菅直人の辞任による民主党代表選挙であった。民主党代表選挙には今日の日本の矛盾が集中的に現れている。民主党選挙を規定していた真の争点は何か。これについては植草さんが次のように指摘していた。
米官業による日本政治支配の構造維持を目指すのか、それとも日本政治を、米官業の利権複合体に代わって主権者国民が新たに支配してゆく新しい構造に作り替えてゆくのか、その選択が問われるのが、今回の民主党代表選である。
米官業のトライアングルに政治屋と電波産業を合わせた米官業政電の利権複合体は、死に物狂いで、利権複合体が日本政治を支配する構造を堅持しようとしている。そのための具体策は、民主党内の主権者国民勢力を排除することである。
これはその通りである。結果は植草さんの呼びかけとは逆に野田が勝った。衰退過程にあるものほど、その過程で必死に道連れを探す。アメリカは日本の1500兆円と言われる預金を何とか引き出してアメリカ経済に導入しようとしている。それが郵政民営化であった。しかしまだ引き出せていない。旧勢力も必死なのである。その勢力が日本の官僚を動かし、民主党内の動揺層に働きかけ、今回の結果となった。アメリカの時代が終わりつつあるときに、その終わりつつある旧体制の側の人間か、それともこの衰退しつつある帝国からの独立を目指す側の人間か、結局のところ日本政治はこの問題に収斂する。その旧体制の人間が選ばれた。このまま彼が首相になれば、これはアメリカと心中する道である。「増税する前にアメリカ国債を売れ」、アメリカはこの声が日本のなかで大きくなることを恐れた。それを言い出す恐れがなく、TPPにも道を開くものなら誰でもよかったのだ。しかし、野田にはこれらをやりきる力はない。この方向に進めば早晩行きづまるだろう。ますます大蔵官僚に操られて増税路線を走るだろうが、それは植草さんも言うように大不況の道である。
野田は首相になれば「ねじれ解消」を名目に「大連立」政権をつくる。「大連立」政権とはアメリカ従属の大政翼賛政権である。衆議院と参議院ともに三分の二以上の議席を有する「絶対安定政権」が誕生し憲法改正の発議も可能となる。新自由主義が復活、緊縮財政、財政再建名目の大増税、TPP参加。これによって日本人の富は引き続き米国に収奪され続ける。疲弊した地方はますます切り捨てられ、災害被災者と原発事故による被曝被災者は「棄民」状態におかれる。これが旧体制の世の有り様である。
世界はアメリカ後の秩序をまだ見出していない。いやそれどころかますます混迷し混沌とし、多くの犠牲を出し、小さな反乱、大きな反乱が続く。世界経済ではリーマンショック以上の大変動がこの秋から冬に起こるだろう。アメリカ後の世界を担いうる勢力が育つまで、混迷は続く。かつての大政翼賛は破綻した。原発事故をかかえた今回の翼賛体制も、アメリカと心中して破綻する。しかしその過程の犠牲はあまりに大きい。できれば避けるべきだ。それが二回目の知恵というものだ。
現代は経済がすべてを律してきた時代から、そうではない人間原理が律すべき時代への転換期とも、いうことができる。チュニジア、エジプトにはじまるアラブの春も、それに10年ほど先行している南米諸政権とそれを生みだした運動も、これらはみな人間の尊厳が踏みにじられてきたことへの反乱にはじまる。
野田が旧体制の代官として官僚層に動かされてゆくなら、、逆に日本においても人間の原理にもとづく反乱が動きはじめる。東電、天皇家、財務官僚その他官僚組織、独占金融資本、検察司法権力、アメリカ、これが旧体制を形づくる。議会や政府はその下に動いてる衆愚政治の機関である。民衆の側がこれを横取りして使うことなど出来ない。打ち壊すしかない。はるか彼方に日本の春の足音が聞こえる。