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■「グアム協定」の中味  09/12/16

沖縄基地移転に関して、アメリカは日本に「グアム協定」順守を要求している。これは、海兵隊の一部グアム移転と普天間基他の辺野古移転を日本側の費用負担で行なうことを、クリントン国務長官と自民党の中曽根前外相が、今年5月に調印したものである。民主党政権の誕生を見越して、自民党政権の崩壊前に日本を縛っておこうと、先手を打つべく慌てて調印したものである。ではその内容はどのようなものか。

この協定の内容を的確に解説した評論が英語で出ている。『The Asia-Pacific Journal:Japan Focus』掲載の「The Battle of Okinawa 2009: Obama vs Hatoyama」である。前半の訳が『マスコミに載らない海外記事』の「オバマ対鳩山: 不平等で、違憲で、違法で、植民地的で、虚偽的な米日協定の素性」にでている。

原文の著者、ガヴァン・マコーマック氏はオーストラリアの歴史学者。「アジア・パシフィック・ジャーナル」の編集委員も務め、主に日本を担当している。専門は、東アジア現代史・日本近現代史。 90年からオーストラリア国立大学太平洋アジア研究学院歴史学科教授。長く神戸大、京都大、立命館大、筑波大等の客員教授を務めた人である。

上記和訳から骨子を抜き書くとつぎの5点である。

  1. 不平等:典型的な不平等協定である。日本側は拘束されるが、米国は議会の承認を必要としない事務的協定にすぎない。日本には辺野古とグアムの新基地建設費用を支払う義務があるが、米側は何人かの海兵隊員を移転させるという、曖昧な約束があるだけ。しかも、協定第8条で米国は、いつでも条項を変更できる権利を留保している。
  2. 違憲:日本国憲法第95条に、「一地方公共団体にのみ適用される特別法は地元の住民投票で決すべきで、国会が制定すべきものではない」とある。グアム協定は、沖縄県に適用される特別法であるのに、住民投票の洗礼を受けていない。
  3. 違法:まともな環境評価を行えば、大規模軍事基地建設と大浦湾の生態系維待が両立しえないことは、明らかである。外国との条約は国内法より優先されるので、グアム協定は、日本の環境保護法違反であるばかりか、法律そのものを犯す。
  4. 植民地的:05−06年のロードマップなどの協定が具体化しないことに業を煮やした米国は、あからさまな命令を出した。07年、ロバート・ゲイツ国防長官は、日本にインド洋給油活動再開、米軍基地への財政負担の維持・増額、防衛予算増、自衛隊海外派遣恒久法制定、を命じた。麻生前首相は必死になってアメリカの要求を実現しようとした。そのうえでこの一方的な「グアム協定」が出てきた。
  5. 虚偽的:この協定は、相互性のレトリックで粉飾された欺瞞協定である。主権国家が自国内に他国の軍事基地を作ってやって経費まで負担するのは日本だけである。アメリカ政府は、グアム移転を「譲歩」と表現しているが、米領土に日本の費用で基地を新設するだけのこと。普天間基地が不便で、危険で、老朽化したので、辺野古にもっと大きくてハイテク完備の基地をつくらせるということなのだ。

ということである。それ以上は上記記事を読んでもらいたい。しかし、なぜこのような的確な評論が日本内部から出てこないのか。自公政権がアメリカの言うこと聞くだけの従属した被植民地的な態度であったことを事実に基づいて明らかにすることは、なにより最初にやらねばならない。日本語で出ているものはあるのだろうか。少なくとも広く知られているとは言いがたい。これについては私を含めてわれわれの世代の責任が大きい。そこでせめてもこれを紹介する次第である。

外務省や防衛省は対米従属のぬるま湯に浸かったまま、世界が多極化に大転換することを見ようとしない。多極化するということは国家の自立が厳しく求められることでもある。しかし、今後も対米従属を続けていると、ドルとアメリカ国債の崩壊の中で、日本も無理心中的な国家破綻に陥る。米国は軍事外交的にも衰退する。中国や東アジアを重視する民主党ではなく、米国に最後まで従属することを主張する人々の方が、日本の国益を損なう主張をしている。一部の右翼が外国人参政権問題などで民主党を非難しているが、実は彼らこそもっとも日本の国益を損っている。

鳩山政権は前政権が駆け込みで調印したこのような協定には束縛されないと宣言すればよいのだ。今は歴史の転換点である。このように尊大に振る舞うアメリカも遠からず落日する。アフガンもイラクも泥沼である。軍事力で平和安定は不可能である。そしてドルは暴落し、数年のうちにアメリカ国家がデフォルト=債務不履行に陥りかねない。民主党は否応なくこのような歴史の転換点にたつ政権である。そのことを自覚し、歴史のすすむ方向で政策を立て実行するしかない。やりきれば歴史に残る政権だし、やりきれずに旧来の勢力と妥協すればそれまでである。それは民主党が決めることである。いずれにせよ歴史のすすむ方向というのは個別政党の思惑よりも大きいものなのだ。