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かげ

かげ(影、陰)[kage]

◯うつりかわる光が生みだす明るいところと暗いとこと。

※語根[kag-]は「かぎろい(陽炎)」、「かがよう(輝よう)」、「かがみ(鏡)」の語根と同源。「かかやく(輝く)」とは別。

◆刻々変化する光が生みだす明暗、それによって生じる様々の状態。光が生みだす輝かしいもの。また光を遮ることによる影。光があたらず暗いところ。

※「てる(照る)」は光が当たり続けること。また「ひかる(光る)」は他よりも際だって明るくなる力そのもの。

▼ひかり。「影」をあてる。 ▽日、月、星や、ともし火、電灯などの光。 ◇『万葉集』四四六九「渡る日の加気(カゲ)に競(きほ)ひて尋ねてな清きその道(仏道)またも遇はむため」 ◇『源氏物語』夕顔「御灯明のかげほのかに透きて見ゆ」

▽光となる存在。威光をもつ人の姿。 ◇『古今集』一〇九五「つくばねのこのもかのもにかげ(陰)はあれど君がみかげにます影はなし」

▽光が当たって見えるものや人の姿。目に映ずる実際の物の姿や形。 ◇『万葉集』四〇五四「ほととぎすこよ鳴き渡れ灯火を月夜にそなへそのかげも見む」 ◇『万葉集』四一八一「さ夜ふけて暁月(あかときづき)に影見えて鳴くほととぎす」

▽鏡や水の面などに物の形や色が映って見えるもの。 ◇『万葉集』四〇五四「池水に可気(カゲ)さへ見えて咲きにほふ馬酔木(あしび)の花を」

▽心に思い浮かべた、目の前にいない人の姿。おもかげ。 ◇『万葉集』一四九「ひとはよし思い止まんと玉鬘影に見えつつ忘らえぬかも」 ◇『源氏物語』桐壺「母みやす所も、かげだにおぼえ給はぬを」

▽亡き人の霊。魂。 ◇『源氏物語』若菜上「亡き親のおもてを伏せ、かげをはづかしむるたぐひ」

▼ものが光をさえぎった結果、光と反対側にできる、その物体の黒い形。投影。影法師。 「蔭」をあてることもある。 ◇『万葉集』一二五「橘の蔭ふむ路の八ちまたに物をそ思ふ妹に逢わずて」

▽それとなくそれにいつも付き添っているもの。 ◇『古今集』六一九「よるべなみ身をこそ遠くへだてつれ心は君が影となりにき」

▽やせ細った姿。やつれた姿。 ◇『古今集』五二八「恋すればわが身は影と成りにけりさりとて人にそわぬものゆゑ」

▽実体がなくて薄くぼんやりと見えるもの。 ◇『竹取物語』「このかぐや姫、きとかげになりぬ」

▼光、風、雨、人の視線などの当たらないところ。暗いところ。 ▽物にさえぎられて光線または風雨などの当たらないところ。 ◇「山の陰」「家の陰」 ◇『古事記』下・歌謡「金門(かなと)加宜(カゲ)」

▽物のうしろ。後方。 ◇「袖の陰」「屏風の陰」 ◇『源氏物語』夕霧「ゐざりいる人のかげにつきて入り給ひぬ」

▽人目につかない、隠れた場所。表立たない所。また、その人の居合わせない場所。 ◇「陰でうわさする」 ◇『更級日記』「父(てて)は〈略〉かげに隠れたらむやうにてゐたるを見るも、頼もしげなく」

▽人やもの恩恵。また、助力したり守ってくれたりする人。めぐみ。 ◇『源氏物語』若菜上「さるべき人に立ちおくれて、頼むかげどもに別れぬる後」

▽物事の裏面。 ◇「犯罪のかげに女あり」

▽(翳)表にはっきりとは現われないが、何か暗さを感じさせるような、人の性格や雰囲気。

◇「秘密のかげ」「かげのある人」

【熟語】(影) 「かげが薄(うす)い」目立たない存在になっている。また、落ちぶれかけている。落ち目である。何となく元気がなく、衰えた様子である。死神にとりつかれたように見える。 「かげが射(さ)す」(「かげ」は光の意)光が照らす。(「かげ」は姿の意)「…の影がさす」の形でその人の姿、影法師などがちらっと現われる。光が物にさえぎられて、その物の黒い形ができる。物事に、あるかすかなしるしが現われる。多く、不安、不吉の徴候にいう。「死(老い)の影がさす」 「かげ靡(なび)く星(ほし)」(太政大臣、左大臣、右大臣を三台星に比し、これに転ずべき官であるところから)「ないだいじん(内大臣)」の異称。 「かげの形に」物に必ず影が付き添うように、常に伴って離れない様子。 「かげの如(ごと)く」やせ細ったさま。やつれた様子。 ◇『大和物語』一六八「その人にもあらず、かげのごとくになりて」  姿が薄くぼんやりとしているさま。 ◇『平家物語』七「影の如くなるもの御前に参じて」 常にそばを離れることがないさま。 ◇『曾我物語』四「五郎も、かげのごとく、寸もはなれずして」 「かげの内閣(ないかく)」(英The Shadow Cabinetの訳語)イギリス野党の最高指導部のこと。一五人の議員で構成されており、各員の担当項目が決まっていて、政権を握れば直ちに内閣となりうる。 「かげの病(やまい・びょう)」=かげ(影)の煩(わずらい) 「かげの煩(わずらい)」熱病の一種。高熱を発した病人の姿が二つに見え、どちらが本体でどちらが影かわからなくなるという。影の病。影。かげやまい。離魂病。 「かげ踏(ふ)むばかり」影を踏みそうなほど。きわめて近いことのたとえ。◇『後撰和歌集』六八三「立寄らば影ふむ許(ばかり)近けれど」 「かげを致(いた)す」かげ(陰)をする 「かげを畏(おそ)れ迹(あと)を悪(にく)む」(自分の影と足跡から逃れようと走り続けて、遂に死んだという「荘子‐漁父」に見える故事から)自分の影におびえる。自分の心の中で、勝手に苦悩をつくりあげ、心を平静にできないことのたとえ。 「かげを落(お)とす」光を投げかける。光がさしている。◇「夕日が影を落としていた」光を受けた物が、その影法師を他の物の上に現わす。料理で、汁物などに醤油を少しさす。 「かげを隠(かく)す」身をひそめる。姿を隠す。 「かげを潜(ひそ)める」表立った所から姿を隠す。また、比喩的に、物事が表面から消える。「彼はすっかり影をひそめている」「思慮も分別も影をひそめてしまった」

【熟語】(陰、蔭) 「かげで糸(いと)を引(ひ)く」操り人形つかいが陰で糸を操って人形を動かすように、人目につかない裏面にいて、物事を支配したり、他人を行動させたりする。 「かげで舌を出す」その人のいない所で悪口を言ったり、笑ったりする。 「かげに居て枝を折る」恩を仇(あだ)で返すことのたとえ。 「かげに隠(かく)す」かばって世話をする。庇護する。 ◇『源氏物語』若菜上「かたがたにつけて御影にかくし給へる人」 「かげになり日向(ひなた)になり」人に知られない面においても、表立った面においても。絶えずかばい守るような場合に用いることが多い。陰(いん)に陽に。 「かげの朽木(くちき)」物陰にある朽木。人に認められないまま老いて朽ち果てるたとえ。 「かげの声(こえ)」必要な人以外には聞こえないように知らせる声。ラジオ、テレビのクイズ番組などで、解答者にはわからないように、視聴者にだけ答を知らせる声。 「かげの人(ひと)」表面に出ないでいる人、また裏であやつる実力者などをいう。 「かげの舞(まい)」見る人のいない所で舞うこと。骨折りがいのないことのたとえ。 「かげの灸(やいと)」紙にその人の姿を描いたり、その人の身長を記したりして、これに灸をすえて病気を直すこと。かげきゅう。 「かげへ(に)回(まわ)る」その人に知られないような所に行って裏からこっそりと物事をさぐったり、あやつったりすることにいう場合が多い。表立った立場から、目立たない立場に移る。