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因数分解のアルゴリズム

耕一  必ず因数分解できる方法というのはあるのでしょうか.

南海  「必ずできる方法」を何というのか.

耕一  「アルゴリズム」です.

南海  つまり「因数分解のアルゴリズム」はあるのか? ということだ.

因数分解についてどんな方法を知っているか.

耕一 $x$の整式を因数分解する方法は次のものしか知りません.

  1. 二次式$ax^2+bx+c$は,二次方程式$ax^2+bx+c=0$ の 二つの根 $\alpha,\ \beta$をもちいて次のように因数分解される.

    \begin{displaymath}
ax^2+bx+c=a(x-\alpha)(x-\beta)
\end{displaymath}

  2. 因数定理で一次の因数を発見し,次数を下げる.
  3. 適当な置き換えによって二次式として分解し,それを繰り返す.

しかし,因数定理で因数を発見するというのは,方程式の根を暗算で見つけるということですから いつもそれでできるとはかぎりません.

因数を発見する一般的な方法はあるのでしょうか. したがってまた,因数がない,つまり既約であることを証明する方法は あるのでしょうか.

南海  たいへん難しい問題だが, 整数係数の多項式のの整数係数の因数を発見するアルゴリズムは,これがあるのである! 

$f(x)$$x$の整数係数の$n$次の整式としよう.

  1. $f(x)$の因数は,$\dfrac{n}{2}$ 以下のものでさがせばよい. $\dfrac{n}{2}$ を超えない最大の整数を $s$ とする.
  2. $g(x)$$f(x)$ の因数とすれば $g(x)$$f(x)$ を割り切る.
  3. $s+1$ 個の相異なる整数 $a_0,a_1, \cdots a_s$ を選ぶ.
  4. $f(a_0),f(a_1),f(a_2), \cdots f(a_s)$ $g(a_0),g(a_1),g(a_2),
\cdots g(a_s)$ で割り切れる.
  5. $f(a_0),f(a_1),f(a_2), \cdots f(a_s)$ をそれぞれ因数分解し,約数を選ぶ. 選び方の組み合わせ方は有限個である.
  6. これらの値を $g(a_0),g(a_1),g(a_2),
\cdots g(a_s)$ の値とする $g(x)$ をラグランジュの補間公式で構成する.
  7. このとき, $g(x)$ の係数が整数であることなどを用いて, 可能なものを限定するとよい.
  8. すべての $f(x)$ の整数係数の因数は, 約数の組み合わせ方をかえててできる有限個の $g(x)$ の中にしかない. 実際に割ってさがす.ひとつもなければ,既約である.

「ラグランジュの補間公式」は『新作/改作問題』「ラグランジュの補間公式」を見てほしい.

この方法で, $f(x)=x^4+x^2+1$ を因数分解しよう.

耕一  でも $x^4+x^2+1=(x^2+1)^2-x^2=(x^2+x+1)(x^2-x+1)$ですね.

南海  これがこの方法ではどうなるかやってみるのだ.

  1. 4次の$x$の整数係数の整式 $f(x)$ の因数で2次以下のものを求める.

    $g(x)$ を2次以下の$f(x)$ の因数とすれば $g(x)$$f(x)$ を割り切る.

  2. 3個の相異なる整数として,$0,\ 1,\ -1$ を選ぶ. $f(0)=1,\ f(1)=3,\ f(-1)=3$ である. $f(0)=1,\ f(1)=3,\ f(-1)=3$ の因数を, $A,\ B,\ C$ とする.

  3. \begin{displaymath}
g(x)=A\dfrac{(x-1)(x+1)}{(0-1)(0+1)}+B\dfrac{(x-0)(x+1)}{(1-0)(1+1)}+
C\dfrac{(x-0)(x-1)}{(-1-0)(-1-1)}
\end{displaymath}

    とおく.つまり

    \begin{displaymath}
g(x)=-A(x-1)(x+1)+\dfrac{B}{2}(x-0)(x+1)+\dfrac{C}{2}(x-0)(x-1)
\end{displaymath}

  4. $A,\ B,\ C$のうち一つの符号は任意にとれるので$A=1$ とする.

    \begin{displaymath}
g(x)=\left(-1+\dfrac{B+C}{2}\right)x^2+\dfrac{B-C}{2}x+1
\end{displaymath}

  5. $B,C= \pm 1, \pm 3$ の16通りの組み合わせがある.

    ガウスの定理4により, $-1+\dfrac{B+C}{2}$$ \pm 1$ のものだけを考えればよい.よって

    \begin{displaymath}
(B,C)=
(1,\ 1),\ (3,\ -1),\ (-1,\ 3),\ (3,\ 1),\ (1,\ 3),\
(1,\ -1),\ (-1,\ 1),\ (3,\ -3),\ (-3,\ 3)
\end{displaymath}

  6. 各々 $g(x)$ を求めると, $1,2x+1,\ -2x+1$, $\underline{x^2+x+1},\ \underline{x^2-x+1}$, $-x^2+x+1,\ -x^2-x+1,\ -x^2+3x+1,\ -x^2-3x+1$
  7. 下線を引いた2つが, $f(x)$ を割り切る.よって $f(x)=(x^2+x+1)(x^2-x+1)$

南海  大切なことは,「必要条件で絞る方法がある」ということだ. 必要条件は個別に工夫すればよいが,最後の手があるのだ.



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