南海 それでは,懸垂線の方程式を求め,その関数に関するいくつかの話題を考えていこう. ちょうど鎖があるので吊してみよう. この曲線を懸垂線、英語では Catenary という. Catenary という言葉は1691年にホイヘンス(Huygens)に よって作られたそうである. 語源はラテン語の鎖 "catena"で,英語の鎖 chain も源をたどれば同じ語源に行き着く.
耕一
放物線と似ていますが,放物線とは違うのですね.
南海 違う.二つを同じ座標平面にかいてみよう.太い方が懸垂線,細い方が放物線だ. さすがに懸垂線は指数関数でできているだけに,はじめは放物線より値が小さいが, その後はずっと大きい値をとる.
問題はこの懸垂線の式を求めるということだった.
つまり求める曲線をとおき,を決定しようということだ.懸垂線の意味から
この曲線が軸に関して対称であるとしてよい.また,
任意のに対して,曲線の原点とまでの部分を写真のように赤線に引く.
この部分の力の釣り合いを考えよう.
南海 原点では左方向に一定の張力が働く.この大きさをとする.これは定数である. そこで,図のように任意のに対して,点で接線方向に大きさの 張力が働いているとする.この大きさはもちろんによって変化する.
鎖には重力が作用している.鎖の重みと張力とが釣り合っている,と考えられる.
原点での張力,原点からまでの鎖に働く重力,点での接線方向の張力, これらが釣り合っている.点での接線方向が軸の正の方向となす角を とおこう.
張力を軸方向と軸方向に分解する.
軸方向はととが釣り合っている.
軸方向について考える.図の赤線部分の長さ
ここで, とおこう.するとすべてを決定している関係式は次の3つである.
の両辺をで微分する. なのでを代入して
の両辺をで微分する.
これをについて0からまで積分すると
南海 は計算できるか.
耕一 はい.
南海
両辺の逆数をとると
耕一 なので
南海
の辺々を引いて,
変数をにして両辺0からまで積分する.なので
南海 今はにしたが,で,のものが懸垂線の標準的なものだ. つまり だ.
耕一 計算では途中で媒介変数がうまく使われています.
南海 曲線の長さを媒介変数にとると計算が簡明になるというのは, 微分幾何という分野では基本的なことなのだが高校数学では難しい. この考えを用いた入試問題を一つ紹介しよう.
放物線 のうち,の部分をとする.上の点 に対し,原点からまでのの部分の長さを で表す.とをの関数とみなして とおくとき,以下の問に答えよ.