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運動方程式から軌道方程式を導く

南海  さてわれわれの得た微分方程式 $\maru{3},\ \maru{4}$をもとに, 惑星の軌道が楕円であることを導こう.

拓生  $\maru{3},\ \maru{4}$の基本的な変数は時間$t$です. 惑星の軌道は$r$と角$\theta$の関係です.

時間$t$での位置を決定することはしないのですか.

南海  確かにそこまでしてはじめて問題を解いたといえる. しかし,まず $\maru{3},\ \maru{4}$から$r$と角$\theta$の関係を導き, 楕円軌道であることを確定させ,観測データとあわせながら, 位置決定などの問題を解くのが現実的なのだ.

そこで$r$と角$\theta$の関係を導きたい.

運動方程式の変形


南海  そのために, $\maru{3},\ \maru{4}$を変形して $r$と角$\theta$の間の微分方程式を導くのが次の目標だ.

$\maru{4}$から $\dfrac{d\theta}{dt}=\dfrac{h}{r^2}$が導かれている. これを$\maru{3}$に代入して整理する.

拓生 

\begin{displaymath}
\dfrac{d^2r}{dt^2}-\dfrac{h^2}{r^3}=-\dfrac{GM}{r^2}\quad \cdots\maru{5}
\end{displaymath}

となります.

逆数の多い複雑な方程式になりました.

南海  方程式が複雑になったときは,より基本的な変数に変えてみる,ということが基本だ. $r$は質点間の距離であるが,距離,速度,加速度,といった数学的な量に対して,

位置エネルギー(本当は「ポテンシャル」というべき所だ),運動量,力, といった物理学的な量が,特にそれが保存量である場合に,基本的な量だ.

2つの質量$m,\ M$をもつ質点が万有引力で引き合い,距離$r$のときそれぞれ 速度が$v,\ V$となったとする.万有引力による位置エネルギー$U$

\begin{displaymath}
U=\int_{\infty}^r-\dfrac{GmM}{r^2}\,dr=-\dfrac{GmM}{r}
\end{displaymath}

で定まる.

拓生  これはエネルギー保存則


として習いました.

南海  この$U$は,中心力が働く場でのポテンシャルというものだ. これはこのような場での基本量だ.

ポテンシャルは$\dfrac{1}{r}$に比例している.

拓生  $s=\dfrac{1}{r}$と変数を変換してみる価値があるのですね.

南海  数学的にも, 微分方程式を変形するためのこのような置き換えは長い間にいろいろと工夫されてきたのだ. 物理的にも意義あるわけだ.

ここではそれを使わせてもらう. $t$での微分を作ったうえで,$\theta$での微分に置きかえていく.

拓生 

\begin{eqnarray*}
\dfrac{dr}{dt}&=&-\dfrac{1}{s^2}\dfrac{ds}{dt}
=-\dfrac{1}{s^2...
...^2}\dfrac{d\theta}{dt}\\
&=&-h\dfrac{d^2s}{d\theta^2}\cdot hs^2
\end{eqnarray*}

ですから$\maru{5}$

\begin{displaymath}
-h^2\dfrac{d^2s}{d\theta^2}\cdot s^2=h^2s^3-GMs^2
\end{displaymath}

これから

\begin{displaymath}
\dfrac{d^2s}{d\theta^2}=-s+\dfrac{GM}{h^2}
\end{displaymath}

となりました.

南海  つまり

\begin{displaymath}
\dfrac{d^2}{d\theta^2}\left(s-\dfrac{GM}{h^2} \right)=-\left(s-\dfrac{GM}{h^2} \right)
\end{displaymath}

ここで $f(\theta)=s-\dfrac{GM}{h^2}$とおくと,

\begin{displaymath}
\dfrac{d^2f}{d\theta^2}=-f\quad \cdots\maru{6}
\end{displaymath}

となった.

この微分方程式を解けばよい.

微分方程式を解く


拓生  2回微分すれば符号だけが変わるというのは,例えば $\sin \theta,\ \cos \theta$があります.

南海  確かに.それらは$\maru{6}$をみたす.問題は$\maru{6}$を満たすものをすべて求めなければならない.

拓生  でも

\begin{displaymath}
f=a_0+a_1\theta+a_2\theta^2+\dots+a_k\theta^k+\cdots
\end{displaymath}

とおくと,

\begin{displaymath}
\dfrac{d^2f}{d\theta^2}=2a_2+\cdots+k(k-1)a_k\theta^{k-2}+\cdots
\end{displaymath}

となるので,$\maru{6}$

\begin{displaymath}
k(k-1)a_k=-a_{k-2}
\end{displaymath}

を意味していないでしょうか.これは係数の漸化式です. 2つ飛びなので$a_0,\ a_1$を決めればすべて決まる.

一方,

\begin{eqnarray*}
\cos \theta&=& 1-\dfrac{1}{2}\theta^2+\dfrac{1}{4!}\theta^4-\c...
...heta&=&\theta-\dfrac{1}{3!}\theta^3+\dfrac{1}{5!}\theta^5-\cdots
\end{eqnarray*}

で,確かにこれは漸化式を満たしている.だから$\maru{6}$を満たす$f$は必ず

\begin{displaymath}
f=a_0\cos\theta+a_1\sin \theta
\end{displaymath}

と表される.

南海  よくできました.ニュートンの力学に現れる関数は何度でも微分可能で, 級数に展開できる.だからこれでよい.

ここでは, 次のようなより一般的な微分方程式の解に関する基本定理を考えておこう.


\begin{displaymath}
y''+p(x)y'+q(x)y=0
\end{displaymath}

のような形をした微分方程式を2階線形微分方程式という. これに関して次の定理が成り立つ. これはわずか20年ほど前の高校微積の問題集には載っているものだ.

定理 2

微分方程式 $y''+p(x)y'+q(x)y=0$において

  1. $y_1,\ y_2$が解ならば,任意の定数$c_1,\ c_2$に対して$c_1y_1+c_2y_2$も解である.
  2. $y_1,\ y_2$が解で,かつ定義域のすべての$x$に対して

    \begin{displaymath}
y_1{y_2}'-y_2{y_1}'\ne 0
\end{displaymath}

    が成り立つなら,すべての解は適当な定数$c_1,\ c_2$を用いて$c_1y_1+c_2y_2$と表される.

証明

拓生  (1)はすぐ出来ます.

\begin{eqnarray*}
&&(c_1y_1+c_2y_2)''+p(x)(c_1y_1+c_2y_2)'+q(x)(c_1y_1+c_2y_2)\\...
..._1({y_1}''+p(x){y_1}'+q(x)y_1)+c_2({y_2}''+p(x){y_2}'+q(x)y_2)=0
\end{eqnarray*}

より,$c_1y_1+c_2y_2$も解である.

南海  (2)は少し難しい.

任意の解$y$をとる. 行列 $\matrix{y_1}{y_2}{{y_1}'}{{y_2}'}$は, $y_1{y_2}'-y_2{y_1}'\ne 0$より逆行列をもつ. そこで

\begin{displaymath}
\matrix{y_1}{y_2}{{y_1}'}{{y_2}'}^{-1}\vecarray{y}{y'}=\vecarray{u}{v}
\end{displaymath}

とおく.つまり

\begin{displaymath}
\vecarray{y}{y'}=\matrix{y_1}{y_2}{{y_1}'}{{y_2}'}\vecarray{u}{v}
\end{displaymath}

より

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
y=uy_1+vy_2\\
y'=u{y_1}'+v{y_2}'\\
\end{array}\end{displaymath}

となる.第1式を微分して $y'=u{y_1}'+u'y_1+v{y_2}'+v'y_2$となる.第2式と比較して $u'y_1+v'y_2=0$となる.

第2式を微分して $y''=u{y_1}''+u'{y_1}'+v{y_2}''+v'{y_2}'$となる. ここで

\begin{eqnarray*}
0&=&y''+p(x)y'+q(x)y\\
&=&u{y_1}''+v{y_2}''+u'{y_1}'+v'{y_2}'...
..._2\}\\
&&\quad \quad +u'{y_1}'+v'{y_2}'\\
&=&u'{y_1}'+v'{y_2}'
\end{eqnarray*}

したがって

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
u'y_1+v'y_2=0\\
u'{y_1}'+v'{y_2}'=0
\end{array}\end{displaymath}

となる.つまり

\begin{displaymath}
\matrix{y_1}{y_2}{{y_1}'}{{y_2}'}\vecarray{u'}{v'}=\vecarray{0}{0}
\end{displaymath}

である. $y_1{y_2}'-y_2{y_1}'\ne 0$より

\begin{displaymath}
u'=0,\ v'=0
\end{displaymath}

を得る.つまり$u$$v$は定数である.よってこれを$c_1,\ c_2$とおくと

\begin{displaymath}
y=c_1y_1+c_2y_2
\end{displaymath}

と表された.

拓生  $y_1=\cos\theta,\ y_2=\sin\theta$とすると

\begin{displaymath}
y_1{y_2}'-y_2{y_1}'=\cos^2\theta+\sin^2\theta=1\ne 0
\end{displaymath}

より.任意の解が $y=c_1\cos\theta+c_2\sin\theta$と表されるのですね.

惑星の軌道は楕円である


南海  さて,$\maru{6}$の解はすべて $c_1\cos\theta+c_2\sin\theta$とかけることがわかった. これは合成すると $A\cos(\theta+\alpha)$となる.角$\theta$の始点をとりなおすことで $A\cos(\theta)$としてよい.

$f(\theta)=s-\dfrac{GM}{h^2}$であったから

\begin{displaymath}
s=\dfrac{GM}{h^2}+A\cos\theta
\end{displaymath}

となる. $r=\dfrac{1}{s}$より

\begin{displaymath}
r=\dfrac{1}{\dfrac{GM}{h^2}+A\cos\theta}=\dfrac{\dfrac{h^2}{GM}}{1+\dfrac{Ah^2}{GM}\cos\theta}
\end{displaymath}

となった.

拓生  $e=\dfrac{Ah^2}{GM}$ $l=\dfrac{h^2}{GM}$とおくと

\begin{displaymath}
r=\dfrac{l}{1+e\cos \theta}
\end{displaymath}

これは確かに$e$を離心率とする2次曲線だ.しかし楕円ですか.

南海  実際に惑星の軌道は閉じているので楕円でなければならない. これがケプラーの第2法則だ.

拓生  わかりました.そうすると彗星などでは放物線になったりもするのですね.

南海  そうだ.


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