x'',\ x']
\end{displaymath}

命題64より$x''=x$である. □


証明2     $\varphi$に対応する行列を $\left(\begin{array}{cc}
\alpha&\beta\\
\gamma&\delta
\end{array}
\right)$とおく. 点$a$の非同次座標も$a$で表す. 条件から

\begin{displaymath}
\dfrac{\alpha a+\beta}{\gamma a+\delta}\ne a,\
\dfrac{(\a...
...a+\delta)}
{\gamma(\alpha+\delta) a+\delta^2+\beta\gamma}=a
\end{displaymath}

第2式から

\begin{displaymath}
(\alpha+\delta)\{\gamma a^2+(\delta-\alpha)a-\beta\}=0
\end{displaymath}

第1式から $\gamma a^2+(\delta-\alpha)a-\beta\ne 0$なので, $\alpha+\delta=0$.つまり$\varphi$は対合である. □

系 72.1        異なる点の3組の点対 $(a,\ a'),\ (b,\ b'),\ (p,\ q)$が対合をなす, つまり$a'=\varphi(a)$$b'=\varphi(b)$$q=\varphi(p)$となる対合$\varphi$が存在する条件は

\begin{displaymath}[a,\ b,\ p,\ q]=[a',\ b',\ q,\ p]
\end{displaymath}

となることである. ■

証明     命題72$a$として,$p$をとれば$q=\varphi(p)$$p=\varphi(q)$ より$\varphi$は対合である. □


対合$\varphi$の不動点,つまり $\varphi(p)=p$となる点を自己対合点という. 一つの対合について自己対合点は, 高々二個である.なぜならそれは2次同次方程式

\begin{displaymath}
\beta p_1q_1+\alpha(p_0q_1+p_1q_0)-\gamma p_0q_0=0
\end{displaymath}

$(0,\ 0)$でない根でなければならないからである.

注意 3.3.2        ここで同次方程式とは, 未知数 $x,\ y,\ \cdots$に関するいくつかの等式を連立したもので, 各等式は同次の等式であるもののことである. これによって,解がある場合は未知数間の比が定まる.

同様にして次のことも成り立つ.

系 72.2        対合は,
  1. 対合をなすべき2組の点対 $(a,\ a'),\ (b,\ b')$
  2. 対合をなすべき1組の点対$(a,\ a')$と一つの不動点,
  3. 二つの不動点,
のいずれかを指定すれば一意に定まる.■


調和点列と対合に関する基本事項は次の命題である.

命題 73        直線$l$上の点の対合に関して次のことが成り立つ.
(1)     自己対合点が2個あるとき, これらはその対合で対合をなす異なる2点を調和に分ける.
(2)     2定点を調和に分ける点対は, 2定点をその対合の自己対合点となす対合に関して,対合をなす.
(3)     点対$(p,\ q)$が2組の点対$(a,\ b)$$(a',\ b')$を同時に調和に分ければ, 点対 $(a,\ a'),\ (b,\ b'),\ (p,\ q)$は対合をなす. ■

証明
(1)      2点$a$$b$が対合をなすとし,$p,\ q$が自己対合点とする. 言いかえるとある射影変換$\varphi$

\begin{displaymath}
\varphi(a)=b,\ \varphi(b)=a,\ \varphi(p)=p,\ \varphi(q)=q
\end{displaymath}

となるものがある. 複比は射影変換で不変であるから

\begin{displaymath}
\bigl[a,\ b;\ p,\ q\bigr]
=
\bigl[\varphi(a),\ \varphi(b)...
...=
\bigl[b,\ a;\ p,\ q\bigr]=
\bigl[a,\ b;\ p,\ q\bigr]^{-1}
\end{displaymath}

同一の点はないので $\bigl[a,\ b;\ p,\ q\bigr]\ne 1$. よって $\bigl[a,\ b;\ p,\ q\bigr]=-1$


直接計算      対合の行列を $\left(\begin{array}{cc}
\alpha&\beta\\
\gamma&-\alpha
\end{array}
\right)$とする. 2点$a$$b$が対合をなすとし,

\begin{displaymath}
a(\xi_0,\ \xi_1),\ b(\alpha\xi_0+\beta\xi_1,\ \gamma\xi_0-\alpha\xi_1)
\end{displaymath}

とおく.また$p(p_0,\ p_1)$$q(q_0,\ q_1)$が自己対合点とする. これらは2次同次方程式

\begin{displaymath}
\beta {x_1}^2+2\alpha x_0x_1-\gamma {x_0}^2=0
\end{displaymath}

の根である.根と係数の関係から

\begin{displaymath}
\beta(p_0q_1+p_1q_0)=-2\alpha p_0q_0,\
\beta p_1q_1=-\gamma p_0q_0
\end{displaymath}

である. 4点の複比は

\begin{displaymath}
\bigl[a,\ b;\ p,\ q\bigr]=
\dfrac{(\xi_0p_1-\xi_1p_0)
\{q...
...p_1(\alpha\xi_0+\beta\xi_1)
-p_0(\gamma\xi_0-\alpha\xi_1)\}}
\end{displaymath}

である.ここで

\begin{eqnarray*}
分子&=&
(\alpha p_1q_1-\gamma p_1q_0)\xi_0^2
-(\beta p_0q...
...ha p_0q_1+\gamma p_0q_0+\beta p_1q_1+
\alpha p_1q_0)\xi_0\xi_1
\end{eqnarray*}

各係数を根と係数の関係で整理すると

\begin{eqnarray*}
&&\alpha p_1q_1-\gamma p_1q_0
=\dfrac{1}{2}\{\gamma(p_0q_1+p...
... p_0q_1
=-\alpha p_0q_1+\alpha p_1q_0
=-\alpha(p_0q_1-p_1q_0)
\end{eqnarray*}

となる.分母は$p$$q$を入れ替えたものであり, このとき$p_0q_1-p_1q_0$は符号だけが逆になる. よって $\bigl[a,\ b;\ p,\ q\bigr]=-1$であり, 自己対合点$p,\ q$は対合をなす2点$a,\ b$を調和に分ける.


(2)     2定点 $a(\xi_0,\ \xi_1),\ b(\eta_0,\ \eta_1)$を 2点 $p(p_0,\ p_1)$$q(q_0,\ q_1)$が調和に分けるとする.

\begin{displaymath}
\bigl[a,\ b;\ p,\ q\bigr]=
\dfrac{(\xi_0p_1-\xi_1p_0)(\eta_0q_1-\eta_1q_0)}
{(\xi_0q_1-\xi_1q_0)(\eta_0p_1-\eta_1p_0)}=-1
\end{displaymath}

分母を払うと

\begin{displaymath}
(\xi_0p_1-\xi_1p_0)(\eta_0q_1-\eta_1q_0)+(\xi_0q_1-\xi_1q_0)(\eta_0p_1-\eta_1p_0)
=0
\end{displaymath}

これを整理すると

\begin{displaymath}
2\xi_0\eta_0p_1q_1-(\xi_1\eta_0+\xi_0\eta_1)(p_0q_1+p_1q_0)+2\xi_1\eta_1p_0q_0=0
\end{displaymath}

の形になる.よって命題72より

\begin{displaymath}
\alpha=-(\xi_1\eta_0+\xi_0\eta_1),\ \beta=2\xi_0\eta_0,\
\gamma=2\xi_1\eta_1
\end{displaymath}

として行列 $\left(\begin{array}{cc}
\alpha&\beta\\
\gamma&-\alpha
\end{array}
\right)$で定まる対合によって,2点$p,\ q$は対合をなす. また$p,\ q$の両方に$a$を代入しても, $b$を代入しても方程式は満たされる. つまり$a$$b$はこの対合に関する自己対合点である.


(3)    

\begin{displaymath}[a,\ b;\ p,\ q]=[a',\ b';\ p,\ q]=-1
\end{displaymath}

である.また $[a',\ b';\ q,\ p]=[a',\ b';\ p,\ q]^{-1}=-1$ なので,

\begin{displaymath}[a,\ b;\ p,\ q]=[a',\ b';\ q,\ p]
\end{displaymath}

72.1より,点対 $(a,\ a'),\ (b,\ b'),\ (p,\ q)$は対合をなす. □


対合に関する古典的命題は数多くある. ここではもっとも基本的なもののみ取りあげた. これらの命題には古典的な射影幾何的証明と座標系による証明と,2系統の証明がある. 射影幾何の公理系から出発して座標系に至った立場では, これは同等なのであるが,両方を試みるとたいへんおもしろく, 今後とも必要に応じて両方法の対比を考えることにする.


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2014-01-03