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関数の展開

南海   準備として,関数の級数展開について話そう.平均値の定理を知っているな.

史織   はい.区間 $[a,\ b]$ で連続で区間 $(a,\ b)$ で微分可能な関数 $f(x)$ に対して $a<c<b$$c$

\begin{displaymath}
f'(c)=\dfrac{f(b)-f(a)}{b-a}
\end{displaymath}

となるものがある.

南海   これから分母を払って整理すると

\begin{displaymath}
f(b)=f(a)+f'(c)(b-a)
\end{displaymath}

となる.これをさらに拡張することができる.

定理 3
     関数 $f(x)$ を区間 $[a,\ b]$ で連続,区間 $(a,\ b)$$n$ 回微分可能な関数とする. このとき,次のような $c$ が存在する.

\begin{displaymath}
f(b)=\sum_{k=0} ^{n-1}\dfrac{f^{(k)}(a)}{k!}(b-a)^k
+\dfrac{f^{(n)}(c)}{n!}(b-a)^n , \ \ a<c<b
\end{displaymath}

証明

\begin{displaymath}
F(x)=\sum_{k=0} ^{n-1}\dfrac{f^{(k)}(x)}{k!}(b-x)^k + K(b-x)^n
\end{displaymath}

とする.ここで$K$

\begin{displaymath}
f(b)=\sum_{k=0} ^{n-1}\dfrac{f^{(k)}(a)}{k!}(b-a)^k + K(b-a)^n
\end{displaymath}

で定める.すると

\begin{displaymath}
F(a)=f(b),\ \quad F(b)=f(b)
\end{displaymath}

よって, ロルの定理により $a<c<b$ である $c$ が存在して, $F'(c)=0$ となる. ここで

\begin{displaymath}
F'(x)=
\sum^{n-1}_{k=0}
\left[\dfrac{f^{(k+1)}(x)}{k!}(b-x)^k-\dfrac{f^{(k)}(x)}{k!}k(b-x)^{k-1}\right]
-Kn(b-x)^{n-1}
\end{displaymath}

であるから,

\begin{displaymath}
F'(c)=\dfrac{f^{(n)}(c)}{(n-1)!}(b-c)^{n-1}-Kn(b-c)^{n-1}=0
\end{displaymath}

が成り立つ.つまり

\begin{displaymath}
K=\dfrac{f^{(n)}(c)}{n!}
\end{displaymath}

である.よって

\begin{displaymath}
f(b)=\sum^{n-1}_{k=0}\dfrac{f^{(k)}(a)}{k!}(b-a)^k+\dfrac{f^n(c)}{n!}(b-a)^n
\end{displaymath}

である.□

史織   平均値の定理の証明と似ています.

南海   そう.うまく関数 $F(x)$ をとりロルの定理から $c$ の存在を示すのはまったく同じだ.

この定理を$a=0,b=x$で用い, $c$ $c= \theta x ,0< \theta <1$ とあらわすと次のようになる.

\begin{displaymath}
f(x)=\sum_{k=0} ^{n-1}\dfrac{f^{(k)}(0)}{k!}x^k +\dfrac{f^{(n)}( \theta x )}{n!}x^n
\end{displaymath}

史織   ちょっと待ってください. $f(x)=e^x$ のときは, $f(x)$ は何回微分しても $e^x$ だから

\begin{displaymath}
f(x)=1+x+\dfrac{1}{2!}x^2+\cdots+\dfrac{1}{k!}x^k+\cdots+\dfrac{e^{\theta x}}{n!}x^n
\end{displaymath}

ですね.これはよく入試問題にも出てきます.

南海   そうだね.これを題材にした問題は多い.この展開は後にも何度も出てくる

ところで実数 $\alpha$ に対し, $f(x)=(1+x)^{\alpha}$ で用いるとどうなるかな.

史織   やってみます. $k\geq 1$ に対して,

\begin{displaymath}
f^{(k)}(x)=\alpha(\alpha-1)(\alpha-2)\cdots(\alpha-k+1)(1+x)^{\alpha-k}
\end{displaymath}

したがって,

\begin{eqnarray*}
& &(1+x)^\alpha \\
&=&1+\alpha x+\dfrac{\alpha(\alpha-1)}{2!}...
...alpha-1)
\cdots(\alpha-n+1)}{n!}(1+\theta x)^{\alpha-n}\cdot x^n
\end{eqnarray*}

となります.

南海   さらに$\alpha$ が自然数 $n$ の場合は?

史織   $\alpha$ が自然数 $n$ の場合, 最終項は

\begin{displaymath}
\dfrac{n(n-1)\cdots 1}{n!}(1+\theta x)^0x^n={}_n \mathrm{C}_nx^n
\end{displaymath}

また, $x^k$ の係数はちょうど ${}_n \mathrm{C}_k$ となっているので

\begin{displaymath}
(1+x)^n={}_n \mathrm{C}_0+{}_n \mathrm{C}_1x+\cdots+{}_n \mathrm{C}_nx^n
\end{displaymath}

となります.あっ,これは二項定理そのものです.

南海   考えてみれば二項定理は多項式の展開法則だから一致するのは当然なのだが, なかなかうまくできている.

さて,本題.$f(x)$ が何度でも微分可能とする.

\begin{displaymath}
\lim _{n \to \infty} \displaystyle \dfrac{f^{(n)}( \theta x )}{n!}x^n =0
\end{displaymath}

となれば $f(x)$ はべき級数:

\begin{displaymath}
f(x)=\sum_{k=0} ^{\infty}\dfrac{f^{(k)}(0)}{k!}x^k
\end{displaymath}

と展開される.

ここで厳密でない論証をしている.どのような $x$ で収束するのか,この展開に対して微分は 各項の微分でいいのか,等々.これは大学数学の課題だ.

先の $e^x$ から作った無限級数

\begin{displaymath}
1+x+\dfrac{1}{2!}x^2+\cdots+\dfrac{1}{k!}x^k+\cdots
\end{displaymath}

は任意の $x$ で収束し微分は各項別にできる.以下この事実を使う.

同様にして $\sin x, \cos x, \log (1+x)$ の展開式を作ってみてほしい.

史織   はい.

\begin{eqnarray*}
\sin x&=&x-\dfrac{1}{3!}x^3+\dfrac{1}{5!}x^5-\cdots \\
\cos x...
...{1}{2}x^2+\dfrac{1}{3}x^3-\dfrac{1}{4}x^4+\dfrac{1}{5}x^5-\cdots
\end{eqnarray*}

となりました.

南海   $\log(1+x)$はもちろん $-1<x$ でなければならないが,-1<x≦1の範囲の $x$ で収束する.収束範囲については『解析基礎』「級数展開」等を参照.
これは, 数学IIIC の関数の近似で学習した近似式を, 任意の精度で精密化したものである. 最近は近似式が必修でないので習っていないかも知れない.


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