玄関>転換期の論考

■ イギリスのEU離脱 16/06/24

イギリスの国民投票でEU離脱への投票が過半数を超えた.今後,EUと現イギリス政府との間でどのようなやりとりになるかはわからないが,欧州の統合という方向が崩れることはまちがいない.また,スコットランドはもういちどイギリスからの独立をすすめ,スコットランドとしてEUに残ろうとするだろう.北アイルランドでもイギリスからの独立を求める声がこれまで以上に深まるだろう.こうして大英帝国は解体してゆく.

EUとはドイツの独占的な金融資本が,フランスなどの資本と組んで欧州を自らの小帝国として支配し,資本主義を少しでも延命しようとするものである.今のEUは実質的に,独仏英伊などの有力諸国の首脳の間の非公式協議で,重要政策が正式提案の前に決まってしまう非民主体制である.あるブログで教えられたのだが,EUの前身であるEC(欧州共同体)について堀田善衛はその「幹部たちのほとんどは旧貴族です。つまり、旧貴族の子弟たちが、今ではECをすべて取り仕切っているということになります。」(堀田善衛著『めぐりあいし人びと』集英社、1993年)と書いているそうだ.このEUの支配層をさらに産軍複合体が裏であやつる.このようなEUに,イギリス国民が怒ったというのが,ことの半面である.

もう一つの面は,いわゆる難民問題とそれを受け入れる余裕がなくなっているという経済の現実である.昨年2015年になって,西洋世界の難民問題が一気に表に現れた.個別の政府の対応という問題をひとまず置いて,難民問題の根本の原因を考えると,それは,800年におよぶ西洋の非西洋に対する収奪の結果として社会的な基盤が崩れた地域からの,生きるための大移動であることがわかる.奴隷貿易とその後の植民地支配によってアフリカ各地の社会基盤は大きく崩れ,それは今も続いている.また,第1次世界大戦後,欧州の支配者は中近東に各地域の複雑な民族の分布を無視して直線的な国境を引いた.分断支配が彼らの基本である.いずれもが,欧州世界の利益のためになされてきたが,その結果として,今日,難民問題が広がっている.

かつて,紀元300年の頃,ゲルマン民族の大移動があった.北方のゲルマン民族が地中海世界に進出したのである.そしてそれはさまざまの経過をたどったが,ローマ帝国の崩壊と古代世界の解体をもたらした.<span class="deco" style="font-weight:bold;">難民の大移動は現代のゲルマン民族大移動である.</span>この大移動は,西洋資本主義世界の何らかの解体をもたらさざるを得ない.
このように,イギリスのEU離脱の背景には,資本主義の終焉という歴史の避けがたい趨勢がある.資本主義とは中心部が周辺部を収奪しながら拡大するシステムそのものであり,拡大・成長は資本主義の存在条件である.ところが地球は有限である.もはや現実に拡大する余地はない.したがって,拡大のシステムとしての資本主義は終焉する.

このとき,まず起こるのは民族主義,排外主義の台頭なのである.拡大し得ない以上,ものを分けあい循環させてゆくしかないのであるが,その前にまず取り合いが起こる.それが現在の民族主義,排外主義である.イギリスの今回の決定もこの排外主義が基調にある.アメリカではそれがトランプ人気になって現れている.イギリスの離脱派のある指導者と,アメリカ大統領候補トランプとなんとよく似ていることか.

移民反対の排外主義と,強欲なドイツなどの資本に利用される現在のEUへの怒り,この両面があわさって今回の離脱決定となった.

前にも書いたが,今日,唯一拡大しうる分野は兵器産業である.資本主義は戦争で儲けるしかなく,紛争をあおりファシズムに走る.現代世界の紛争はこのファシズムが作りだしたものである.現代資本主義の中核はアメリカ産軍複合体である.彼らは,東アジアにも緊張を生みだし,日本の防衛大綱も改定させた.尖閣問題もこの産軍複合体の手の上でのことである.しかしこの紛争をあおる方法は,さらなる難民を生みだし,西洋世界の解体を加速させる.

客観的な事実として,またどれだけの時間がかかるかは別にして,帝国アメリカは終焉に近づきつつある.今回のイギリスのEU離脱は,実は帝国アメリカ崩壊の現実過程の序章となるだろう.
日本の安倍政府は,一見民族主義の装いを取りながら,その実,国民の金融資産を株式市場などにつぎ込み,そこを通して産軍複合体に売り渡し,政治的にも彼らのおこす紛争を小間使い的に引きうけようとする売国政府である.参院選がどのようになるかはわからないが,アベノミクスはIMFからさえ,その破綻を指摘されている.IMFアベノミクスの目標「達成困難」…報告書日本は「アベノミクス」を放棄するべきだ―IMF].日本ではほとんど報道されないが,これが事実であり,この経済政策の破綻が広まれば広まるほど,逆に改憲を推し進めて権力を維持しようとするだろう.しかし,このままでは,日本自体がアメリカに先立って崩れてゆく.

歴史は大きく動いている.われわれの側からする歴史の趨勢は,経済第一から人間第一への転換である.民族主義や排外主義を乗りこえ,ものを分けあい循環させながら万物が共生する世を生みだしてゆく.破壊のなかから建設されるべきものは,固有性と普遍性が統一された人間の生きる場である.人間原理にもとづく新しい世が,崩壊する帝国のもたらす混乱と混迷からの活路である.