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■ ヒトラーの選挙戦略と安倍選挙 14/12/15

次の言葉はいずれもヒトラーのものであるが、安倍、あるいは彼を操るものの本音そのものでもある。

民衆がものを考えないということは、支配者にとっては実に幸運なことだ
大衆は小さな嘘より、大きな嘘の犠牲になりやすい
嘘を大声で、充分に時間を費やして語れば、人はそれを信じるようになる
わたしは間違っているが、世間はもっと間違っている(安倍も操られているので、彼自身が間違っていることを自覚しているかどうかはわからない)。

そして今回の選挙は、ヒトラー選挙戦略を地でゆくものであった。1994年に、当時の自民党東京都連広報部長・小粥義雄氏の著書『ヒトラー選挙戦略 』が出版された。ここに高市早苗議員が推薦文を寄せていたことが最近明らかになった。この本は自民党の教科書である。

今回はまさにそのヒトラー選挙戦略にならった選挙であった。ヒトラー選挙戦略では「説得できない有権者は抹殺すべき」となる。それを応用して、説得できない有権者は選挙に行っても仕方がないと思わせることで、棄権させた。これが今回なされた。 ヒトラー選挙戦略通り、虚を突くような総選挙に打って出て、勝利した今回の衆議院選挙は、歴史的には後世1933年のドイツ選挙と比較されるかも知れない。ドイツでは、1932年11月にはパーペン内閣の不信任案が可決、選挙となるが、それでも国会の混乱は続き、1933年1月30日、ヒンデンブルク大統領の承認を得たヒトラーは国家人民党の協力を取り付けついにヒトラー内閣が発足した。そして内閣発足の2日後である2月1日に議会を解散し、国会議員選挙日を3月5日と決定した。2月27日の深夜、ドイツ国会議事堂放火事件を起こす。ヒトラーとゲーリングは「共産主義者蜂起の始まり」と断定し、直ちに共産主義者の逮捕を始めた。翌28日にヒンデンブルク大統領に憲法の基本的人権条項を停止し、共産党員などを法手続に拠らずに逮捕できる大統領緊急令を発令させた。この状況下の1933年3月5日の選挙ではナチスは議席数で45%の288議席を獲得した。そしてそこから、ヒトラーが全権掌握し総統になってファシズム国家の成立からその解体、つまり1945年の4月のヒトラー自殺とドイツ降伏まで、歴史はまっすぐであった。

今回次世代の党が壊滅した。これをもって安倍を支える部分が一つなくなったという意見もあるがそれは違う。ドイツの歴史にならっていえば、次世代の党の壊滅は、いわばヒトラーによる 長いナイフの夜 といわれる突撃隊粛清と同じである。突撃隊は、行動も横暴で世間の受けもよくなかった。しかし実はナチスの本音を語っていた。その幹部の粛清をヒトラーは断行し、長年の戦友であったはずのレームも殺した。ヒトラーがヒンデンブルグやドイツ貴族層に取り入るにあたって、突撃隊は邪魔であった。それでこれを粛清し、政権基盤をより強固にした。次世代の党やその背後にある在特会などの排外主義的な勢力は、ファシスト安倍にとっても、またそれを支える日本会議のような右派組織にとっても、本音では同じであっても、「上品な」旧体制を取り込むのに邪魔で迷惑なものであった。それで今回壊滅させられた。 保守票が次世代の党に割り振られなかったのである。

ではこの安倍政府とは何であるか。資本主義のゆきづまりを反映して、世界には民族排外主義が右翼潮流として大きな勢力を持っている。しかしその中で、国家権力を握るのはただ一つ安倍政府である。21世紀初頭に世界中で大きくなった民族排外主義潮流の中で、ただ一つ政権を握ったその政府。それが安倍政治である。選挙もまた彼らの戦術に過ぎない。根本は、彼らの民族排外主義かつ国際金融資本への売国政策を推し進めることである。これから本音を表に出してその特異な政治をおこなおうとするだろう。しかしではその安倍政治ではこの社会はどのようになるのか。日本もアメリカも、円やドルを印刷して市場にまわす、いわゆる金融緩和を続けてきたが、いよいよそれも困難になり、株価は下落をはじめている。円を刷るしかなくなるが、それは亀井氏が指摘するように、国民の金融資産を国際金融同盟に差し出すことである。そして、それも尽きたとき、リーマンショック以上の大きな恐慌が起こる。時期はわからないが、そこに至ることは不可避である。安倍内閣の経済政策は、失敗国家への道ということもまちがいない。経済が行き詰まるほど、右翼政治を表に出すだろう。憲法改定を前面に出してくる。そして沖縄と福島を捨て石にして、辺野古新基地建設と原発再稼働をすすめる。

だがそれでも、ヒトラーの1945年、それが安倍の場合、何時どのような形であるかは未定であるが、そのときが来ることもまた不可避である。ファシズムは必ず崩壊する。問題はその崩壊を受けとめる主体が反ファシズムの闘いのなかで育つか、ということである。かつてヒトラーの時代に白バラ抵抗運動があった。学生の兄妹がビラをまき、それに協力した大学教員ともども処刑された。そのことは誰にも知らされなかった。ドイツの国民は1945年の敗戦のあとになって、そのような青年と知識人がいたことを知る。それはヒトラーに引きずられたわが身を省みることになり、そしてそれはまた戦後のドイツ再建を励ますものでもあった。そのような歴史を経て、ようやくに今日のドイツの脱原発がある。われわれの置かれた状況はかつてのドイツと同じではない。沖縄小選挙区では自民党が全敗した。やれば出来る。安倍NOを呼びかける若者の運動もある。排外主義・差別主義に反対する運動もある。それを踏まえて、ドイツの歴史に学びながら、そしてまたわれわれにとっては琉球の困難な歴史に学びながら、少し大きな時間で、今後の流れを読んでみる。

安倍が進めるアベノミクスで失敗国家への道を辿る。貧富の格差は広がり、国民の金融資産は国際金融同盟に売り払われ、賃金も年金もまったく生活できない段階になり、そして信用制度の破綻が広がる。自衛隊がアメリカの権益を守るための戦闘部隊として海外派兵される。それらの過程での反ファシズムの抵抗運動、これが肝心である。その行きつく先、国破れて山河なしのところにおいて、抵抗者の良心が人々に共有される。人々の生活再建の道が、原子力村・安保村=旧体制の解体であるとようやくに広く認識される。そのとき逆に帝国アメリカは、旧体制の背後にあってこれを支える。旧体制が国際金融同盟のいわば悪代官であることが認識される。旧体制解体と一体のものとしての対米独立闘争。帝国アメリカの金融崩壊。覇権国家アメリカの凋落。その果てに国際金融同盟の崩壊。日本列島弧、琉球列島弧の人々は一揆に立ちあがり、悪代官を打ち破り、そして帝国アメリカから独立する。そのうえに原発廃炉と日本再生の長い困難な道に踏み出す。

そのときまでこちらの命があるのかどうかはわからない。というより、これは世代にわたることである。しかもこの過程で新たな核惨事が起こる可能性がある。東海地震や南海地震は不可避であり、そのとき、たとえ再稼働していなくても、廃棄物の処理が手つかずのままであれば、浜岡原発や川内原発、伊方原発にある核燃料がどのようになるのか。また、経済のゆきづまりの中で目を外にそらそうと中国と紛争を起こすかも知れない。これからこそ、われわれもまた歴史に問われる。日本近代最大の転換が、歴史の要求である。前にも書いたが、一人一人が、人間として譲れないことは一歩も譲らず、理念をもって生きる。数や量ではない。質である。選挙を終えて再出発! だ。われわれもまた本当の歴史に直面している。