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デカルトの円定理

太郎 『反転と円環問題』で「和算家の証明は,反転法ではなくいわゆるデカルトの円定理,およびその一般化である三次元球の定理を用いている.円定理もまた非常に面白いので,これは次の機会に考えよう.」といわれました.デカルトの円定理とは何ですか.

南海 それは次のような,互いに接する円の半径のあいだの関係だ.

定理 1        平面上の四つの円がある.その半径を $r_1,\ r_2,\ r_3,\ r_4$とする. これら四円が互いに外接しているとき,これらの四円の半径の間に

\begin{displaymath}
\left(\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_2}+\dfrac{1}{r_3}+\dfrac{1...
...rac{1}{{r_2}^2}+\dfrac{1}{{r_3}^2}+\dfrac{1}{{r_4}^2} \right)
\end{displaymath}


という関係が成り立つ.三円が互いに外接し,これらが第四の円に内接しているとき, これらの四つの半径の間に

\begin{displaymath}
\left(\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_2}+\dfrac{1}{r_3}-\dfrac{1...
...rac{1}{{r_2}^2}+\dfrac{1}{{r_3}^2}+\dfrac{1}{{r_4}^2} \right)
\end{displaymath}

が成り立つ. ■

これが円定理だ. デカルトがエリザベス王女に宛てた手紙のなかで論究している. それでデカルトの円定理といわれる. 和算でもこの定理は基本定理であった.

太郎 きれいな関係式です. まずこれを証明したいです.

南海 確かに手持ちの方法で考えることは大切だ. またそれが和算家の道筋をたどっていくことにもなる. 後にもっと一般的に考えるのだが, 四つの円が互いに外接する場合について, まずこれ自体を示してみよう. その証明を和算家は次の補題をもとにおこなった.

補題 1        三つの円$A,\ B,\ C$が互いに外接している. その半径を$a,\ b,\ c$とする. $A$$B$の接点を$\mathrm{P}$, $A$$C$の接点を$\mathrm{Q}$とする. このとき,

\begin{displaymath}
\mathrm{PQ}^2=\dfrac{4a^2bc}{(a+b)(a+c)}
\end{displaymath}
が成り立つ. ■


証明     中心をそれぞれ $\mathrm{A},\ \mathrm{B},\ \mathrm{C}$とし, $\angle \mathrm{BAC}=\theta$とする. $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$ $\bigtriangleup \mathrm{APQ}$に余弦定理を適用する.

\begin{eqnarray*}
\mathrm{BC}^2&=&(a+b)^2+(a+c)^2-2(a+b)(a+c)\cos\theta\\
\mathrm{PQ}^2&=&a^2+a^2-2a^2\cos\theta=2a^2(1-\cos\theta)
\end{eqnarray*}

$\mathrm{BC}=b+c$なので第1式から

\begin{displaymath}
1-\cos\theta=1-\dfrac{(a+b)^2+(a+c)^2-(b+c)^2}{2(a+b)(a+c)}
=\dfrac{2bc}{(a+b)(a+c)}
\end{displaymath}


\begin{displaymath}
∴\quad \mathrm{PQ}^2=2a^2(1-\cos\theta)=\dfrac{4a^2bc}{(a+b)(a+c)}
\end{displaymath}

である. □

南海 それでよいのだが,実は和算には三角比がなかった. だから余弦定理はなかった.

太郎 えっ,そうなのですか.

南海 和算では $\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の余弦定理

\begin{displaymath}
\mathrm{BC}^2=\mathrm{AB}^2+\mathrm{AC}^2-2\mathrm{AB}\cdot\mathrm{AC}\cos\angle \mathrm{BAC}
\end{displaymath}


の代わりにその一つ前の段階である次の定理を用いた.点$\mathrm{B}$から$\mathrm{AC}$への垂線を $\mathrm{BH}$とするとき

\begin{displaymath}
\mathrm{BC}^2=\mathrm{AB}^2+\mathrm{AC}^2-2\mathrm{AH}\cdot\mathrm{AC}
\end{displaymath}


太郎 $\mathrm{AB}\cos\angle \mathrm{BAC}=\mathrm{AH}$なので同じことですね.

南海 というより,三平方の定理から余弦定理に至る途中で経由する等式だ. 余弦定理は $\mathrm{AB},\ \mathrm{AC}$に関して対称な形をしているが, $\mathrm{AH}$の入る等式は対称性が見えにくいので, $\mathrm{B},\ \mathrm{C}$いずれからの垂線がよいのか個別に考えなければならなかった. われわれは余弦定理をどんどん用いることにしよう. この補題を活用して定理1を示してほしい.

太郎 もういちど見やすく図を描いて見ます.


定理1の証明      円$O_1$$O_2$の接点を$\mathrm{A}$, 円$O_1$$O_3$の接点を$\mathrm{B}$, 円$O_1$$O_4$の接点を$\mathrm{C}$とする.

補題より

\begin{displaymath}
\mathrm{AB}^2=\dfrac{4{r_1}^2r_2r_3}{(r_1+r_2)(r_1+r_3)},\q...
...ad
\mathrm{BC}^2=\dfrac{4{r_1}^2r_3r_4}{(r_1+r_3)(r_1+r_4)}
\end{displaymath}

となる.次に $\angle \mathrm{ACB}=\theta$とおく. $\angle \mathrm{AO_1B}$は中心角であり,その円周角は $\angle \mathrm{ACB}$の補角である.
\begin{displaymath}
∴\quad \angle \mathrm{AO_1B}=2(\pi-\theta)
\end{displaymath}

$\bigtriangleup \mathrm{ABC}$ $\bigtriangleup \mathrm{O_1AB}$ に余弦定理を用いる.

\begin{eqnarray*}
\mathrm{AB}^2
&=&\mathrm{CA}^2+\mathrm{CB}^2-2\mathrm{CA}\cd...
...\theta)=
2{r_1}^2(1-\cos2\theta)=4{r_1}^2-4{r_1}^2\cos^2\theta
\end{eqnarray*}

第一式を用いて$\cos^2\theta$を半径で表す.

\begin{eqnarray*}
\cos^2\theta&=&\left(\dfrac{\mathrm{CA}^2+\mathrm{CB}^2-\math...
..._3r_4+r_2r_3r_4-r_1r_2r_3)^2}{4r_2r_3{r_4}^2(r_1+r_2)(r_1+r_3)}
\end{eqnarray*}

これを第二式に代入し半径の関係式を作る.
\begin{displaymath}
\dfrac{4{r_1}^2r_2r_3}{(r_1+r_2)(r_1+r_3)}
=4{r_1}^2-4{r_1...
...r_4+r_2r_3r_4-r_1r_2r_3)^2}{4r_2r_3{r_4}^2(r_1+r_2)(r_1+r_3)}
\end{displaymath}

これを整理すると
\begin{displaymath}
\dfrac{(r_1r_2r_4+r_1r_3r_4+r_2r_3r_4-r_1r_2r_3)^2}{4r_2r_3...
...r_1+r_3)}=
\dfrac{{r_1}^2+r_1r_2+r_1r_3}{(r_1+r_2)(r_1+r_3)}
\end{displaymath}

となり,さらに
\begin{displaymath}
\left(\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_2}+\dfrac{1}{r_3}-\dfrac{1...
...\dfrac{1}{r_1r_2}+\dfrac{1}{r_2r_3}+\dfrac{1}{r_3r_1} \right)
\end{displaymath}
となる.これから
\begin{eqnarray*}
\left(\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_2}+\dfrac{1}{r_3}+\dfrac{1}{...
...{r_2}+\dfrac{1}{r_3}\right)\\
&=&4\sum_{i<j}\dfrac{1}{r_ir_j}
\end{eqnarray*}

よって

\begin{eqnarray*}
&&
\left(\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_2}+\dfrac{1}{r_3}+\dfrac...
...{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_2}+\dfrac{1}{r_3}+\dfrac{1}{r_4} \right)^2
\end{eqnarray*}

これから
\begin{displaymath}
\left(\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_2}+\dfrac{1}{r_3}+\dfrac{1...
...rac{1}{{r_2}^2}+\dfrac{1}{{r_3}^2}+\dfrac{1}{{r_4}^2} \right)
\end{displaymath}

を得る. □

太郎 助けてもらいましたが,それでも大変です.

南海 $O_1,\ O_2,\ O_3$が互いに外接し,これらが $O_4$に内接する場合の関係式は

\begin{displaymath}
\left(\dfrac{1}{r_1}+\dfrac{1}{r_2}+\dfrac{1}{r_3}-\dfrac{1...
...rac{1}{{r_2}^2}+\dfrac{1}{{r_3}^2}+\dfrac{1}{{r_4}^2} \right)
\end{displaymath}

であるが,それは後の方法では明らかなのでここでの証明はおいておこう.
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2014-07-06