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うち

うち(内)[uti]

◯「う[u]」は、糧、食糧の意味である。

◇『日本書記』「保食神、此云宇気母知能加徴(うけもちのかみ)」とある「うけ」の「う」。 ◇『古事記』上「天の石屋戸に気(ウケ)伏せて踏みとどろこし」にある「うけ」は「穀物を入れておく入れもの。祭儀ではこれを伏せてたたき、霊をよみがえらせる」ものを表す。 このように、「う」はさずかった余剰物、保存される生産物、つまり一定の集団が残しておく食物を表す。 「ち[ti]」は「作る」の「つ[tu]」から転じた。「うち[uti]」の古形は「うつ[utu]」である。

「うち」は協同して働き、保存した食物を共有する集団、つまりは協同体内部を意味する。「うち(内)」は「そと(外)」からは見えないものとして意識される。外から見えない「内」から、外に出て見えるようになるのが「出(い)でる」である。

※「うち」の意識は「言わないでもわかる世界」とされ、そこでは言挙げし、ことを割ることが「断る」こととされる世界であった。農耕の協働体が崩れつつあるなかで、内で言挙げする、あるいは言挙げして内を強める、という文化が生まれなければ日本語は衰退する。この定義集は、内の言挙げを支える言葉のための基礎作業である。

※タミル語<utu>起源。

◆いのちの働きがおよび、心がとどいているところ。心をあわせて働くもののあいだ。

※農耕とともにもたらされた言葉であるが、混成語として熟成した。

▼(空間的)空間的、平面的に、ある範囲や区画、限界などの中。囲みおおわれた内部。奥まったところ。外から見えない部分。 ◇『日本書紀』斉明四年一〇月・歌謡「おもいろき今城(いまき)の禹知(ウチ)は」 ◇『万葉集』三九五七「佐保の宇知は、忘らゆましじ」 ◇『古事記』上「是に出でむ所を知らざる間に鼠来て云ひけらく、内(うち)は富良富良(ほらほら)外は須夫須夫(すぶすぶ)」 ◇『宇津保』蔵開下「かかるほどに、うちよりかはらけ出ださせ給ふとて」

▼(時間的)一定時間の間。 ▽一続きの時間。また、それに含まれるある時。 ◇『万葉集』四一七四、大伴家持「春の裏(うち)の楽しきを終えは梅の花手折りきつつ遊ぶにあるべし」 ◇『古今集』一「年の内に春は来にけり」

▽「うつ(現)」に同じ。現世という(限られた)時間。生きている間。現世。 ◇『万葉集』八九七、山上憶良「たまきはる内(うち)の限りは平らけく安くあらむを」

▽(多く用言の連体形を受け、「に」を伴って形式名詞のように用いる)ある状態、動作が継続している間に別のことが起こるのをいうのに用いる。 ◇『土佐日記』「くやしがるうちに」 ◇そんなことをしているうちに日が暮れる。

▼(量的に)限度の範囲。 ▽程度、分量などで、ある限度を越えていないこと。以下。以内。 ◇『宇津保物語』吹上上「年廿歳よりうちの人」

▽複数のものの中。ある種類に属する人。また、ものごと。 ◇「職員のうちこれができるのは数人しかいない」

▽多く「に」を伴って形式名詞として用いる。…という条件の範囲内にあるの意味から)

○その中でも特に。そればかりか。その上に。 ◇『落窪物語』一「さやうの事かけてもおぼしたたぬうちに」

○とはいうものの。にもかかわらず。 ◇『徒然草』一六六「下より消ゆること、雪のごとくなるうちに」

▽物事の経過する間の状況、環境などを示すのに用いる。終始そのようなさまであるあいだ。 ◇「暗黙のうちに了解しあった」

▼(こもっていて)見えないところ。 ▽私的世界 ◇『源氏物語』関屋「親しき家びとのうちには数へ給ひけり」

▽宮中。内裏。おおうち。 ◇『伊勢物語』六「太郎国経の大納言、まだ下らふにて内へまゐり給ふに」

▽天皇。みかど。 ◇『延喜十三年亭子院歌合』「左はうちの御歌なりけり」

▽表立たない、個人的なものごとをいう語。私的な事柄。身のまわり。 ◇『保元物語』下「八十一女御ありて、内、君を助け奉る」

▽家、家の建物、家庭。比喩的に、自分の属する所。 ◇『虎寛本狂言・右近左近』「こなたも内じゃと思召ては、又例の我儘が出ませう程に」 ◇「うちの社長」「うちのチーム」「身内」 ◇「内弁慶」 ◇『安愚樂鍋』仮名垣魯文「ここのうちの肉もずいぶんいいけれども」 ◇『家族会議』横光利一「上手にご機嫌とらんと、うちの大將に叱られますよって」 ◇『俳諧師』高浜虚子「御免下さいな、姉さんおうち?」

▽同じ家の中に住む配偶者。妻。内儀。家内。多く、妻自身が用いる。自分の夫。 ◇「うちの人」「うちの」 ◇『武田勝頼夫人願文署名』天正一〇年二月一九日「みなもとのかつ頼うち」 ◇『滑稽本浮世風呂』二「わたしらか内なんぞは出好での」 ◇『浮雲』二葉亭四迷「お前さんのお嫁の事に就いちゃあ些(ち)いと良人(うち)でも考えている事があるんだから」 ◇『多情多恨』尾崎紅葉「拙夫(うち)では大相善く肖(に)てゐる、それを貴方は全然(まるで)肖てゐないと仰有るが」