上: 代数分野
ラグランジュの試み
2020.8/2020.5/2017.4
根の公式とは
耕一 三次方程式と四次方程式は,二次方程式と同様に根の公式ができます. それは,『数学対話』の「三次方程式」と「四次方程式」 で学びました. その「四次方程式」の最後に,五次以上の解の公式はできないこと, それをアーベルとガロアが証明したことが書かれています.
南海 まず,代数方程式の根の公式とは何か. 根の公式が存在するとはいったいどういうことを意味するのか.
耕一 二次方程式と三次方程式は根の公式を書き出すことができました. 三次方程式では途中で二次方程式の根が必要でしたが, それを根の公式で表して用いました. 四次方程式では,途中で,ある三次方程式や二次方程式を解く必要があり, それも根の公式で表して用いることもできるのですが, 余りに煩雑になり,それらの根を別の文字で表し用いました. だから,四次方程式の場合,もとの方程式の係数で4つの根を表すことはしていません.
ですから大切なことは,いつでもこの手順でやってゆけばすべての根が求まる, という一般的な方法が存在することが大切ではないでしょうか.
南海 一般的な方法のことをアルゴリズムというが, 根を求めるアルゴリズムが存在するのかどうか,これが問題である. このように,四次方程式までは幾つかの解法が得られていた.
新たな視点から方程式を解くという問題を考えたのが,ラグランジュである.
ラグランジュの飛躍
南海 ラグランジュ(Joseph-Louis Lagrange, 1736年1月25日〜1813年4月10日)は,フランス革命の時代を生きた数学者である. 彼は,もとの方程式を変形するという段階から次の段階へ到った.
方程式の係数から根を組み立てるところから飛躍して, 方程式の根の集合と1のべき根を考え,それらの積の和とそれを置きかえたものとの組で考えることで,根を見出してゆこうとする.
あの時代の人は実に膨大な計算をした. それをここで追認するとはできないが, 彼もやったであろう試行錯誤として,次のことをやってみよう.
根の集合を考え,1のべき乗根と解を用いた式を考え, その式の根を互いに入れ替えた式と組みあわせて考えることで, 段階的に根そのものを取り出してゆけないか考えよう.
$ n $ 次方程式の根 $ \alpha_1,\ \alpha_2,\ \cdots,\ \alpha_n $ と, 1の $ n $ 乗根 $ \zeta_1,\ \zeta_2,\ \cdots,\ \zeta_n $ に対して, $ \alpha_1,\ \alpha_2,\ \cdots,\ \alpha_n $ を並べ替えた $ \alpha_{r(1)},\ \alpha_{r(2)},\ \cdots,\ \alpha_{r(n)} $ の間の積 \[ n_k=\alpha_{r(1)}\zeta_1+\alpha_{r(2)}\zeta_2+\cdots+\alpha_{r(n)}\zeta_n \] を作る.
耕一 $ n! $ 個あります.
南海 それらの $ n $ 乗を $ {n_k}^n $ とする. これらは1の $ n $ 乗根倍違うものは同一になるので, $ (n-1)! $ 個ある.
これらを解とする方程式をまず構成し, それは次数が小さくなっているので解けないかと考え, $ {n_k}^n $ から $ n_k $ を求めることで, 根を求めてゆくことを考えたのだ.
二次方程式
耕一 \[ ax^2+bx+c=0 \] の解を $ \alpha $ と $ \beta $ とします. 2次方程式なので,1の2乗根は1と-1です. \begin{eqnarray*} u_1=\alpha+(-1)\beta\\ u_2=\beta+(-1)\alpha \end{eqnarray*} とするのですね.そして, \begin{eqnarray*} {u_1}^2=(\alpha-\beta)^2\\ {u_2}^2=(\beta-\alpha)^2 \end{eqnarray*} を作る.この場合,2つは一致します. \[ {u_1}^2=(\alpha-\beta)^2=(\alpha+\beta)^2-4\alpha\beta \] これは係数で表せます. \[ {u_1}^2=\left(-\dfrac{b}{a} \right)^2-4\cdot\dfrac{c}{a}=\dfrac{b^2-4ac}{a^2} \] この結果 \[ u_1,\ u_2=\pm (\alpha-\beta)=\dfrac{\pm \sqrt{b^2-4ac}}{a} \] 根と係数の関係式 $ \alpha+\beta=\dfrac{-b}{a} $ と連立して解くと, \[ \alpha,\ \beta=\dfrac{-b \pm \sqrt{b^2-4ac}}{2a} \] となります.
南海 そういうことだ.
耕一 二次方程式の根の公式は平方完成から作るものと思っていましたが, この方法だと,その式変形はいらないですね.
南海 二次なので,特に意識せず用いているが, 対称式は基本対称式で表せること, 根の対称式はもとの方程式の係数で表されることを用いている.
それについては 『数学対話』にある「終結式と不変式」のなかの「対称式と基本対称式」を見てほしい.
ではこの方法でどこまで三次方程式が解けるか,やってみてほしい.三次方程式
耕一 \[ ax^3+bx^2+cx+d=0 \] で考えます.
1の3乗根の一つを $ \omega $ とします.もう一つは $ \omega^2 $ です. 3つの根を $ \alpha $ , $ \beta $ , $ \gamma $ とします. この場合, $ \alpha+\omega\beta+\omega^2\gamma $ の様式を考えることになるのですね. このような組合せは $ 3!=6 $ 個あります.それらの3乗をとるのですね. \[ \begin{array}{l} u_1=\alpha+\beta\omega+\gamma\omega^2\\ u_2=\gamma+\alpha\omega+\beta\omega^2=\omega u_1\\ u_3=\beta+\gamma\omega+\alpha\omega^2=\omega^2 u_1\\ v_1=\alpha+\gamma\omega+\beta\omega^2\\ v_2=\beta+\alpha\omega+\gamma\omega^2=\omega v_1\\ v_3=\gamma+\beta\omega+\alpha\omega^2=\omega^2 v_1 \end{array} \] と置くと,この場合,2次のときのようにすべて一致するのではなく, \[ {u_1}^3= {u_2}^3= {u_3}^3 ,\ \quad {v_1}^3= {v_2}^3= {v_3}^3 \] です.一般には $ {u_1}^3\ne {v_1}^3 $ です. しかし,さらに \[ U={u_1}^3,\ \quad V={v_1}^3 \] とおくと, $ U+V $ , $ UV $ は根のあらゆる置きかえで不変なので, 根の対称式である.したがってこれらは方程式の係数で書ける. つまり方程式の係数を用いて, $ U $ と $ V $ を2根とする2次方程式が作れる.
その根の立方根をとれば, $ u_1,\ u_2,\ u_3 $ , $ v_1,\ v_2,\ v_3 $ が求まる.
ここで質問です. $ u_1,\ u_2,\ u_3 $ , $ v_1,\ v_2,\ v_3 $ はそれぞれ1つを $ \omega,\ \omega^2 $ 倍したものですが, この順はどうのように決めるのでしょうか.
南海 そこが難しいところで,2次の場合のように根の公式を作るところまでいかないのだ.
三次方程式の係数が実数で1つの根が実数のときは, $ u_1 $ と $ v_1 $ を実数にとる. 係数が一般の場合,これは決められない.
耕一 「三次方程式」の解法 にも同様の問題がありますが,この場合は $ yz $ が一定なので, $ y $ のとり方を決めれば $ z $ も決まります.
南海 このあたりは課題としておいて,係数が実数としてやろう.
耕一 すると, $ u_1 $ と $ v_1 $ を実数にとります. $ \alpha+\beta+\gamma=-\dfrac{b}{a} $ なので, \begin{eqnarray*} u_1+v_1&=&2\alpha+(\omega+\omega^2)(\beta+\gamma)\\ &=&2\alpha-(\beta+\gamma)=3\alpha+\dfrac{b}{a}\\ \omega^2 u_1+\omega v_1&=&3\beta+\dfrac{b}{a}\\ \omega u_1+\omega^2 v_1&=&3\gamma+\dfrac{b}{a} \end{eqnarray*} と3根が求まります.
南海 昔の人はこういうことを実にいろいろやってみたのだ.
演習
「三次方程式」の例題 \[ x^3+3x+1=0 \] をこの方法で解け.
解 3つの解を $ \alpha,\ \beta,\ \gamma $ とする. $ \alpha+\beta+\gamma=0 $ である. \[ \begin{array}{l} u=\alpha+\omega\beta+\omega^2\gamma\\ v=\alpha+\omega^2\beta+\omega\gamma \end{array} \] とおく. \begin{eqnarray*} u^3+v^3&=&(u+v)(u+\omega v)(u+\omega^2 v)\\ &=&(2\alpha-\beta-\gamma) (-\omega^2\alpha-\omega^2\beta+2\omega\gamma) (-\omega\alpha+2\omega\beta-\omega\gamma)\\ &=&(2\alpha-\beta-\gamma)(-\alpha-\beta+2\gamma)(-\alpha+2\beta-\gamma) =27\alpha\beta\gamma=-27\\ u^3v^3&=&(uv)^3=(\alpha^2+\beta^2+\gamma^2-\alpha\beta-\beta\gamma-\gamma\alpha)^3\\ &=&\{(\alpha+\beta+\gamma)^2-3(\alpha\beta-\beta\gamma-\gamma\alpha)\}^3 =(-9)^3 \end{eqnarray*} これから \[ \left(\dfrac{u}{3} \right)^3+\left(\dfrac{v}{3} \right)^3=-1,\ \quad \left(\dfrac{u}{3} \right)^3\left(\dfrac{v}{3} \right)^3=-1 \] となり,2次方程式 $ t^2+t-1=0 $ を解いて \[ \left(\dfrac{u}{3} \right)^3,\ \left(\dfrac{v}{3} \right)^3 =\dfrac{-1\pm \sqrt{5}}{2} \] $ u_1,\ v_1 $ を実数にとるので, \[ \dfrac{u_1}{3},\ \dfrac{v_1}{3} =\sqrt[3]{\dfrac{-1\pm \sqrt{5}}{2}} \] である.これより, \begin{eqnarray*} \alpha,\ \beta,\ \gamma &=&\sqrt[3]{\dfrac{-1+\sqrt{5}}{2}}+\sqrt[3]{\dfrac{-1-\sqrt{5}}{2}}\ ,\\ &&\omega \sqrt[3]{\dfrac{-1+ \sqrt{5}}{2}} +\omega^2 \sqrt[3]{\dfrac{-1- \sqrt{5}}{2}}\ ,\\ &&\omega ^2 \sqrt[3]{\dfrac{-1+ \sqrt{5}}{2}} +\omega \sqrt[3]{\dfrac{-1- \sqrt{5}}{2}}\ . \end{eqnarray*} となる.
四次方程式
耕一 \[ ax^4+bx^3+cx^2+dx+e=0 \] で考えます. 1の4乗根は $ 1,\ i,\ -1,\ -i $ です. 4つの根を $ \alpha $ , $ \beta $ , $ \gamma $ , $ \delta $ とします. \[ u_1=\alpha+i\beta-\gamma-i\delta \] ここから根の置きかえをすると,全部で24個できます. 1の4乗根 $ 1,\ i,\ -1,\ -i $ をかけたものを一組に考えると, 6個作ればよい. \[ \begin{array}{l} u_1=\alpha+i\beta-\gamma-i\delta\\ u_2=\alpha-\beta-i\gamma+i\delta\\ u_3=\alpha-i\beta+i\gamma-\delta\\ u_4=\alpha+i\beta-i\gamma-\delta\\ u_5=\alpha-i\beta-\gamma+i\delta\\ u_6=\alpha-\beta+i\gamma-i\delta \end{array} \] ところが,これらを4乗すると6個出てきて,三次方程式の根になりません.
南海 三次方程式でいちどに根が求まることはないので,この6個を組みあわせて, ある二次方程式と三次方程式,そして四乗根の組合せで求まることはできるはずだ. しかしここからはじめてうまくいくとはかぎらない.
そこでラグランジュは,置き方を変えて,次のようにした. \[ \begin{array}{l} u=(\alpha+\beta)(\gamma+\delta)\\ v=(\alpha+\gamma)(\beta+\delta)\\ w=(\alpha+\delta)(\beta+\gamma) \end{array} \] 耕一 どの二根を置きかえても,動かないか入れ替わるかだけです. やってみると,他の置換でもそうなるようです.
南海 実はどのような置換も,2つの要素入れ替え,これを互換というが, 互換のくりかえしで得られる.
耕一 ということは, $ u,\ v,\ w $ の対称式は, 24個の置きかえで不変であり, その結果,係数で書かれるある三次方程式の三根となる.
三次方程式は解けるので, $ u,\ v,\ w $ は確定する. 一方, \[ (\alpha+\beta)+(\gamma+\delta)=-\dfrac{b}{a} \] であるから, $ \alpha+\beta $ と $ \gamma+\delta $ は,二次方程式 \[ X^2+\dfrac{b}{a}X+u=0 \] の二根である.これら二根の和がすべて求まれば, それから $ \alpha,\ \beta,\ \gamma,\ \delta $ を求めるのは連立1次方程式である. 結局,四次方程式は, 三次方程式と二次方程式を解くことで,解ける.
演習 「四次方程式」の例題 \[ x^4+x^2-4x-3=0 \] をこの方法で解け.
解答 今の場合,根と係数の関係から \begin{eqnarray*} &&\alpha+\beta+\gamma+\delta=0\\ &&\alpha\beta+\alpha\gamma+\alpha\delta +\beta\gamma+\beta\delta+\gamma\delta=1\\ &&\alpha\beta\gamma+\alpha\beta\delta+\alpha\gamma\delta +\beta\gamma\delta=4\\ &&\alpha\beta\gamma\delta=-3 \end{eqnarray*} である.そして \begin{eqnarray*} &&u=(\alpha+\beta)(\gamma+\delta)=-(\alpha+\beta)^2=1-(\alpha\beta+\gamma\delta)\\ &&v=(\alpha+\gamma)(\beta+\delta)=-(\beta+\delta)^2=1-(\alpha\gamma+\beta\delta)\\ &&w=(\alpha+\delta)(\beta+\gamma)=-(\alpha+\delta)^2=1-(\alpha\delta+\beta\gamma) \end{eqnarray*} である. よって \begin{eqnarray*} u+v+w&=&-2\left(\alpha^2+\beta^2+\delta^2+\alpha\beta+\beta\delta+\delta\alpha \right) =-2\left\{\left(\alpha+\beta+\delta)^2-\alpha\beta-\beta\delta-\delta\alpha \right)\right\}\\ &=&-2\left\{-\gamma\left(\alpha+\beta+\delta)-\alpha\beta-\beta\delta-\delta\alpha \right)\right\} =-2\cdot(-1)=2\\ uv+vw+wu&=& \{1-(\alpha\beta+\gamma\delta)\} \{1-(\alpha\gamma+\beta\delta)\}\\ &&\quad + \{1-(\alpha\gamma+\beta\delta)\} \{1-(\alpha\delta+\beta\gamma)\}\\ &&\quad \quad + \{1-(\alpha\delta+\beta\gamma)\} \{1-(\alpha\beta+\gamma\delta)\}\\ &=&3-2\cdot 1+ (\alpha\beta+\gamma\delta)(\alpha\gamma+\beta\delta)+ (\alpha\gamma+\beta\delta)(\alpha\delta+\beta\gamma)+ (\alpha\delta+\beta\gamma)(\alpha\beta+\gamma\delta)\\ &=&1 +\alpha\beta\gamma(\alpha+\beta+\gamma) +\alpha\gamma\delta(\alpha+\gamma+\delta) +\alpha\beta\delta(\alpha+\beta+\delta) +\beta\gamma\delta(\beta+\gamma+\delta)\\ &=&1-4\alpha\beta\gamma\delta=13\\ uvw&=&\{1-(\alpha\beta+\gamma\delta)\}\{1-(\alpha\gamma+\beta\delta)\}\{1-(\alpha\delta+\beta\gamma)\}\\ &=&1-1+12-(\alpha\beta+\gamma\delta)(\alpha\gamma+\beta\delta)(\alpha\delta+\beta\gamma)\\ &=&12-\alpha\beta\gamma\delta(\alpha^2+\beta^2+\gamma^2+\delta^2) -(\alpha^2\beta^2\gamma^2+\alpha^2\beta^2\delta^2+\alpha^2\gamma^2\delta^2+\beta^2\gamma^2\delta^2)\\ &=&12 -\alpha\beta\gamma\delta\{(\alpha+\beta+\gamma+\delta)^2-2(\alpha\beta+\alpha\gamma+\alpha\delta +\beta\gamma+\beta\delta+\gamma\delta)\}\\ &&\quad -(\alpha\beta\gamma+\alpha\beta\delta+\alpha\gamma\delta+\beta\gamma\delta)^2 +2\alpha\beta\gamma\delta(\alpha\beta+\alpha\gamma+\alpha\delta +\beta\gamma+\beta\delta+\gamma\delta)\\ &=&12-(-3)(0-2\cdot 1)-4^2+2(-3)\cdot 1=-16 \end{eqnarray*} よって $ u,\ v,\ w $ は三次方程式 \[ t^3+2t^2+13t+16=(t+1)(t^2+3t+16)=0 \] の3解であり, \[ u,\ v,\ w=-1,\ \dfrac{-3\pm\sqrt{55}i}{2} \] この結果, $ \alpha+\beta $ , $ \gamma+\delta $ など6個の値は \[ X^2-1=0,\ X^2-\dfrac{-3\pm\sqrt{55}i}{2}=0 \] で定まる6個であり,これは \[ \pm 1,\ \pm\sqrt{\dfrac{-3\pm\sqrt{55}i}{2}}=\pm \dfrac{\sqrt{5}\pm\sqrt{11}i}{2} \] となる.つまり, \begin{eqnarray*} &&\alpha+\beta=1,\ \gamma+\delta=-1\\ &&\alpha+\gamma=\dfrac{\sqrt{5}+\sqrt{11}i}{2},\ \beta+\delta=-\dfrac{\sqrt{5}+\sqrt{11}i}{2}\\ &&\alpha+\delta=\dfrac{\sqrt{5}-\sqrt{11}i}{2},\ \beta+\gamma=-\dfrac{\sqrt{5}-\sqrt{11}i}{2} \end{eqnarray*} である.これから \begin{eqnarray*} &&\alpha-\beta=\sqrt{5},\ \gamma-\delta=-\sqrt{11}i\\ &&\alpha-\gamma=1+\dfrac{\sqrt{5}-\sqrt{11}i}{2},\ \beta-\delta=1-\dfrac{\sqrt{5}-\sqrt{11}i}{2}\\ &&\alpha-\delta=1+\dfrac{\sqrt{5}+\sqrt{11}i}{2},\ \beta-\gamma=1-\dfrac{\sqrt{5}+\sqrt{11}i}{2} \end{eqnarray*} よって,4つの解は \[ \dfrac{1\pm\sqrt{5}}{2},\ \dfrac{-1\pm\sqrt{11}i}{2} \] となる.
耕一 $ \alpha+\beta+\gamma+\delta=0 $ をもちいて途中の計算を簡略化しようとしましたが, なかなか大変でした.これを用いず基本対称式で表せるまで変形するのは,もっと難しいと思います. やってみて,「四次方程式」にある解法の方が簡明ですね.
また, $ \alpha+\beta $ などの値が,あの解法で求めた $ b $ の値であることも不思議です.
南海 $ b $ との一致を計算で示すのは簡単ではない.
計算過程そのものはあの解法の方が簡単であるが, あちらは式変形であった.こちらは根から作った式とその根の置きかえという考えであり, それで作った方法であるということだ.
耕一 その式の作り方ですが,ある作り方をするとうまくできなくて, こちらの作り方をするとできました.
南海 ラグランジュはいろいろ試行錯誤したのだと思う. もっとも彼は,根の置換の集合がいわゆる群をなすこと,そして群の基本的な性質も見いだしていたので, それも生かしたかも知れない.
その上で,ガロアが見いだした体の拡大と部分群の系列の対応を知れば, どのような式を使えばよいのかも,実は分かるのだ.
根の存在
南海 大切なことを指摘しておかなければならない. 「三次方程式」や「四次方程式」では,実際に根を構成している.つまり,根の存在も証明している.
耕一 そうか.ラグランジュの方法では根を文字に置くところからはじめるので, 根の存在を仮定して論述をはじめているのですね.
南海 根の存在を仮定して計算を進め,最後には構成しているので,存在も示し得ている. 根を求めるアルゴリズムの存在は,根の存在の間接証明である.
一般の代数方程式の根の存在の証明は 『数学対話』の「 代数学の基本定理の証明」にある. 大切なことであるのでここで指摘しておく.五次方程式へ
耕一 五次方程式は,できなかったのですね.
南海 ここでもまた,ラグランジュはいろいろ試行錯誤したのだと思う. しかし得ることはできなかった. そして,このラグランジュの仕事を引きつぎ, 五次方程式の根を求めるアルゴリズムは存在しえないことを最初に証明したのがアーベル(Niels Henrik Abel、1802年8月5日〜1829年4月6日)であった.
そこには新たな飛躍があった.係数の属する体に根を加えた体を考えるのだ.
ある意味ではそこから現代に続く数学がはじまった. このアーベルの方法は『代数学講義』(高木貞治,1930年初版,1948年改訂版)に詳しく載っている. そして次のように書かれている.上記はAbelの原証明に些細の変改を加えたものである.有理区域(体のこと)の思想はこの証明法を発端として成育されたものである.いずれこれもまた紹介したい.
現今流布本においてはAbelの証明はほとんど跡を絶とうとしている.五次以上の一般的方程式が羃根によって解かれないことを,現今の体の論では,一層広汎な定理の特別の場合として,きわめて手軽に出してしまう.飛行機から登山の路を見させるようなものである.ここでは大掛りの準備をしないで,最初の踏破者の足跡を追って見たのである.それは無用ではあるまいと思われる.