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整数係数の整式

耕一  次の問題の別解などをいろいろ考えました.出典は不明なのですが,どこかの大学の過去問題だと思います.

1.5.1
  1. 最高次数の係数が1の整数係数の整式

    \begin{displaymath}
f(x)=x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_0
\end{displaymath}

    が有理数 $\alpha$ を用いて

    \begin{displaymath}
f(x)=(x-\alpha)Q(x)
\end{displaymath}

    と因数分解された.このとき $\alpha$ は整数であることを示せ.
  2. さらに係数 $a_{n-1},\ a_{n-2},\ \cdots,\ a_0$がすべて素数 $p$ の倍数であるとする.このとき,
    1. 方程式$f(x)=0$が整数解$\alpha$をもてば, $\alpha$$p$ で割り切れることを示せ.
    2. $a_0$$p^2$ で割り切れなければ, 方程式 $f(x)=0$ は有理数解を持たないことを示せ.

これを一通り解きました.

解答

  1. $\alpha=\dfrac{p}{q}\ (p,\ qは互いに素な整数,q>0)$ とおく. $f(\alpha)=0$ なので

    \begin{displaymath}
\left(\dfrac{p}{q} \right)^n+a_{n-1}\left(\dfrac{p}{q} \right)^{n-1}+\cdots+a_0=0
\end{displaymath}

    これから

    \begin{displaymath}
\dfrac{p^n}{q}=-a_{n-1}p^{n-1}-\cdots-a_0q^{n-1}
\end{displaymath}

    $p^n$$q$ も互いに素で右辺は整数であるから $q=1$

    よって $\alpha$ は整数である.


    1. \begin{displaymath}
\alpha ^n=-(a_{n-1}\alpha^{n-1}+\cdots+a_0)
\end{displaymath}

      より $\alpha ^n$$p$ の倍数であり, $\alpha$$p$ の倍数であることがわかる.
    2. 対偶を示す.

      $f(x)=0$ が有理数解を持てば(1)からそれは整数解である.

      整数解は $p$ の倍数である.このとき,

      \begin{displaymath}
a_0=-(\alpha^n+a_{n-1}\alpha^{n-1}+\cdots+a_1\alpha)
\end{displaymath}

      右辺は $p^2$ の倍数である.従って $a_0$$p^2$ の倍数となる. つまり対偶が示せたので,題意が示された.

南海  これはこれで立派な解答だ. 整数係数でしかも最高次数の係数が1である整式は,入試問題のテーマとしてつねに登場する. この解答以外の方法や,この問題の意義について考えてみるのはよいことだ.

別解を考えようとしたというが,どのような方向で考えたのか.

耕一  はい.$\alpha$を方程式の解として考える以外に,整式の因数分解の問題で考えられないか と思いました.

$\alpha=\dfrac{p}{q}\ (p,\ qは互いに素な整数,q>0)$ とおく.$x-\alpha$ で割り切れることは,係数が整数に1次式にすると$qx-p$で割り切れることと同値です. そこで

\begin{displaymath}
f(x)=(qx-p)S(x)
\end{displaymath}


とおいて見ました.$S(x)$は有理数係数の整式です.

そこで質問ですが,もし別の方向から上の$S(x)$が整数係数であることが示せたら, $qb_{n-1}=1$から$q=1$がわかります.

南海  実は,整数係数の整式が,有理数係数の整式に因数分解できれば,その係数は整数でとれる ということがガウスによって示されているのだ.今の場合$qx-p$の係数は互いに素 なので,ここからくくって$S(x)$全体にかける整数はないので,$S(x)$自身が整数係数なのだ.

それが「原始多項式」の理論だ.

ところで,整式の既約性という問題は数の場合と違ってやや複雑である. 例えば,$f(x)=x^4-4$ は有理数の範囲で考えると $f(x)=(x^2-2)(x^2+2)$までしか分解できないが, 実数の範囲では $f(x)=(x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})(x^2+2)$ と分解でき, 複素数の範囲では $f(x)=(x-\sqrt{2})(x+\sqrt{2})(x-\sqrt{2}i)(x+\sqrt{2}i)$ と一次式に分解される.

このようにどの範囲で考えるかで,分解される範囲が異なる.複素数まで考えれば一次式の積に 分解される.

いま考えているのは,「有理数の範囲で因数に分解できれば実は整数の範囲で分解できる」 ことが示せないかということだ.



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