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空間でのチャップル型定理

南海  平面図形の定理に「チャップルの定理」とか「オイラーの定理」といわれるものがある.二人が独立に発見したようだが,時間的にはチャップルの方が早いようだ.ここでは「チャップルの定理」ということにする.それは
$\bigtriangleup \mathrm{ABC}$の内心をIとし, 内接円の半径を$r$とする. また,外心をOとし, 外接円の半径を$R$とすると, $\mathrm{OI}^2=R^2-2Rr$である.
というものだ.四面体にも外心と内心がある. ここにはどのような関係が成り立つのだろうか. これに関する定理を「空間でのチャップル型定理」と言おう. これについて次の命題が成立する. これは『幾何学大辞典』の第4巻にあり, 辞典の著者である岩田至康さんによる命題である.

命題 1        四面体ABCDがある. その外心をO,外接球の半径を$R$とし, 内心をI,内接球の半径を$r$とする.

頂点Aと内心Iを交換した四面体IBCDの外心を $\mathrm{O}_{\mathrm{A}}$とし,他も同様に定める.このとき四面体 $\mathrm{O}_{\mathrm{A}}
\mathrm{O}_{\mathrm{B}}
\mathrm{O}_{\mathrm{C}}
\mathrm{O}_{\mathrm{D}}$ の外心はOに一致し,外接球の半径を$R'$とおくと $\mathrm{OI}^2=R^2-2R'r$である. ■

証明     以下位置ベクトルの基準点は四面体ABCDの外心Oとする. $\mathrm{O}\mathrm{O}_{\mathrm{A}}$がAによらないことを示す.

$\left\vert\overrightarrow{u} \right\vert^2-R^2=0$は 四面体ABCDの各頂点を通る球の方程式であり, $[
\overrightarrow{u}-\overrightarrow{b},\
\overrightarrow{u}-\overrightarrow{c},\
\overrightarrow{u}-\overrightarrow{d}
]=0$ は,3点B,C,Dを通る平面の方程式である. よって,

\begin{displaymath}
\left\vert\overrightarrow{u} \right\vert^2-R^2
+k\left\{[
...
...ow{c},\
\overrightarrow{u}-\overrightarrow{d}
] \right\}=0
\end{displaymath}

は,3点B,C,Dを通る球面の方程式である. これが内心Iを通るように$k$を定める. $\overrightarrow{u}$ $\overrightarrow{i}=\overrightarrow{\mathrm{OI}}$を代入して,

\begin{displaymath}
\mathrm{OI}^2-R^2
+k\left\{[
\overrightarrow{i}-\overrigh...
...ow{c},\
\overrightarrow{i}-\overrightarrow{d}
] \right\}=0
\end{displaymath}

よって

\begin{displaymath}
k=-\dfrac{\mathrm{OI}^2-R^2}{[
\overrightarrow{i}-\overrig...
...errightarrow{c},\
\overrightarrow{i}-\overrightarrow{d}
]}
\end{displaymath}

のとき点Iを通る.つまり

\begin{displaymath}
\left\vert\overrightarrow{u} \right\vert^2-R^2
-\dfrac{\ma...
...ow{c},\
\overrightarrow{u}-\overrightarrow{d}
] \right\}=0
\end{displaymath}

は四面体IBCDの外接球となる.

\begin{eqnarray*}
&&[
\overrightarrow{u}-\overrightarrow{b},\
\overrightarro...
...
\overrightarrow{b},\ \overrightarrow{c},\ \overrightarrow{d}]
\end{eqnarray*}

なので,その中心 $\mathrm{O}_{\mathrm{A}}$

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{O}\mathrm{O}_{\mathrm{A}}}
=\dfrac...
...w{d}
+\overrightarrow{d}\times\overrightarrow{b}}{2} \right)
\end{displaymath}

である. ここで, $\dfrac{1}{6}[
\overrightarrow{i}-\overrightarrow{b},\
\overrightarrow{i}-\overrightarrow{c},\
\overrightarrow{i}-\overrightarrow{d}
]$が,四面体IBCDの体積である. これは,内接円の半径を高さとし, $\bigtriangleup \mathrm{BCD}$を底面とする四面体なので,

\begin{displaymath}
\left\vert[
\overrightarrow{i}-\overrightarrow{b},\
\ove...
...{6}{3}r\left\vert\overrightarrow{S}(\mathrm{BCD}) \right\vert
\end{displaymath}

である.面積ベクトルの展開式から,

\begin{displaymath}
\left\vert\dfrac{\overrightarrow{b}\times\overrightarrow{c}...
...vert
=\left\vert\overrightarrow{S}(\mathrm{BCD}) \right\vert
\end{displaymath}

である.これより

\begin{displaymath}
\left\vert\overrightarrow{\mathrm{O}\mathrm{O}_{\mathrm{A}}...
...w{S}(\mathrm{BCD}) \right\vert}=\dfrac{R^2-\mathrm{OI}^2}{2r}
\end{displaymath}

これは,A,B,C,Dによらない一定の値である. この値を$R'$としたので,

\begin{displaymath}
R^2-\mathrm{OI}^2=2rR'
\end{displaymath}

である.よって, $\mathrm{OI}^2=R^2-2R'r$が示された. □

耕一  これは平面の場合のチャップルの定理の拡張なのですか. 平面の場合のチャップルの定理は,円周角の定理まで用いたはずですが, 四面体の場合は線型代数だけでできました.

南海  平面の場合は$R=R'$となる. その証明に円周角の定理がいる. そこに平面の場合の難しさがあった. これについては2009年の京大の入試問題乙2番6 を見てほしい.

四面体のこの命題は線型代数の範囲の命題であり, ここまでなら$n$次元の場合にも拡張できるだろう. それは今はおくが,試みてほしい.

例 1.3 (等面四面体の場合)   等面四面体の場合に,この空間でのチャップル型定理がどのようになるか,確認しよう.

等面四面体では外心と内心が一致するので,命題1は,

\begin{displaymath}
R^2=2R'r
\end{displaymath}

である.これを示そう.


証明      $a,\ b,\ c$を $ a^2+b^2+c^2=1 $ を満たす正の定数とし, $xyz$空間上の四面体ABCDを $\mathrm{A}(a,\ 0,\ 0)$ $\mathrm{B}(0,\ b,\ 0)$ $\mathrm{C}(0,\ 0,\ c)$ $\mathrm{D}(a,\ b,\ c)$で定める.

このとき,四面体 ABCD の各面は, \[ \sqrt{a^2+b^2},\ \sqrt{b^2+c^2},\ \sqrt{c^2+a^2} \] を3辺の長さとする合同な三角形である.


\begin{displaymath}
\left(x-\dfrac{a}{2} \right)^2+\left(y-\dfrac{b}{2} \right)^2+\left(z-\dfrac{c}{2} \right)^2
=\dfrac{1}{4}
\end{displaymath}

は四面体の各頂点を通り,これが外接球である.その半径$R$ $R=\dfrac{1}{2}$である.

$r$は,四面体の中心である内心とABC平面

\begin{displaymath}
\dfrac{x}{a}+\dfrac{y}{b}+\dfrac{z}{c}=1
\end{displaymath}

との距離なので,
\[ r=\dfrac{\left|\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{2}-1 \right|}{\sqrt{\dfrac{1}{a^2}+\dfrac{1}{b^2}+\dfrac{1}{c^2}}}=\dfrac{1}{2\sqrt{\dfrac{1}{a^2}+\dfrac{1}{b^2}+\dfrac{1}{c^2}}} \] である.

次に,3点A,B,Cと中心 $\left(\dfrac{a}{2},\ \dfrac{b}{2},\ \dfrac{c}{2}\right)$を通る球を

\begin{displaymath}
\left(x-\dfrac{a}{2} \right)^2+\left(y-\dfrac{b}{2} \right)...
...{4}+k\left(\dfrac{x}{a}+\dfrac{y}{b}+\dfrac{z}{c}-1 \right)=0
\end{displaymath}

とおく.これが中心を通るので

\begin{displaymath}
-\dfrac{1}{4}+k\left(\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{2}-1 \right)=0
\end{displaymath}

つまり, $k=\dfrac{1}{2}$である. このとき,この球の中心は

\begin{displaymath}
\left(\dfrac{a}{2}-\dfrac{1}{4a},\ \dfrac{b}{2}-\dfrac{1}{4b},\ \dfrac{c}{2}-\dfrac{1}{4c} \right)
\end{displaymath}

である.よって

\begin{displaymath}
R'=\dfrac{1}{4}{\sqrt{\dfrac{1}{a^2}+\dfrac{1}{b^2}+\dfrac{1}{c^2}}}
\end{displaymath}

この結果,

\[ 2R'r=\dfrac{1}{4}=R^2 \]

が成立している.


コーシー・シュワルツの不等式から

\begin{displaymath}
\begin{array}{ll}
&(a^2+b^2+c^2)\left(\dfrac{1}{a^2}+\df...
...ot\dfrac{1}{b}+c\cdot\dfrac{1}{c}\right)^2=9
\par
\end{array}
\end{displaymath}

が成り立ち, $a^2+b^2+c^2=1$ なので,

\begin{displaymath}
\dfrac{1}{a^2}+\dfrac{1}{b^2}+\dfrac{1}{c^2}\geqq 9
\end{displaymath}

よって,

\begin{displaymath}
r\leqq \dfrac{1}{2\sqrt{9}}=\dfrac{1}{6}=\dfrac{1}{3}R
\end{displaymath}

である。ここで等号成立は,

\begin{displaymath}
a:b:c=\dfrac{1}{a}:\dfrac{1}{b}:\dfrac{1}{c}
\end{displaymath}

つまり$a=b=c$のとき. $a^2+b^2+c^2=1$ より

\begin{displaymath}
a=b=c=\dfrac{1}{\sqrt{3}}
\end{displaymath}

のときである.

これは平面の場合のチャップル型定理と同様のものである.

これがどのように一般化されるかは,未解決である.


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Aozora 2018-08-31