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かなし

【かなし(悲し,哀し,愛し)】[kanasi]

◆自分を惹きつけるものに直面しながら、そのものを自分ではいかんともすることができないと感じるときの、切ない心のありよう。「しかねる」の「カネ」と同語源。

どうしようもなくひきつけられ、かつどうすることもできない葛藤にはげしく心が揺さぶられるさまを広く表現する。古くは悲哀にも愛憐にもいったが、現代ではもっぱら悲哀の感情に用いる。

▼(愛)どうしようもなく切なく、いとしい。かわいくてならない。 ◇『万葉集』四一〇六「父母を見れば尊し、妻子(めこ)見れば可奈之久(カナシク)めぐし」 ◇『伊勢物語』八四「ひとつ子にさへありければ、いとかなしうし給ひけり」

▼(悲、哀)痛切である。なんとも切ない。

▽どうしようもなく切ない。死、別離など、願いにそむくことに直面して心が強くいたむ。なげかわしい。いたましい。 ◇『万葉集』七九三「世の中は空しきものと知る時しいよよますます加奈之可利(カナシカリ)けり」 ◇『源氏物語』桐壺「限りとて別るる道のかなしきにいかまほしきは命なりけり」 ◇『平家物語』六「かやうに人の願いも叶わず、民の果報もつたなき人間のさかひこそかなしけれ」 ◇母の死ほど悲しいことはなかった。 ◇悲しいかな、それだけの実力がない。

▽ものに強くひきつけられ、心にしみておもしろいと感ずる。しみじみと心を打たれる。 ◇『万葉集』四〇八九「百鳥(ももとり)の来居て鳴く声春されば聞きの可奈之(カナシ)も」 ◇『宇治拾遺物語』六・五「あはれに尊く、かなし、いみじと思ふことかぎりなし」 ◇悲しい曲だ。

▽他から受けた仕打ちがひどく心にこたえるさま。残念だ。くやしい。しゃくだ。 ◇『無名抄』「入道がしかるべからん時取り出でんと思ひ給つる事を、かなしく先ぜられにけり」 ◇彼までが誤解していると思うと悲しい。



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