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■ トランプ勝利と子安観音 16/11/10

次期アメリカ大統領にトランプが選ばれた.これは後世新しい歴史の段階のはじまりを画する出来事として位置づけられるだろう.そういう意味をもっていると考えられる.この20年,とりわけいわゆる冷戦体制の終わり以降,新自由集主義が大手を振って資本の論理をあらゆるところに浸透させ,また貫いてきた.これによって,かつてはアメリカの中間層を形成してきた白人労働者が,おしなべて格差の中で貧困化していった.医療体制や社会保障もまた崩壊し,彼らが生きるために,トランプに投票した.

クリントンは,この新自由主義の候補であり,軍需産業に後押しされ,この先,朝鮮と紛争を引きおこし,また日本と中国との間もいっそう割こうとしていた.アメリカの1%の利益を代表する候補であることを,白人労働者は見ぬき,アメリカ上層部でも,ベトナム戦争以降,戦争のたびに国力を落としてきたことに対する自覚をもつものが一定の力をもち,その結果選挙そのものがそれほど操作されなかったことも,トランプ勝利の一因である.

昨年から,西洋世界では難民問題が表に現れた.これは,八百年におよぶ西洋の非西洋に対する収奪の結果として社会的な基盤が崩れた地域からの,生きるための大移動であった.かつてのゲルマン民族大移動は,紆余曲折いろいろあったが,最終的にはローマ帝国を解体した.これと同様,難民問題は今日の西洋世界を大きく揺り動かしている.今回,このことがヨーロッパだけではなく,アメリカにおいても同じく旧世界を動かす方向で働いた.それが,このままではますますメキシコなどからの労働者に仕事を奪われるということで,白人労働者がこれまでのやり方を拒否するという形となり,トランプの支持に流れた.メキシコなどからの移住自体,新自由主義の支配の結果,そこでの生活が成り立たないが故の移住であり,難民問題と共通の内容をもっている.今の段階では,難民問題や移住労働者の問題が,新自由主義のもと格差の底辺に押しやられた人々の排外主義となって現れている.イギリスのEU離脱も同じ文脈であった.

]しかし,今回トランプに投票した白人労働者は,いずれそれに裏切られるかも知れない.日本でも,かつて規制撤廃で一番不利益をうける層が,小泉改革に惑わされて彼に投票した.そしてますます格差は大きくなった.同じことが起こるかも知れない.そしてそこからサンダースのような人が再び表に出てくるかも知れない.新しい歴史の段階は,いずれにせよ紆余曲折と大きな混乱と動乱が避けがたい.トランプの政府がどのような布陣をひくか,それによって見えてくる.いずれにしても,今,人類が直面する最大の課題は,崩壊してゆく今日のローマ帝国=アメリカをいかに軟着陸させるのかというアメリカ問題である.その意味でいえば,クリントンではなくトランプになったことは一歩だけ,歴史の前進である.

日本は,2018年が明治維新から150年である.資本主義になって150年目の今日,安倍政権は,政策はクリントン式新自由主義であり,選挙などの政権維持方法はトランプ式の扇動である.閣僚の人間性においても,まったく酷いことになっている.トランプに突き放されても突き放されてもすがりつくような対米従属を,いっそう深めるのではないか.逆にそのことで,日本においても新しい政治主体が,この数年の経験をふまえて形成されてゆくかも知れない.一人一人が問われている.

今日は京都で授業.少し早く家を出てその前に京大北部構内からすぐ近くの子安観音に参ってきた.先日,地元のケーブルテレビでBSプレミアムを見ていたら,京都のことを放映していて,この北白川の子安観音のことをやっていた.このあたりは昔京都で下宿していた頃,毎日歩いていたところであるが,この観音さんは覚えていなかった.当然のように横を通っていたのかも知れない.それでぜひ行きたくなった次第である.吉田山の北側,北白川方面から今出川通りに出るところ,東山通り銀閣寺前交差点と百万遍交差点の中間,なんとも懐かしいところである.これにお参りして.それから京阪電車の出町柳駅まで歩き,七条駅まで行って,そこからまた歩いて仕事もしてきた.世界が大きく動くときこそ,観音様や地蔵さんを大切にする心を失いたくない.そんなことを考えた.