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さす

さす(射す、差す、指す、刺す、挿す、注す、点す、鎖す、閉す、止す)

◯ものをまっすぐにすすませる。ものがまっすぐにすすむ。

◆先のとがったものを、一つの目標に向けて、突き進める。もののいのちが発揮され、一つの方向に向かって突き進んでゆく。

※タミル語<catu>由来。

▼空間的にまっすぐに伸びる動きを示す。 ▽指や物でその方を示すために、その方向へ指や物を伸ばす。 ◇「先生に指される」 ◇「差しつ差されつ」 ◇『万葉集』四二二〇「太夫(ますらお)の引のまにまに しな離(ざか)る 越路をさして 延ぶ鳥の 別れにしより」 ◇『今昔物語』一六・一七「彼(かし)こに有りと倉の方に指を差(さし)ぬ」

▽碁で石を置く。将棋などで駒を動かす。 ◇『源氏物語』空蝉「碁打ち果てて、けちさすわたり、心とげに見えて」

▽かさなどを持って、それで身をおおう。かざす。 ◇「傘をさす」 ◇『竹取物語』「羅蓋さしたり」

▽指名する。ある役目に定めて派遣する。 ◇『源氏物語』藤裏葉「わざと使さされたりけるを、はやうものし給へ」

▽目あてとしてその方へ向ける。目ざす。 ◇『土佐日記』「大津より浦戸をさしてこぎいづ」

▼棒状のものをまっすぐに突き込む。 ▽虫が刺す。 ◇『徒然草』「くちばみにさされたる人、かの草を揉みて付けぬれば、即ち癒ゆとなん」 ◇「棹さす」 ◇「瓶に花をさす」

▼ものを設置したり、こしらえたりする。 ◇『万葉集』四〇一三「二上の彼面此面(をてもこのも)に網さして吾が待つ鷹を夢に告げつも」

▽庵(いおり)、またはその一部を造る。 ◇『方丈記』「東に三尺余のひさしをさして」

▽帯、紐などを結ぶ。 ◇『曾我物語』五「首に綱をさし、土の籠にぞこめられける」

▼異質なものを加える。 ▽入れ混ぜる。 ◇『万葉集』三一〇一「紫は灰指すものそ 海石榴市(つばいち)の」

▽火をともす。 ◇『竹取物語』「まづ紙燭(しそく)さして来。この貝、顔見ん」

▼他動詞にそれぞれ対応する。

▽光が照ってはいり込む。また、光が照って物に当たる。 ◇「前途に光明が射す」 ◇『枕草子』二四〇「日いとうららかにさしたる田舎の館など」

▽草木が伸びる。 ◇『源氏物語』若菜上「若葉さす野辺の小松をひきつれて」

▽勢いよく立ちのぼる。潮がみちてくる。熱、色などが表に出てくる。 ◇『海道記』「塩のさす時は上さまに水の流るればさか川と云」 ◇『荘子抄』七「熱気がさすほどに」

▽ねむけ、いやけなどが知らないうちにはいりこむ。 ひし「厭気(眠気)がさす」 ◇『滑稽本七偏人』三「些と甘(うめ)へ事が有らうとすると、直に魔のさすと言なア世の中の当然だから」