玄関>転換期の論考

給油問題が問いかけること 07/10/09

福田政権が発足した。再開された臨時国会のテーマは、「テロ対策特措法問題」「政治とカネの問題」「年金問題」などなど、いろいろある。なかでも最大の問題はインド洋での給油活動を継続するためのいわゆる「テロ対策新法案」である。

  この問題について民主党の小沢代表は雑誌『世界』(岩波書店)11月号に論文を発表し見解を述べた。このなかで、小沢代表は アフガン戦争やイラク戦争について

  米国は自分自身の孤立主義と過度の自負心が常に、国連はじめ国際社会の調和を乱していることに気づいていない。

  と批判し、ブッシュ政権とは明確に距離を置いた。安倍前首相がブッシュ大統領との会談で約束し,「国際公約」としたインド洋での給油活動については

  国連活動でもない米軍等の活動に対する後方支援」とし、「(憲法が禁じる)集団的自衛権の行使をほぼ無制限に認めない限り、日本が支援できるはずがない。

  と批判した。 そのうえで、

  国連の活動に積極的に参加することは、たとえ結果的に武力の行使を含むものであってもむしろ憲法の理念に合致する。

  とし、

  私が政権を取って外交・安保政策を決定する立場になれば、ISAFへの参加を実現したい。

  と踏み込んだ。アメリカと有志連合のための給油は反対だが、国連の旗があれば、戦場にも出るというのである。これに対して早速、自民党内からの反論が出た。

  産経ニュース
ISAF参加は困難 防衛相「妥協の余地なし」 10月9日12:54

  石破茂>防衛相は9日午前の記者会見で、民主党の小沢一郎代表が主張しているアフガニスタン本土での国際治安支援部隊(ISAF)への参加に関して「妥協の余地はない」と述べ、武力行使との一体化などを禁じた憲法に違反する可能性があるとして参加困難とする政府の立場を重ねて表明した。

同時に石破氏は、小沢氏に対し「仮に(ISAF参加のために、従来政府が禁じてきた集団的自衛権行使を容認するよう)憲法解釈を変える立場なら、それに伴う一連の法体系も全部セットにして示さないと議論として不十分だ」と指摘した。

  給油は憲法違反だがISAFものとアフガニスタンに派兵することは可能だという小沢代表の意見は矛盾している。アメリカも国連も、日本の政策決定からすれば外因にすぎない。派兵は国家の内因で決定されねばならない。することが同じである以上、一方の外因はだめで他方の外因はよいということにはならない。それはそうだ。が、自民党から出たこの見解は、だからこそ派兵できるように改憲を、という方向に民主党を誘いたいという下心が見え透いたものだ。

  では、この問題をわれわれはどのように考えるのか。小沢代表は国連という錦の御旗を掲げるが、一般的にいって、国連は第2次大戦の勝者連合を基礎にし、結局は大国に振りまわされている。国連決議というものもあいまいで多様な解釈ができるものはかりである。アフガニスタンに国際治安支援部隊(ISAF)を派遣しているのは、アメリカがはじめたアフガン戦争の尻ぬぐいでしかない。

  アフガニスタンの人々からすれば、国際治安支援部隊(ISAF)も海上自衛隊が参加してきた米主導の対テロ作戦「不朽の自由」(OEF)も同じもので、帝国アメリカに同盟する諸外国の軍隊だ。一方が良くて一方がだめだということなどあり得ない。

  何より肝心なことは、小沢論文の立場は、国連がどうだ、アメリカがどうだとお墨付きを外に求める立場であり、これは外因論である。そうではなく、今後、日本国が現代という時代に、如何に進んでいくのか、という国家の基本戦略の問題として、この給油問題をとらえなければならないのである。

  帝国アメリカの世界支配は崩壊しつつあり、戦後世界を規定してきた古い秩序も破壊され、その間隙をぬって民族主義が台頭している。だが民族主義がうまくいくことはありえず(安部右翼民族主義政権を見よ!)、世界は深い混迷に陥っている。これが現下の基本情勢である。

  中国もロシアも欧州連合も、アメリカ後を見すえた基本戦略を立て、すべてをそのものとで進めている。他方、国際金融資本もまた、帝国アメリカの衰退を前提にした上での生きるすべを考えている。5年後10年後に帝国アメリカの覇権はもはやうち立ってはいない。皆ここから逆算して現下の戦術を決めている。それに対して、日本国はあいもかわらず日米同盟にすがっており、目下の同盟者として右往左往している。

  戦略なき日本国。このようなことでは、遠からず日本国はユーラシア大陸の東に浮かぶ小国になる。それはそれでよいし、むしろ小国としての身の丈にあった生き方を作っていくことをこそ基本戦力とすべきなのだが、今はまだ小国として生きる基本姿勢もできていない。

  小沢民主党はブッシュ政権を批判することで、アメリカの次に生まれるであろう民主党の大統領との関係を密にしようとしている。が、それは小手先の手練手管でしかない。アメリカ民主党も帝国アメリカの立場に立っており、かつ、その民主党とてアメリカの衰退を止めることはできない。給油問題の本質は帝国アメリアの衰退という現下の基本方向のもとで、国家戦略をどのように打ち立てるのかということなのだ。

  日本は真の独立と平和が求められている。日米軍事同盟を断つ、という基本戦略のもと、アメリカ政府と粘り強く交渉し、米軍基地を返還させていかねばならない。その事実を踏まえ日米安保条約の破棄に進まねばならない。また、日本政府は膨大なアメリカ国債を保持している。これは遠からず二束三文になる。歴代の自民党政権は低金利を続け破綻しつつあるアメリカに資金を供給してきた。またアメリカ国債を買い続けてきた。国民の財産をたたき売る行為である。系統的にアメリカ国債を手放し、国民の資産を守らなければならない。

  小沢代表は先の論文でまた次のようにも言っている。

  貧困を克服し、生活を安定させることがテロとの戦いの最も有効な方法だ。銃剣をもって人を治めることはできない。それが歴史の教訓であり、戦争の果てにたどり着いた人類の知恵だ。

  と。これは正しい。しかしこれはアフガンだけのことではない。日本のことだ。

  外交は内政の反映であり延長である。まず国内的に弱肉強食の拝金主義を克服し、新自由主義がもたらした荒廃から、地方経済を立て直し老人や子供を大切にし、基準となる生活を国家が保障し、落ちついた世の中を築くことである。財源がない? そんなことはない。アメリカ軍のグァム移転に5兆円を出すではないか。財源はあるのだ。自民党売国政府はその金をアメリカに貢いでいるだけなのだ。アメリカからの独立を果たせば、財源はあるのだ。