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■ 時代のうねり 12/06/11

6月15日が間もなくである.この日は樺美智子さんが亡くなって52年である.樺さんは芦屋に中学のときに来た人だが,芦屋市立山手中学,兵庫県立神戸高校の出で,阪神間に縁の深い人となった.彼女は,アメリカへの従属をいっそう深めることになる安保改定に反対し,国会デモの中で殺された.私は中学1年生であったが,東大生が死んだというニュースは学校で知った.その日のことをいまでも覚えている.晴れた日であった.(書いて家を出てからから思い出したが,天気が晴れていたのは浅沼稲次郎委員長が殺された秋の日のことだ.6.15前後の天気は覚えていない.)

そのときできた六〇年安保体制が、今日までの日本を規定してきた.安保条約と安保体制は日本国憲法よりの上位の法であるという状況が続いてきた.昭和天皇はじめそれをとりまく日本の官僚層,戦争でも解体されなかった財閥系資本がこの体制の中での支配勢力として振る舞ってきた.それが旧体制だ.この中に原子力村があり,ついに東電核惨事に至った.

アメリカはその後,ベトナム戦争,アフガン戦争,イラク戦争と戦争を続けた.そしてそのたびに帝国としての力を失ってきた.ベトナム戦争の後,アメリカはドルと金の兌換を維持できず金本位制を離れた.ドルは金から自由になって,強欲なバクチ資本主義としての新自由主義に進んだ.しかしそれも長くは続かない.リーマンショックで行きづまった.新自由主義に対する闘いは,まず南米の自立を促し,BRICsといわれる新興国が台頭,世界は多極化している.そしてアメリカ本国,欧州各国もまた占拠運動や直接の行動に揺れている.

アメリカは最後の残された勢力圏として環太平洋圏を再編成しようとしている.その拠り所が日本であり,これに反対するものは政治的にも存在を許さない,としてきた.ここに小沢氏への冤罪でっちあげ事件の本質があった.しかしこれを契機におよそ3年前から,小沢は無実だ,検察の横暴を許すなという市民運動が巻き起こり,大きな力をもつようになってきた.先日の小川前法務大臣の退任会見などを見ると,市民運動の力が大臣も動かしていることが分かる.脱原発,反消費税,反TPPを掲げる勢力とその運動はより具体的なものになってゆく.帝国アメリカはこの日本でも行き詰まりはじめた.

愚かな政府と人々の怒り.日本近代でいまほど政府が人々総体の思いからかけはなれているときはない.52年目の6・15前後は胎動から爆発と新生への結節点になるのではないか,それだけの矛盾が蓄積している.矛盾の蓄積は質的転換を求めている.昨日の沖縄県議会選挙で,野党が現状を維持,県政与党は議席を減らし民主党では前回最高得票で当選した者が落ちた</a>.歴史は非情である.この間の民主党中央の沖縄差別は,どんなごまかしをしても,見ぬかれていた.沖縄は独自の言葉と文化をもつ島々よりなる.その未来は,アメリカ軍基地を撤去しその後を整備し,東アジア交易の拠点としての末永い繁栄の礎を築く,この方向に踏み出すことによってしか拓かれない.

フランス国会選挙でも社会党,緑の党のオランド大統領与党が躍進,新自由主義勢力は過半数を割った.アメリカでも,チェイニー回顧録が出て,ようやく9・11はいくつかの点でアメリカが知ったうえで準備したものではなかったのかということが公になりつつある.これについては関心のある人が自分で調べてほしい.

私は個人としてこれから起こることごとを見届け,その中で個人として出来る行動はすると言うことだ.世界は今後ますます混沌としてゆくだろう.人間にとって経済は方法であって目的ではない.経済を自己目的とすることがいかに非人間的か.経団連会長のあの非人間的な顔つきを見よ.人間の原理,人間の尊厳こそが第一とされなければならない.この「人間として」を基調とする時代のうねりは終には旧体制を吹き飛ばすだろう.もっともそれ自体大変な紆余曲折の過程を経なければならない.

 しかしさらにそのうえで,この先どのようにこの世を組織してゆくか.それは開かれた問題であり,多くの試行錯誤を必要とする.それをもとめて歴史は長い長い動乱の時代に入る.しかし考えてみればそれはまた若い人にとって生きがいのある時代でもある.