日本政府がTPP参加を正式に表明した。TPPとは、21世紀初頭、アラブの春にはじまる人民運動の高まりに恐れをなした、国際資本主義による反動攻勢そのものである。
先日来,TPPに関するいくつかの文書を読んだ。パブリックシチズンによるTPPの秘密条項のリークもその一つ。パブリックシチズンはあのラルフ・ネーダーの設立した運動体であり,近年,新自由主義に反対する国際ネットワークの一つの中心組織であり運動である。そこがTPPの秘密条項をリークしたことはよく知られている。
「TPPに反対する人々の運動」のブログの「TPP投資条項に関するリーク文書を米国パブリックシチズンが分析!(その1)」などにも詳しい。また先日の人民新聞1476号にも記事「グローバル企業による世界統治」がある。さらに,そのパブリックシチズンのロリ・ウォラックが,アメリカ独立系メディア「デモクラシー・ナウ」のインタビューに応じ,それが放映された。そのことは知っていたのだが,内容をまだ読んでいなかった。それを要約して,人民新聞1477号に載せてくれている。「グローバル企業の世界支配を許さない」である。それを読んではっとする言葉があった。「TPPは強制力のある世界統治体制に発展する恐れがあります。世界的なオキュパイ運動への、企業側の反撃です」。そうなのだ。これは昔風に言えば,革命運動の高揚に対する資本の側の反撃,反革命の策動なのだ。
一昨年のチュニジアにはじまるアラブの大衆行動。それに続いたギリシアやスペインの世界的な金融資本の収奪への大きな抗議行動。そして,アメリカのウオールストリート占拠運動。福島の核惨事以降の日本の反原発運動。これらはいずれも,拝金主義で弱肉強食の新自由主義資本主義との闘いとしての内容をもっている。新自由主義は資本の論理の必然の帰結であり,そうであるなら新自由主義的な諸政策に反対することは,資本主義そのものを乗り越えようとする意味をもつ。
これに対する資本の側の巻き返し,これがTPPの意味なのだ。どうもこの地球は,一つの結節点に向かってすすんでいるように見える。私は前から,経済の時代から人間の時代への転換,それが始まったのが現代である,と考えてきた。TPPを許すのか,あるいは逆に,いいかげん強欲な資本主義を,もう思い通りにはさせないようにできるのか,当面これが転換の結節点であるように思われる。前に,生活を第一とする政権のもとTPPからの離脱を,ということを書いたことがあるが,実際に日本がTPPから離脱するときは,世界の人々の闘いの結果,新自由主義資本主義が身動きとれずに終わるときだ。日本だけが離脱するという問題ではなさそうだ。
資本主義に反対する。こう言えば,資本の側は言うだろう。「その後どうするのだ。計画経済はあのように失敗した。なんといっても資本主義しかないのだよ。」私は,資本主義を廃して別の経済制度を持ってくるというのは,もう歴史の教訓として,できないと考える。ではどうするのか。まず何より,経済は人間にとって方法であり手段であって、目的ではないのだということを明確にする。人間はパンのみに生きるにあらず。いまこそこの言葉が新しい。そしてその理念をもって資本主義を規制する。小泉や竹中流の規制緩和の逆をいく。人間の生存権,労働権を,天賦の人権としてともに認めあい,保障する。
先日発表されたように,「日本の大企業大手100社 内部留保 99兆円」(東京新聞)である。その利益を生みだしたのは,大企業からその下請けへと続く系列の企業で働く労働者である。正規に雇用されず劣悪な労働条件の下で働いた多くのものの汗の結果である。内部留保の一部を下請け企業やそこに働く労働者に戻せば,それによって購買力もあがり,また地方にも還元されてゆく。それがかえって世のためであり,企業のためでもあるのだが,新自由主義大企業には,自らそれを行う力がない。内部留保を増やし続け,多くの人々の購買力を奪い,結局それで企業の経営も苦しくなる。わかっているのにできない。
資本主義の制度そのものの廃止を目的にするということではなく,金儲けを目的としない,方法としての市場,これをおこなわせる。それが資本主義をのりこえるということだ。かつてはこのように言えば,「それは改良主義だ」と言う批判が出た。というこちらも,論争の中でそう言ったことがある。しかし私が言う「資本主義をのりこえる」はかつての改良主義とは違う。資本主義を使いこなす人間の確立,それを第一とするからだ。方法としておさえうるためには,それだけの人間性がなければならないのだ。かつての計画経済は資本主義の反対物であった。そこからさらに進んで,こなれない言葉で言えば資本主義を「止揚する」,要するに「のりこえる」。
日本政府の参加表明によって,この世界大の,新自由主義とそれに対する人々の闘いは,新しい段階に入った。それは心得ておきたい。そして,TPPが占拠運動への反撃ならば,われわれはより深い人間としての場において,この反撃をはねかえそう。いずれにしてもこの段階は避けられない。歴史の道は曲がりくねっているが,必ず到達すべきところに到達する。強欲な資本主義に明日はない。
資本主義をのりこえる。その根拠と方法について、これから系統的に考え、明らかにしてゆかなければならない。