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行列式がみたすべき条件

南海  さて,いよいよ「行列式」について考えなければならない. 行列式を用いなければ,逆行列を求めたりする実際の計算ができない.

耕一  高校の数学でも行列式は出ているのですか.

南海  行列式という名前は出てこない.

だが,行列 $A=\matrix{a}{b}{c}{d}$に対して,

\begin{displaymath}
\Delta=ad-bc
\end{displaymath}

とおく,というのは出てくるだろう.

耕一  はい. $\Delta=ad-bc$が0でないことが, $A$の逆行列が存在するための必要十分条件でした.

南海  この$ad-bc$が行列$A$行列式なのだ. $A$の行列式であることを明示して $\Delta(A)=ad-bc$と書いたり, もとの行列の各成分で明示して

\begin{displaymath}
\left\vert
\begin{array}{cc}
a&b\\
c&d
\end{array}\right\vert
\end{displaymath}

と書いたりする.

耕一  まえから不思議に思っていたのですが, 行列 $A=\matrix{a}{b}{c}{d}$を2つの縦ベクトル

\begin{displaymath}
\vecarray{a}{c},\ \vecarray{b}{d}
\end{displaymath}

に分けると, $\Delta(A)=ad-bc=0$ということは, この2つのベクトルの平行条件そのものです. これはどういうことでしょうか.

南海  じつはここに線型写像と行列式の内容が隠れている. ベクトル空間と$xy$座標の関係は後に改めて考える. 例を,高校数学で習う$xy$平面上のベクトルにとって,説明しよう. $xy$平面上のベクトルは,始点を原点にとることで,$xy$座標で表すことができた. これを

\begin{displaymath}
\mathrm{\bf u}=\vecarray{x}{y}
\end{displaymath}

のように縦にとって表そう. これはつまり2つのベクトル

\begin{displaymath}
\mathrm{\bf e}_1=\vecarray{1}{0},\
\mathrm{\bf e}_2=\vecarray{0}{1}
\end{displaymath}

を基底ベクトルにとっているということだ.

ある線型写像$f$をとる. この基底に対して線型写像$f$で定まる行列が $A_f=\matrix{a}{b}{c}{d}$であるとする. これは何を意味していたか.

耕一  基底が線型写像$f$によって

\begin{displaymath}
\mathrm{\bf e}_1=a\mathrm{\bf e}_1+c\mathrm{\bf e}_2,\\
\mathrm{\bf e}_2=b\mathrm{\bf e}_1+d\mathrm{\bf e}_2,
\end{displaymath}

にうつるということでした.

\begin{displaymath}
\mathrm{\bf e}_1=\vecarray{a}{c},\
\mathrm{\bf e}_2=\vecarray{b}{d}
\end{displaymath}

です. わかりました. $\Delta(A)=ad-bc\ne 0$は, $\mathrm{\bf e}_1,\ \mathrm{\bf e}_2$が平行でない, つまり一次独立で再び基底になっている,ということを意味しているのですね. さらに,このとき定理 3 によって, $f$には逆写像があります. だから $\Delta(A)=ad-bc\ne 0$のときは,逆行列があるのですね. それと,線型写像に対応する行列を定めるとき, 係数の添え字のつけ方を行列の成分の並び方と逆にとった意味もわかりました.

南海  うん. そうすることで, 二次の場合の自然な線型写像と行列の対応の一般化になるのだ.

さて,一般の場合の行列式を定義するために, 二次の行列式の性質をいくつかまとめておこう. 行列 $A=\matrix{a}{b}{c}{d}$を二つの縦ベクトル

\begin{displaymath}
\mathrm{\bf u}_1=\vecarray{a}{c},\
\mathrm{\bf u}_2=\vecarray{b}{d}
\end{displaymath}

に分ける.そして実数 $\Delta(A)=ad-bc$

\begin{displaymath}
\Delta(\mathrm{\bf u}_1,\ \mathrm{\bf u}_2)
\end{displaymath}

と書きあらわす.このとき次のようなことが成り立つ.
  1. $\Delta(\mathrm{\bf u}_1+\mathrm{\bf v}_1,\ \mathrm{\bf u}_2)=
\Delta(\mathrm{\bf u}_1,\ \mathrm{\bf u}_2)
+\Delta(\mathrm{\bf v}_1,\ \mathrm{\bf u}_2)$
  2. $\Delta(k\mathrm{\bf u}_1,\ \mathrm{\bf u}_2)=
k\Delta(\mathrm{\bf u}_1,\ \mathrm{\bf u}_2)$
  3. $\Delta(\mathrm{\bf u}_1,\ \mathrm{\bf u}_2)=
-\Delta(\mathrm{\bf u}_2,\ \mathrm{\bf u}_1)$
また,二つの行列$A,\ B$に関して

\begin{displaymath}
\Delta(AB)=\Delta(A)\Delta(B)
\end{displaymath}

も成り立つ.

耕一  最初の二つは左側のベクトルに関して線型であることを意味しています. 第三の性質から右側の成分に関しても線型です.

$\mathrm{\bf u}_1$ $\mathrm{\bf u}_2$が一次独立でないとき, つまり $\mathrm{\bf u}_2=k\mathrm{\bf u}_1$のとき, 行列式が0になることがここから導かれればいいのですが.

南海  第三の性質から

\begin{displaymath}
\Delta(\mathrm{\bf u}_1,\ \mathrm{\bf u}_1)=
-\Delta(\mathrm{\bf u}_1,\ \mathrm{\bf u}_1)
\end{displaymath}

これから $\Delta(\mathrm{\bf u}_1,\ \mathrm{\bf u}_1)=0$ がわかる.

耕一  だから

\begin{displaymath}
\Delta(\mathrm{\bf u}_1,\ k\mathrm{\bf u}_1)
=k\Delta(\mathrm{\bf u}_1,\ \mathrm{\bf u}_1)
=0
\end{displaymath}

になるのですね.



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