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■ 玉城勝利と『矛盾論』 18/10/05

 沖縄県知事選挙で玉城デニーさんが大差で勝った。2018年9月30日夜に当選確実が出て、日本の歴史もようやく一つ前に進んだ。辺野古基地建設に反対するか否か、これが選挙の争点であった。佐喜眞陣営はこの争点を隠した。隠したこと自体が、争点であったことを意味している。

 辺野古の基地はもう20年前に計画が出されたものであるが、それはアメリカの要請によって計画されたものではない。米軍が、沖縄を出てグアムなどアメリカ領内の基地に移る動きがあるときに、日本の側が、アメリカ軍を沖縄に引きとどめるために計画したものである。普天間基地の負担軽減は口実に過ぎない。普天間基地は危険極まりない基地であるが、日本政府はこの問題を真剣に考えてはいない。

 日本の支配層、その中枢をなす外務官僚などの官僚組織は、在日アメリカ軍を後ろ盾としている。在日アメリカ軍とそれを通じたアメリカ軍産への隷属、これが日本支配層の支配権力の土台である。これが、戦後の日本の政治体制なのだ。そしてこの戦後体制は、その成立のときから沖縄をアメリカに差し出し、基地そのもを含め見せたくない不都合なことごとを沖縄に押しつけ、外から見えないようにして来た。その行きついた果てが今日のアベ政治である。辺野古基地建設が争点ということは、対米従属することで支配を維持しようとする戦後の日本政治のあり方に反対するか否かということであり、このような支配層と沖縄の人々との矛盾が、現在の主要な矛盾であった。

 このときいつも思い起こすのは毛沢東の『矛盾論』である。毛沢東は一九三七年八月延安でこれを講演した。何が主要な矛盾であり、何が副次的な矛盾であるのかを見極め闘わねばならない。主要な矛盾は、歴史の発展段階において転換してゆく。これを説いた。当時、第一次国共合作の破綻後、共産党は国民党とまさに死闘を繰り広げていた。そこに、日本軍国主義の侵略が拡り、盧溝橋事件が起こる。共産党は、中国人民と日本軍国主義との矛盾が主要な矛盾であるとの立場に立ち、再びの国共合作を呼びかけ、紆余曲折を経て成立。ついに日本にうち勝つ。

 故翁長前知事が、そして玉城候補が「イデオロギーよりもアイデンティティを」ということを基調として沖縄の未来を切り開こうと訴えてきたのは、まさにこの主要な矛盾を軸にまとまって闘おうということである。日米安保条約そのものをどうするのかということは、今回の選挙では主要な矛盾ではなかった。今回の勝利は、この問題で分裂することなく闘ったがゆえにもたらされたる。

 この玉城さんの勝利が日本の支配層とアベ政治に与えた打撃は大きい。そして、ほんとうに大きな力をアベ政治と闘うものに与えた。やれば出来るということだ。そしてまた、アベ政治と闘うものにとって、大きな教訓を得た。それは、最も主要な問題を軸にして、副次的な矛盾をひとまず横に置いて、分断をのりこえ団結して闘えということだ。アベ政治のこの五年間、そしてそれに先立つ規制緩和と格差拡大の小泉政権以来、いわゆる新自由主義政治が行われてきたが、これに反対する側はほんとうにバラバラであった。そのなかで、沖縄では、前回の知事選での翁長候補、そそて今回の知事選挙でも統一候補を生み出し、アベ政治に対抗する人々が一つになって闘った。

 だが日本の地方政治も含めた全体としていえば、共産党と組むのかどうか、日米安保に対してどういう立場に立つのか、などを分岐点にして、バラバラである。地方政治では立憲民主党が自民党と組み共産党候補と争うなどということが、あちこちで起こっている。今の日本では、立憲主義=法治主義の政治か、アベ政治か、この矛盾が主要矛盾である。一部の旧民主党系勢力と共産党の矛盾は副次的である。アベ政治に反対し立憲主義を求めるものは、副次矛盾をひとまず横に置いて、分断をのりこえ団結しなければならない。地方政治においても、この方向で統一されねばならない。

 日本は、世界的にも一番最初にバブルの崩壊と資本主義の行きづまりに直面し、そして1995年の阪神淡路の大震災から、2011年の東北大地震と東電核惨事を経て、アベ政治に行きついてきた。これは前にも言ってきたが、アベ政治は、日本の近代の行きついた果ててであり、同時に資本主義の行きづまりが世界大になったという時代条件のもとで、東北地震をショックドクトリンとして現れてきたものである。日本の個別問題と世界大の情勢は深く関係している。

 これからどのように進むのか。日本近代の教育は、人に根拠を問うことを教えず、言われたことをそのまま受け入れるようにしむけてきた。そして、この近代そのものの行きづまりの中で、これに対して、自らの現実をふまえて世を問いなおす運動が、いま拡がっている。

 大企業のためのアベ政治か、多くの国民のための立憲主義政治か、これが今日の主要矛盾である。これは、一人一人に即せば、言われたことをそのまま受け入れるのか、根拠を問い続け能動的に立ち向かうのかということに対応している。いずれが大勢となるのか、今はその分岐点にある。

 アベ政治を倒す道は、一人一人がなし得ることをすることによってしか、拓かれない。アベ政治を終わらせたなら、対米関係をどうするのかが、次の主要な矛盾となる。そこまでを見すえて、まずアベ政治打倒である。沖縄県と、日本政府、つまりアベ政治との、沖縄の現実をもとにした闘いはこれからである。沖縄の闘いに学び、われわれもまたそれぞれの場でできることをなしながら、前に進ねばならない。